「あっ、アドニス」
思わず引いてしまった潤の体はアドニスに押さえ込まれた。
「じっとしてて」
一度口を離し、また含み、アドニスの舌がなで上げるようにする。
「っ……」
温かく湿った中に捕らえられ、神経を撫でるようにアドニスの舌が動く。下から上へ撫で上げるように、先端をさわさわとくすぐるように。
「はっ……、あ、んっ」
潤はアドニスに捉えられているところだけでなく全身の神経がアドニスの手の中に落ちているように感じた。足も手も雲を掴むように頼りなくて、ただ、与えら れる刺激だけに敏感になっていた。
「あっ、あ――――アドニス、やめ……」
体が自然に仰け反ってしまう。このままではアドニスの口の中に出してしまいそうだと思う。アドニスを自分のものから剥がそうと手を伸ばしても、アドニスの 柔らかい髪を指に絡めただけで力つきてしまった。足はもっと頼りない。ただシーツの上を滑ることしかできない。

「アドニス……だめだっ、でるっ……」
言葉では抗っても体は言うことを聞かない。
男なら分かるだろうと思う。ぴんぴんに張り詰めたそこはわずかに残っている理性が抑えているだけだった。
潤の言葉など聞こえないかのようにアドニスは愛撫を止めない。それどころか、ゆっくりした動きだからこそ抑えられた熱を促すように動きを早めた。
「あ、やめっ――――」
抑えることはできなかった。
快感を吸い取られるように一瞬意識が掠れて、次には自分の吐く息が耳の中で響いていた。その中でアドニスが喉をごくりと鳴らす音が聞こえた。
高揚の後の脱力感と情けなさが潤の中で同居していた。

「なんで、そんな顔してるの?」
アドニスが覗きこんでくる。
「……ごめ……」
謝りながらあんなことされてイかないわけないだろう、と思っていた。
「謝ることないよ。僕がしたくてしたんだから……」
アドニスが目を細めて頬を撫でる。
「それとも、あんまり良くなかった?」
「そんなこと――――」
言葉の代わりに潤はかぶりを振った。体の力が抜けて意識が飛んでしまうほど良かった。
「良かった」
アドニスが覆い被さるように、体を抱きしめてくる。
してもらってお終いってわけにはいかないだろうな、と潤は頭の片隅で思った。
探るように手を伸ばして、アドニスのものに触れた。
「ん……」
アドニスが鼻から抜けたような声を出す。
触れて、潤はどうしようと思った。
いいのだろうか触れていて、口に含んでいいのか?
躊躇いながらも摩るように触れていると、アドニスの息があがってきて、触れているものも熱を持ってくる。
「いい?」
「ん……」
アドニスが顔を上げる。少し瞳が潤んでいるように見えた。
アドニスと同じようにしていいのか、聞きたかったけれど、それも無粋な気がした。だからといって、いいとも言われていないのにやってしまうことも躊躇われ る。自分だけがいい思いをするのもずるい気がする。
何より、女の経験もなければ男との経験なんて欠片もない。アドニスがしてくれたようにすればいいと思っても、気持ちは良かった。けれど、どんな風にしてく れていたかなんて今でさえよく覚えていない。ただ気持ちよくて、その刺激に酔っていた。
「初めて?」
アドニスの問いかけに潤は言葉に詰まった。初めてだと応えるのもなんだか恥ずかしい。
「そうだよね。いいよ、無理しなくて」
「いや、俺も――――」
無理するなと言われるとかえってやらなければいけない気がした。体を捻ってアドニスに入れ替わろうとしたら、反対にアドニスに押さえ込まれてしまった。細 く見えるのに、力はけっこうあるらしい。
「いいよ。無理しなくて」
アドニスが小さく笑う。
「いや、無理なんかじゃなくて……」
躊躇ったのは嫌だからじゃない。触れてしまうことに臆してしまうのは、自分にその資格があるのか自信がないからだ。
「でも、不安そうな顔してる」
アドニスが心の奥まで見透かしてしないそうにまっすぐ見てくる。
「……心まで……読めるのか?」
何ができると聞いてもあまり驚きはないような気がした。
「そんなことはないけど……潤は正直だね。全部顔にでるみたいだよ」
――――え?
「ほら、驚いた」
「そんな……」
思わず潤は手を自分の頬に持っていった。
それほど感情を表に出す方だとは思っていなかった。
「瞳にほんの少し影がさす。潤に人は騙せないね」
人を騙す予定はないから、それは一向に構わない。けれど。
「何が、不安?」
上から見てくるアドニスが首を傾げる。
「あ……」
何が、というわけじゃない。不安の材料をあげていったらキリがないように思える。
三年後、自分はどうなるのか。
家に帰れたとしても、ここで過ごした時間はすっぽり抜けてしまう。その穴埋めはどうするのか。
暇の塊になりそうな日常をどうすればいいのか。
悪友達は自分のことを覚えていてくれるのだろうか。
部屋のすぐ分かるところに変なもの置いてなかったよな、とか。
差し迫って一番不安なのは、自分が組み敷かれていることだ。
相手が女ならまだしも、自分に覆い被さっているのは男なんだから、この状態というのはもしかしたら、と思う。
「心は読めないから言ってもらわないと分からないよ」
アドニスは悲しげに顔を歪めた。
「あ……男同士って、どうやって決めるんだろ……」
どっちも持ってるものは同じだから、どっちもできるってことだ。
アドニスはきょとんとした顔をした。
「何を?」
「いや、だから、その……」
入れる方と入れられる方だよ!
心の中じゃ叫べるのに、アドニスを目の前にして言うことは憚られた。
二人とも裸で下半身は密着していて、おまけに自分はもう一回イかされている、この後に及んで何を遠慮しているんだとも思うけれど、喉から先へ言葉が出てい かない。
はっきり言葉にしないからか、アドニスは視線を彷徨わせて何かを考えているようだった。
「それは、どっちがどっちかってこと?」
「あ、そうそう」
言いたいことが伝わったようで潤はほっとした。
「どっちがいい?」
「え……」
聞かれると困った。どっちが良いと言えるほど経験がない。
「じゃあ、決まりだね」
にこっと笑うと、アドニスは手を滑らせて潤のものを優しく包みその下のものをもみしだくとその奥へ手を伸ばした。


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