建物の中に部屋は三つしかなかった。
入り口を入ってすぐの広い部屋、その奥に何もない小さな部屋が二つ。ひとつはドアがあり、外へ通じていた。そのドアを抜けると片側には大きな瓶が二つ並ん であり、反対側には小さな小屋があった。前は背丈ほどの草が生い茂っていて先へ行けない。
「あ……」
けれど、それは単なる藪だと思えなかった。適当な実を折って、皮をはぐと小さな黄色実が並んでいた。
「とうもろこしだよ」
潤は後ろにいたアドニスに手渡した。
「……そうだね。長い時を隔て受け継がれてきたことの意味が変わっていってしまったんだ、きっと」
アドニスが手の中ものをきゅっと握りこむ。それは生きていくためのものだった。

荷を片付けていたら日は落ちてしまった。食事はエディが用意してくれたものがあって、一日目はそれで済ませた。明日からは自分達でやらなければいけない。
小さな部屋にラグを敷いて、そこを寝室にした。隣の部屋には簡単な釜を作って火をおこした。火をおこすといっても、燃やすものさえあればアドニスがやって くれる。水が欲しければ、アドニスが雨を降らせてくれる。瓶に溜まっていた水はさすがに怖くて、全部空けて新しく入れた。
水を沸かして体の汚れを流し、その後ラグの上でケットの包まり、二人で見詰め合っていた。
「疲れた?」
アドニスが訊いてくる。
「……欲しい」
二人きりで夜を過ごすのは久しぶりだった。
「僕も」
腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられる。口を塞がれて、組み敷かれていた。
「ずっと欲しかった」
アドニスが耳元で囁き、そのまま唇が首筋を這っていく。息はすぐに荒くなっていった。

舌が露になった肌を撫でる。
「んっ……」
息ともつかぬ声がでてしまう。
「潤……」
アドニスの手は全身を撫でるように、そして、敏感のところを優しく包み、奥へ手を伸ばす。
男に組み敷かれている自分をなんか変だと思いながら、潤はされるまま愉悦に浸っていた。
静かだった。
ただ、二人の声と息だけが部屋に響く。
触れているところは温かくて、触れられるところは熱をもっていく。
「一度だけ、と思ったんだ」
アドニスが呟く。
「え?」
「どうしても触れたくて、我慢できずに部屋まで行って、寝顔を見ていたら、潤が目を覚まして。だから―――― 一度だけ。どうせ記憶は消してしまうのだか ら。そう簡単に考えてた」
「ずるいよ。朝起きたらいなか……った」
潤が文句を言うと、アドニスが唇に軽く触れてきて、上から見下ろしてきた。
「ごめん――――父上の言っていたことが始めて分かった。潤を帰したくないと思った」
それで、いなくなっちゃったわけ?
そう思ったら、間違ってるよ、と思った。
「俺は、嫌われたかと、思った」
触れ合う肌の心地よさに体の力が抜けていく。
「その反対だよ」
アドニスが笑った。
「一回だけ、と決めたそれをもし破ってしまったら、もう帰せなくなるような気がした」
上からぎゅっと抱きしめてくる。
お互いのものが体の間で擦れあって、それがまた熱になる。

「アドニス……欲しい」
体の奥は熱くて、満たされるものを待っている。
「もう、帰せないよ」
「ん」
潤は自分から足を開いた。
傍に居ると決めた。
アドニスの指が窄まりに触れて優しく撫でる。
「んっ……」
撫でられて、そこは次第に湿り気を帯びてきて、ぴちゃと淫猥な音を立てる。欲しがってひくつく感触が潤は自分でも分かった。
もう知っているから、体が欲しがる。
「アドニス……」
ねだるように呼んだ。少しぐらい苦しくても欲しいと思う。
指を抜かれて熱いものがあてがわれる。早く――――そう思った。押し開くように入ってくるそれに、感じるのは愛しさだった。
「潤……」
アドニスの声が熱かった。
ゆっくりとアドニスが腰を動かす。
「もう、離さない」
熱を吐き出すように、アドニスが言う。
もう、置いていかれるのはごめんだと思った。
「絶対だよ」
ずっと、傍にいたいと思う。
「絶対――――」
突き上げられて思考は止まる。感覚の波にただ酔わされていた。



光が揺れていた。
アドニスの放つ光と自分が放つ光が共鳴するように揺れる。満たされた体は、光に包まれていた。
「温かい」
空に浮かんでいるような意識の中で、潤は体の奥から熱を感じていた。
「僕も」
すぐ横に愛しい人がいて、手を伸ばして触れると、笑ってくれる。
「幸せって、こんなことを言うのかな」
包む空気が優しかった。
触れる肌が温かかった。
全てのものを愛せそうな気がした。
「潤と出会えて、よかった」
「俺も――――」
潤は同じ思いを感じて、体だけでなく心も繋がった気がした。

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