母親が違うのだから当たり前といえばそうなのだろうけれど、コリンとアドニスは似ていなかった。整った顔立ちのア ドニスとは違い、コリンは可愛いと形容するのが相当しい幼さが滲む顔立ちをしていた。

長椅子に潤はアドニスと並んで座り、向かいにコリンが座った。
「話というのは?」
「その前に、この方はどういった方なのですか?」
コリンが潤を見る。
「あ、俺、いない方がいいよね。ケンを捜しに行ってくるよ」
潤は立ち上がろうとしたのに、アドニスに止められた。
「潤は神獣が選んでくれた人だ」
アドニスがコリンに向かって言うと、コリンは不思議そうな顔をした。
「え……、あ、すみません」
意味もなく謝ってくる。
「男性だと……思ったので、そこまで考えが及びませんでした。いいのですか? 宮を離れて」
アドニスに向かって、コリンは心配そうに言った。
「潤は男だよ」
アドニスが苦笑いをしながら答える。
何度聞いた台詞だろうと思う。神獣と聞けば、無条件に女だと思うらしい。
「えっ」
驚いた顔をして、潤の顔をまじまじと見て、何かを思いついたような顔をして、コリンは頷いた。
「そういうことでしたか。やっと、納得がいきました」
それは良かったね――――そう潤は心の中で呟いた。
「だから子を成すことができないのですね」
――――当たり前だっ!
今度は叫んだ。心の中ではあるけれど。
「父上は、酷く慌てていて――――あれほど取り乱した父上を見るのは初めてて、初めて父上を近くに感じることができました」
「そう……」
アドニスが俯く。
何かを思うように長い睫が二度三度揺らめいた。
「父上がお兄様を助けてやってくれと、僕に膝をつくんです。信じられます?」
コリンがふっと口元を緩める。
アドニスは何も言わず、きゅと目を瞑った。
「そんなことしなくても、いつでも優しかったお兄様は僕にとっても大事な人なのに――――」
コリンが言葉を詰まらせて、しばらく沈黙が流れた。

「アドニスっ」
ふいにドアは開いて、ケンが飛び込んできた。
「ケン、お邪魔しています」
コリンが席を立ち、頭を下げる。
「あ、いいえ。このようなところに――――」
ケンは膝をつくと、頭を下げた。身を硬くしているようなケンの緊張が空気を通して伝わってくるようだった。
「コリンさまはどのようなご用事で……」
ケンは頭を下げたままコリンに問い掛けた。
「お兄様を掴まえに来たわけではないので安心してください。ただ、お兄様に伝えたいことがあって来ました。というより、お兄様に会うことはできないと思っ ていたので、ケンに伝えてもらおうと思ったのですが、偶然お会いすることができて、良かった」
「そうですか――――」
ケンの力が抜けたような声に、空気が緩んだことを潤は感じた。
「では、私たちはいない方がよろしいですね」
いつもとは違う丁寧な言葉をケンが使う。
「いいえ、ケンもアーリーも居てください」
ケンの後ろにいたアーリーにもコリンは声をかけた。

椅子がそんなにあるわけはなく、潤が横を空けようとするとケンが仕草で制した。
ドアを閉め、ケンとアーリーは壁を背に立ち、話を進めてくれるよう、ケンはコリンに促した。

「単刀直入に申します。お兄様、僕に時間を下さいませんか? あと三年、その時が過ぎても子に恵まれなかった時は、僕が地上からの者を呼びます」
コリンの言葉にアドニスはニ三度瞬きをした。
「でも、そのことに意味はあるの? コリンがサライを迎えてから三年はとうに経つ。それに、僕は、コリンとサライには今までのようにいて欲しい」
アドニスが言いながら、顔を歪める。
「僕たちはまだ、契ってはいません」
コリンの言葉に、空気が硬くなった。
「なぜ? もうあれから――――」
アドニスが声をあげる。
「サライに力はありません。僕はお兄様にこの地を継いで欲しいと思っていました。ですから、もしもという可能性を無視はできませんでした」
「あ、そんな……」
アドニスが唇を噛み、顔を背けた。
「ですから、時間を下さい。サライは――――」
コリンは一度言葉をきった。
「待つことはないと、僕の子ならば愛しいと言ってくれました。けれど、僕はもしかしたらという可能性であってもあるのなら、それにかけてみたいと思いま す。だめでしょうか?」
コリンの問いかけに答えるものはなく、場は静まり返った。

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