「記憶は全て戻ったはずだよ。だから、もう夜も遅いから、潤は部屋へ戻った方がいい」
アドニスが一歩後ろへ下がった。
「なんでそんなこと言うわけ?」
最初に夜遅く部屋に来たのはアドニスの方だった。
「もう何も疑問はもたないって約束だよ」
アドニスが小さくかぶりを振る。
――――全てそれで通すってこと?
何も肝心なことは分からないまま、帰れと?
潤はアドニスを訝しげに見上げた。
「帰る時はまた、ここでの記憶は全て消してあげるよ。小さな部屋で意識が戻った時、あの時いたのが自分のベッドの中だったら何も疑問は持たなかったでしょ う? だから、これから何を知ったとしてもすぐに消される意味のないことなんだ。知る必要はないよ」
アドニスが言い切る。
それは、アドニスの言い分だと思う。ただ、もう何も教えてくれる気はないのだろうと思った。
きっとそれは堅い意志で、アドニスがその気になれば自分は何もできない。
あの時も、記憶を消されるのだと分かりながら何もできなかった。
「いいよ」
潤が言うと、アドニスが意外そうな顔をした。
「でも、だからって、部屋に戻らなければいけないってことはないだろ?」
続けると、アドニスは不安そうに顔を歪める。
「おいでよ」
潤は立ち上がってアドニスの手を取ると自分の方へ引き寄せた。
「潤?」
驚いたようにアドニスが見てくる。
「最高の相性なんだろ?」
比べるものをもたないから最高かどうかなんて分からない。けれど、それは確かに今まで自分が経験したことのない愉悦だった。

「潤、だめだよ」
アドニスが顔を背けるように、手で胸を押した。
「なんで?」
と訊いて、答えてはくれないかもしれないな、と潤は思った。
「何も訊かない約束だよ」
アドニスが顔を伏せたまま答える。それは予想できたことだった。答えてくれないアドニスをどうにかできる力はない。
「そうだったね。でも、何もしないっていう約束はしてないよな」
アドニスの手を引くと、潤はベッドの上に自ら倒れこんだ。
「あ……」
手を引かれたまま覆い被さってくるように倒れるアドニスを抱き込むと、体を捻って組み敷く。少しは抵抗するかと思っていたのに、何の抵抗もないまま潤はア ドニスを見下ろしていた。
嫌ならどうにでもできるはずだった。
本人の意志に関係なく直立不動で立たせておくことができるはずだ。
ただ、バーニーもアドニスも必要に迫られた時にしかその力を使わないのではないかと思う。体を縛られたことは二回しかない。あの時は、必要だったのだろう と思う。
丈の短い寝衣は裾が捲くれ上がり、足が直接触れていた。
「どうするつもり?」
アドニスが不安げに見上げてくる。
なんでこんな顔をするんだろうと思う。嫌なら抵抗すればいい。それだけの力を持っているはずだ。それに、初めて会った時のアドニスにはこんなに弱弱しい表 情を見せることが想像できなかった。
初めての夜、誘ってきたのはアドニスだ。
「どうされたい? あ、そうか。訊いちゃだめなんだよな」
少し非難めいた声になってしまったと潤は思った。いくら訊いても答えてくれないアドニスに苛つきはある。
「ここに訊いてみた方がいいか」
潤は寝衣の裾を割り手を差し入れた。すぐに手は目的のところに触れる。触れたことにアドニスはぴくんと体を震わせ逃れるように体を捻って背を向けた。
「なんだ――――」
潤は意外だった。
すぐに手から離れてしまったアドニスのものは既に熱を帯びていた。
「その気なんじゃん」
耳元で囁くとアドニスが体を堅くするように丸める。
「いいじゃん。別に何も変わらないんだから」
それが困る種でもあるのだとは思う。
子供が生めれば何の問題も無かったわけだ。絶対に無理だけれど。
アドニスを抱き込むようにして潤は手を前に回した。ただ羽織っているだけに近い寝衣に手を入れることは簡単で、差し入れた手で肌を撫でた。すべらかな肌は 手に吸い付くように馴染む。胸が高揚してきて体の奥が熱くなってくる。
「潤……だめだよ……」
アドニスの声は震えていた。
「嫌ならやめさせればいい、あんたにはその力があるだろ」
潤は不思議と強気になれた。力を使うつもりならもう使っているだろうと思う。それに、せいぜい体の自由を奪われるだけだと踏んでいた。
手に触れた胸の突起は堅く形を持っていた。
「っ……」
アドニスが小さくうめく。
やめられないよな、と思った。体の熱は広がっていくばかりだ。もう一度、あの愉悦を味わえるのかと思う。体の中で快感が波のように揺らめいていたあの時 は、もう一度と言わず、二度でも三度でも浸りたい。
けれど。
それにはアドニスがその気になってくれないとだめだ。何の準備もしていない。聞きかじりの知識だけだけれど、それなりの準備が必要なことは知っていた。
頑なに拒むように体を丸める、アドニスの首筋に唇で触れた。ぴくっと確かに体は反応する。けれど、簡単には体を開いてはくれないだろうと潤は思った。

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