「答えないってことは図星ってことだな」
ケンは念を押すように言う。
「今は、そんなこと言ってる場合じゃないよ。早く、潤を捜さないと……」
「それしか考えられないのか?」
「なんでそんなこと言うんだよ。当たり前だよ。誰だって、潤じゃなくたって、誰だっていなくなったら――――」
アドニスが声を詰まらせた。
「今、お前が宮を離れたら、あいつの命が危ないってことも考えてないだろ」
「え?」
アドニスが驚いたような声をあげる。
――――ちょっと待てよっ
そう思いながら潤は体にかけていたケットを握り締めた。自分の知らないところで何かが回っていく。
「お前が宮にいる限りデータスさまも手出しはできないだろう。表向き、地上の者を迎えている宮には誰も近づけない。だけど、お前が宮を離れれば別だろ?
お前さえ掴まえてしまえば後はどうにでもなる」
「あ……」
「お前がいなければ、あいつの命なんてデータスさまならどうでもできるだろ。道に迷うことなんかより、そっちの方があいつにとってずっと危険だと、気づか
ないほど愚かじゃないだろ? マントも羽織らず空を飛んで、データスさまがお前の光に気がつかないはずはないだろ?」
「……帰らなきゃ」
呟いたようなアドニスの声の後、がたんと椅子が倒れた音がした。
「無理するなよ。まだ体は戻ってないんだろ? よく来れたな」
「あ、でも、そんなこと言ってられないよ、潤が……」
「そのままじゃ宮までもたないぞ」
「でも、帰らなきゃ……」
「まともに歩けもしないくせに、飛べるわけないだろ」
「でもっ、じゃあ、どうすればいいんだよっ」
「少し落ち着けよ」
「落ち着けるわけないだろっ。今こうしている時にも、王宮からの使者がくるかもしれない。今の僕に対抗する力はないよ。そうしたら、潤は――――」
「あいつが、そんなに大事か?」
ケンの言葉が部屋に響いた。潤は自分の手が汗ばんでいることに気がついた。アドニスが真剣に自分のことを心配してくれているのは分かるけれど、出ていくべ
きかどうかは分からなかった。
ケンが何も言わない。そのことは、ケンに何か考えがあるのだろうと思う。気に入らないところがあるやつではあっても、アドニスのことを真剣に思っているの
だとは思う。
何も知らない自分がでしゃばっていいのか分からない。
「……分からないよ」
消え入りそうな声でアドニスは答えた。
「でも、あいつを助けたいんだろ? 何よりも。自分の命さえ引き換えにしても」
「もともと、僕は神殿に自分を捧げるつもりだった。後継ぎを残せない王族なんて意味がないものだよ。だから、だから、それは、潤のためだけじゃない」
「でも、じゃあ、なぜ、潤をすぐに返さなかった?」
「……分からないんだ。口が勝手に頭で考えていることとは違うことを喋るんだ。何言ってるんだよ、って思いながら止まらなくて。だめだろって思いながら、
体が勝手に動くんだ」
「それって、あいつが好きだってことじゃないのか?」
潤はどきっと心臓が跳ねた。
「……分からない。こんな風に思うのも、苦しいのも初めてなんだから」
アドニスの声に胸が苦しくなる。自分の気持ちも同じだと潤は思った。
「あいつ帰していいのか?」
「どうしろって言うの? それ以外ないよ。それを潤も望んでる。それより、潤が無事でいてくれなくちゃ何にもならない――――ケン、どうしたらいい? 何
も考えられないんだ。今どうしているんだろうって思ったら、それ以外何も考えられないんだ」
アドニスの声には焦りが滲んでいた。
――――どうしよう
今更のようで、潤は出ていくことを躊躇い、ベッドの上で身を硬くしていた。どんな顔をして、何を言えばいいのかと思う。これほどの心配をさせるとは思って
いなかった。
「潤は俺が捜してやるよ。とりあえず、お前は休んだ方がいい。データスさまにしばらく時間を欲しいと言ってある。お前が宮を離れたことを知っても、すぐに
は動かないだろう。だけど、それもいつまで我慢していただけるか分からない。とにかく、休んで力を戻さないと何もできないだろ?」
「……ホントに?」
「ん?」
「本当に、潤を捜してくれる?」
「ああ、約束するよ――――起きてるんだろ?アドニスにベッドを譲ってやってくれないか?」
アドニスにかけたと思われる言葉の後、一際大きくなった声は、自分にかけられているのだと潤は思った。体を起こすとベッドを降り軽くベッドを整えると、潤
は明りの差すほうへ歩いた。
入り口まで来ると眩しくて、一瞬目をつぶってしまった。
「潤?」
怪訝そうな声が聞こえて目を開けると、ケンに抱きかかえられたアドニスが零れそうなほど大きな瞳を見開いていた。
「……ごめん」
潤は謝りの言葉を口にしていた。
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