ずっとこうしたかった気がした。
温かい唇を貪って口内に舌を差し入れて、経験なんてないくせに体は勝手に動いていた。
「ん……」
アドニスが声を漏らす。そんなことで高ぶってくる。ぎゅっと体を抱きしめたら、アドニスのものを感じた。きっと、アドニスも同じだろうと思う。
ちゃんと感じてるじゃん――――そう思って潤は嬉しかった。
「我慢できない」
唇を離すと、首筋に唇を這わせながら呟いた。
まさか、こんな青空の下でやるわけにもいかない。神殿でいいのかなと思いながらも、そんな気がかりを蹴飛ばす気持ちがある。やらずにいられるわけなんて無
かった。本音を言えば、ずっと欲しかった。
「だめだよ、ここじゃ……」
アドニスが荒い息の中で言葉にする。
「じゃ、どこならいい?」
「とりあえず中に、その前に荷物を運ばないと……」
アドニスが手を体の間に入れて剥がそうとする。
――――荷物?
そう言われてそう言えばバーニーとアーリーが運んでくれた日に日に高くなる箱の山があったと思った。
神殿の中に入ることはできないからと、入り口にうずたかく積まれたものを見て、何人分の引越し荷物だ、と思った記憶があった。普通の一軒家なら物を入れた
だけで歩くスペースがなくなりそうな量だった。
あれを運ぶのか、と少し萎えた気分になり、後ろを見ると、その山は十分の一ほどにこじんまりとなっていた。
「あれ?」
「必要最小限のものだけにして後は返した。今までの生活を持ち込むつもりはなかったから。だけど、潤もいるなら、少し残しておけばよかったかな……」
アドニスが後悔するように言う。
「いや。俺はアドニスがいればいいよ」
ぎゅっとアドニスを抱きしめた。後はどうにでもする。アドニスが居ればなんでもできそうな気がした。
「運んでしまおう」
アドニスが言いながら体を捻り背を向ける。ずっと腕に抱いていたいのに、と思った。けれど、そういうわけにもいかない。
アドニスが開いた両手をゆっくりあげると、荷物がふっと浮く。
自分で運ぶ必要はないんだ、と潤は思った。
「あ……」
門を入って少ししてアドニスが突然立ち止まった。
「何?」
「もう戻れないよ」
アドニスが悲しそうな声を出す。
「いいよ」
それは自分の意志で選んだことだった。
諦めたらしいアドニスは、力なく笑った。
門の中に入ると、建物が姿を現した。なんの装飾も施されていない、質素な石を積み上げられた建物は、所々に窓を持ち中央に頂点を持つ赤いレンガの三角形を
した屋根をもっていた。広いアーチ型の入り口はドアもなく、その中は暗く思えた。
建物の前の石畳はところどころから草が顔を出していて、建物周りは草で覆われていて、蔓が上に伸び建物に絡み付いている、心霊スポットだと言われて納得す
るような荒れている印象をもった。
当たり前だ。長い間、人の手は入っていない。
その中へ入ることは躊躇う気持ちが先に立った。
中から何が出てきてもおかしくない。何が出てくるか予想なんてできない。
アドニスは持ち上げていた荷を下ろして立ち尽くしていた。潤も隣で、建物を見上げた。
外でキャンプした方がいいんじゃないの?
と潤は思った。
けれど、アドニスは違ったらしい。一歩足を出した。
「アドニス?」
行くのか? そう思った。
「潤はそこで待っていて、僕が中を見てくる」
背を向け建物を見つめたまま言葉にする。
「行くよ」
一人で行かせては意味がない。何かがあってからでは遅い。
「いいのに……」
振り返ってアドニスが笑う。
「いや」
アドニスの先に行くように潤も足を出した。
入口を覗くようにして、中の明るさに驚いた。天井は頂点が細く空いていて、空が見えていた。そこから明りが差し、部屋の中を照らす。
石畳の上にぼろぼろのマットが敷いてあるだけの、広い部屋がそこにはあった。
長い間使われていなかった建物のはずなのに、少しの埃っぽさはあるけれど、外ほど荒れていえうようには思わなかった。
窓にガラスはなく、草の合間から森からの心地よい風が流れ込んでくる。その風がこの建物を守っているように思えた。
奥の壁は彫刻が施されていて、裾が長い服を着た人が広げた両手の間に丸いものを浮かせている絵が彫られていた。ただの太い線で描かれた簡単な絵だった。
アドニスは何も言わず、その彫刻へと歩いて行った。潤も後をついて行くと、彫り物の前でアドニスは膝をついた。
「アドニス?」
何があったのだろうと思う。何も感じなかったし、何かがいたとも思わない。
「僕が、どうするべきなのか分かった……」
アドニスが搾り出すような声を出す。
「え、なんで? この絵には何かあんの? 」
見る人が見ればすばらしいものなのかもしれない。けれど、潤には分からない。
「気力で語りかけてくる。きっと、力あるものだけに伝えるために施されているんだ。この地を守るための最後の方法を――――」
アドニスはそのまま、しばらくそこを動かなかった。
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