ご飯にみそ汁
ご飯にみそ汁、お漬物。
それに、鮭の焼いたものに、のりに、生卵。
目の前の置かれた朝食はいつものもので、圭太は家に居る限りこれ以外の朝食を食べたことがない。
「たまには、パンもいいんじゃないの? 」
みそ汁の椀の少しだけ箸をつけて、その箸を口に挟みながら圭太はぼやいた。
「何言ってんのよ。日本人の朝はご飯にみそ汁に決まっているでしょ。和哉くんも言っていたじゃない」
流しに向かって洗い物をしながら、母親が言う。
――――何年前の話だよ
心の中で呟きながら、圭太はみそ汁を一口すすった。
確か、中学一年生の時だった。
田舎で法事があるとかで、丁度試験期間と重なっていて、日帰りじゃ帰ってこれない場所で、夜一人じゃ心配だということで、和哉が一晩泊まりに来たことが
あった。
試験中だから遊ぶことはできなくて、一緒に風呂に入って、夜遅くまで試験勉強をしてベッドの横に布団を敷いてそれぞれ大人しく寝た。すぐに寝息をたてて
いた和哉とは違い、圭太はなかなか寝られなかった。
あの頃、圭太は自分の気持ちをはっきり自覚していたわけではなかったけれど、和哉の寝息の聞きながらどきどきした記憶がある。
それでも、何時の間にか寝ていたみたいで目覚ましがなってはっと目が覚めたとき、むくっと起き上がった和哉が、頭をかきながら目蓋が重そうに半分も開い
ていない目で「おはよう」とぼそっと言った。
寝癖で髪の毛が立っていて、ほんとに眠たそうで、大きなあくびまでして。
きっとこんな姿は誰にも見せないよな、と思った。ちょっと得した気分だった。
着替えて、顔洗って、寝癖も直して、食卓についた和哉はいつものきりっとした和哉になっていた。
「おいしい! やっぱ、朝はみそ汁ですね」
なんて言いながら、みそ汁をすすっていた。
「ごはんとみそ汁にお漬物はやっぱ、定番ですね」
なんて言っていた。
「そうよね」
なんて言いながら、母親は嬉しそうだった。
そりゃ、日本人だけど、ご飯もみそ汁もお漬物も好きだけど、たまには違うものが食べたいって思っても罰はあたらないんじゃないかと思う。
でも、和哉がそう言うんなら――――と思った。
やっぱ、朝食は、ご飯とみそ汁とお漬物のものなのかなと思った。焼き魚とのりと生卵までついて贅沢なんだなと思った。
ほんとに、つい数日前まではそう思っていた。
「ベーグル、うまいぜ」
そんなことを和哉の口から聞くまでは、和哉のうちも朝食は純和風だと思っていた。
「クリームチーズ、たっぷりつけてさ」
いつ食べてんだ? そんなもん。そう思った。
「うち、朝パンだからさ」
――――はぁ?
「朝の定番は、ご飯とみそ汁とお漬物なんじゃないの? 」
圭太は和哉に問い掛けた。素朴な疑問だった。
「旅館じゃそうだろうな」
返ってきた答えに圭太はぽかんと口をあけることになった。
「え、だって、和哉、うちに泊まったとき、そう言ったじゃないか」
うちは旅館じゃないぞ。
「すごいよな、お前んち。毎日あれなんて。うちのかあちゃんなんて絶対三日も続かないぜ」
和哉が腕ぐみをして難しい顔をして頷きながら言う。
今度は返す言葉がなかった。
和哉が言うんだから、すごいんだろ。
でも。
「パンの方が楽らしいよ」
和哉の家では、パンは自分で焼くらしい。
ついでに、パンにつけるものも自分で冷蔵庫から取ってくるらしい。
カップスープも自分で選んで、自分でお湯を注ぐ。
テーブルにあるのは、レタスとかきゅうりとかトマトがのった、たまにツナがのったサラダだけらしい。
「何言ってんのよ。朝は、ご飯にみそ汁に決まっているじゃない」
――――いや、好きだけど、たまには……
でも、作ってくれなくなったら困るから、あまり文句も言えない。
「たまには、朝にご飯とみそ汁食いたいよなあ」
和哉がぼやいていたのを思い出した。
――――和哉の分だと思って食うか
圭太は漬物に手を伸ばした。
Fin.