優希がふと気がつくと、体が浮いていた。
「あれ?」
ベッドの上に寝ていたはずだった。
なのに、眼下にオレンジや緑、赤の色とりどりな光が見える。まるで、高いビルの上から夜景を眺めているようだ。
「わんっ」
犬の吼える声が聞こえて声の方を見ると、少し自分より上にいる今日拾った子犬が自分を見下ろしている。
「何?」
なんでこんなことになってるんの? と優希は思った。
色とりどりの光はどんどん遠くなっていく。自分の周りは真っ暗で、けれど、上には満天の星空があった。星座の区別もつかないほどの星々が光っている。
夢?
そう自問自答して。
そうだよな。
自分で結論を出した。
体はふわふわしていて気持ち良い。
本当に空を飛んでいるなら、風を感じていいはずだし、これほどの高さなら、ひどく寒そうだ。
けれど、そんなことは少しも感じない。
白く光る子犬はどこを目指しているのか、上へ上へとあがっていき、自分も上へ上へとあがっていっているように感じる。
このままいくと空気の層を抜けて宇宙へ飛び出してしまうんじゃないか、と思う。
そうなったらどうなるんだろう。
でも。
夢だからそれもいいかも。
心地よさに眠気が戻ってきて。
星々に囲まれるのもいいよなあ、と思いながら意識は落ちていった。
「ん……」
優希は寝返りをうって、はっと我に返って体を起こした。
子犬と一緒に寝ていたはずだった。下に敷いてしまったらきっとひとたまりもないだろう。
「あれ?」
真っ先に目に入ってきたのは、いつもと違う風景だった。
広い部屋には中ほどに木製のテーブルが置かれていて、向かいあうように椅子が二つ置かれている。それらには、細かい彫刻が施されていた。
ずっと先にある部屋のドアにも細かい彫刻が施されている。
自分が寝ているベッドには柱があり、光沢のある薄いベージュ色のカーテンが柱の中ほどに括られるようにして垂れている。
「目が覚めた?」
垂れているカーテンを手で退くようにして、顔を出してくる人がいた。
「え?」
それは見たことがない人で。
栗色の髪が肩できれいに揃えられて、白い肌で優しげな目元にすっと鼻がとおり、少し赤みをもつ唇が少し開けられていて。
優希はその人を見つめたまま、一瞬頭が真っ白になった。
雑誌に出ているモデルなんかよりずっときれいな顔立ちだと思った。こんな人がいるのだと、驚きとともに、感嘆を覚えた。
「大丈夫?」
心配そうにその人が見てくる。
「え、あ……」
声をかけられてうろたえてしまう。言葉がでてこない。
「そんなに怖がらなくてもいいよ。何もしないから」
「え、あ、はい……」
別に怖がってはいなかったけど、と思ったけれど、何も言えなかった。
「で、どうするんだ、クラウス」
別の人の声が聞こえて、そちらへ視線を向けると、黒く長い髪を後ろを束ねているやつがいた。程よく焼けた肌色にきりっとした涼しげな目元に高く整った鼻、
背も高く体格も良く、丈の長い上着は脇に深くスリットが入っていてその下にはズボンをはき、腰に短刀を身に付けているやつが、窓辺に立っていた。
「どうするも、何も……」
クラウスと呼ばれた、大丈夫と声をかけてくれたやつが頭を振った。厚手の光沢がある丈の長い衣類を身につけていて、首には銀色のチョーカーが光り、服自体
には金色の刺繍が施されている。
二人とも現実にはお目にかかったことがないようないでたちで、ドラマか映画の中に入ってしまったようだと思った。
「アレッカは?」
「前代未聞だってショック受けて、熱出して、寝てる」
クラウスの答えに窓辺に立っているやつが、くっと笑う。
「アレッカ、らしいな」
笑いは止まらないようだった。
「シェン、笑ってる場合じゃないよ」
「分かってるよ」
そう言いながらも、シェンはまだ笑いを止めない。
「そう悲観することもないんじゃないの?」
シェンと呼ばれたやつが近づいてくる。
ベッドの脇に立つと、すっと頬に触れてきた。
「何するんだよっ」
優希は咄嗟に、シェンの手を払いのけていた。シェンは一瞬不快な表情を浮かべ、そしてふっと笑った。
「可愛い顔立ちしてるし、お肌もまだつるつるだ、ちょっと手を加えれば誤魔化せるんじゃないの?」
「そんなことをして、もしばれたら大変だよ」
「じゃあ、どうすんの?」
「……熱を出して寝ている、とか……」
「いつまで?」
「それは……」
「見舞いにくるって言われたら?」
シェンの言葉にクラウスはごくりと喉をならした。
「一回見せれば、王様他側近達も安心するだろう。後のことは、その後で考えればいいんじゃないの?」
「でも」
「神獣が選んだのがこいつだったんだろう? ってことはこいつがお前の最高のパートナーってことだ」
「でも、この子は男だよ」
「だから、最高だろ?」
シェンが意味ありげな顔をする。
「それは――――」
クラウスがシェンから顔を逸らした。
「ごちゃごちゃ考えたところで、成丁の儀は明日の晩だ。何ができるっていうんだよ。誰か、身代わりを捜す? そっちの方がばれたらよっぽどマズイと思う
な。確実に、お前は騙そうとしたことになるだろ? 」
「……騙すことには変わりない」
クラウスが憮然とした声を出した。
「別に騙すわけじゃない、ちょっと着飾らせるだけだ。お前名前は?」
「え、優希」
突然聞かれて、優希は反射的に答えていた。
「ゆうき、か。それならいいだろう」
「ちょっと待ってくれよ」
優希は思わず声を出した。
自分のことで何か勝手に決められていくようだった。
「心配することはない。ただ、ちょっと女装してもらうだけだ」
「は?」
還ってきたのはとんでもない言葉だった。
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