優 し い 視 線
子犬を拾った。
両親が動物嫌いなこともあり、生まれてから16年、僕は動物を飼った事はおろか触った事さえ無かった。
学校の帰り道、親友の拓也と別れてすぐの歩道の植え込みで、小さく丸まっている子犬が目に入った。初めは毛糸が丸まっているように見えたそれは、もぞっと
動くと、真っ黒な瞳を僕へ向けた。動くはずが無いと思ったものが動いた事で、足が思わず止まってしまった。
傍に飼い主らしい人は見えない。きっと、捨て犬か迷い犬だろう。このまま、放っておいて、親切な人に拾われれば良いけれど、巷には残酷な話がよくある。そ
う思うと、先を進む事を躊躇ってしまった。
怖がるかな、と思いながらもゆっくり差し出した手を子犬はペロッと舐めた。そのまま頭をくしゃっ
と撫でると「くぅん」と鼻を鳴らす。ふわふわした毛の中に首輪が見えたから飼い犬だろう。首輪にはプレートが付いていた。そのプレートを裏返してみると文
字が書いてある。
「コウ? 」
僕の言葉に子犬が「きゃん」と小さく鳴く。
字は違うけれど、子犬には僕と同じ名前が付けられているらしい。
そのまま、子犬をゆっくり抱き上げた。そんな事をしてしまったのは同じ名前だったから、だろうか。初めて触った子犬はふわふわな毛が柔らかくて気持ち良
く、特有の動物臭さも感じなかった。
「どうしよう……」
抱き上げたところで、何の策も無い。家には連れて帰れない。
「拓也に相談してみようか」
小さな僕の呟きに、コウはまた「きゃん」と鳴いた。コウの反応に、そうしようと言っているように思えて、コウを抱いたまま来た道を戻った。ここから拓也の
家まで歩いて10分かからない。拓也の家にはコンクールで優勝した事があるというでっかい犬がいる。せめて飼い主が見つかるまでの間、預かってもらう事は
できないだろうか、と思った。
拓也の家が見えてきた時、家からでて反対方向へ走っていく拓也の後ろ姿が見えた。学生服のまま走る拓也の姿はどんどん小さくなる。
コウは腕の中で「くぅん」と鼻を鳴らしていた。まるで、僕の落胆が伝わったみたいだった。腕の中から飛び出していきそうになったコウを強く押さえる。
「ダメだよ」
言いながら、コウの頭をくしゃっと撫でた。何か用があるのだろう。拓也が家に帰ってくるまで待つしかない。
とりあえず――――。
「とりあえず、うちに来るか? 」
コウは名残惜しそうに、拓也の走っていった方を見ながら「くぅん」と鼻を鳴らす。
「仕方無いだろ」
僕はコウを逃がさないようにしっかりと抱きかかえながら、拓也の家に背を向けた。両親が帰ってくるまでの間なら、なんとかなるだろう。それまでに、拓也が
家に戻っているように、と祈る気持ちになった。
コウが短い尻尾を振りながら、机の上で皿に盛られた牛乳をおいしそうに舐めていた。
「コウ」
「きゃん」
牛乳を舐めている途中でありながら、コウは僕の声に反応する。尻尾を振りながら、僕を見ている。
「ごめん、ごめん、いいよ。お飲み」
僕が牛乳の入った皿を指さすと、また舐め始めた。
コウが生まれてからどれくらいで、普通の子犬がどんな事ができるのかなんて僕には分からないけれど、よく躾されていると思った。お座りも伏せもお手も、僕
が知っている犬の芸はなんでもできたし、辺りをキョロキョロして落ち着かないように歩き回るから、いつかテレビでやっていたのを思いだして、トレーに新聞
紙を敷いてやったら、そこで用を足した。
きちんと躾した犬を簡単に捨てるとは思えない、それも、交通量が多い道ばたに何も置かずに。きっと、コウは迷い犬なのだろう。飼い主も今頃探しているかも
しれない。
だから、と言って、どうしたら良いかなんて分からない。警察に届けるものなのだろうか。でも、もし飼い主が見つからなかったら、保健所に送られてしまうの
だろうか。
時計を見上げると、家に帰ってから一時間が経っていた。もう拓也は戻っているだろうか。両親が
帰ってくるまで、と思うとのんびりもして
いられない。
大きく息を吐いた僕を牛乳を舐め終わったコウが尻尾を振りながら見ていた。
「拓也に電話してみようか」
「きゃん」
コウの鳴き声に後押しされて、携帯を取る。とりあえず自宅の番号を押すと、ラインは直ぐに通じた。
「はい、倉元でございます」
「あ、藤本ですけど、拓也くんいますか? 」
祈るような気持ちで言った言葉の数秒後、
「――――ごめんなさいね。今、いないのよ」
申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「そうですか。いつ頃戻るかわかりますか? 」
はっきりした時間が分かれば、なんとかなる。いや、する。
「うーん。それがねえ、犬を探しにいってて、いつ戻るかは分からないのよ。急ぎだったら、携帯へ電話してもらった方が良いと思うわよ」
――――犬?
「えっと、急ぎじゃないので、いいです――――忙しい時にすいませんでした」
携帯を切って、小さくため息をついた。物事ってのは重なるものなのだろうか。
「拓也んちの犬も、いなくなっちゃったらしいよ」
コウに話しかけると、コウが「キュ〜ン」と鳴く。
「お前の飼い主も探してるのかな? 」
僕の言葉に今度は首を傾げた。
そういえば、おばさんに迷い犬見つけたらどうすれば良いか訊けば良かった――――と思っても後の祭りだ。もう一度電話する気にはなれない。
コウの頭をくしゃっと撫でた。拓也が犬を探してる。あんなでっかい犬なんてすぐに見つかりそうなのに。一時間以上も。きっと、走り回ってる。日が長くなっ
てきたとはいえ、あと一時間は持たないだろう。暗くなれば、探すのは難しくなるはずだ。それでも、探し続けるのだろうか?
「一緒に探しに行こうか」
拓也の家へ行って、まだ拓也が帰ってなかったら。そして、その時にコウを預かってもらえるか訊いてみよう。結局拓也の家でコウを預かってもらう事になれ
ば、おばさん達の世話にもなる訳だから、自分から言った方が良い気もする。
「思いたったが吉日って言うし」
コウを抱き上げると、椅子を立った。一応携帯を持っていこうと手を伸ばすと、手の中で携帯が震えた。
誰だろう、と思って蓋を開けると、拓也の名前が表示されている。おばさんが電話の事を伝えたのかもしれない。丁度いいや、と思った。
「もしもし」
「電話くれたんだって」
何かに急かされているような声音に、まだ犬は見つかっていないのだと思った。
「うん。ちょうど良かった。犬がいなくなったんだって。僕も探すの手伝うよ」
沈黙とともに、車の走り去る音が微かに聞こえる。
「それはいいよ。それより、お前の方こそ何かあったんだろ」
「あ、うん。こっちは、これから拓也の家に行って、おばさんに頼んでみる。それから――――」
「何を? 」
言葉を重ねられて、先を続けられなくなった。
「何? 」
「あ、うん。実は子犬を拾っちゃって」
「お前が? 」
呆れたような声を出す。どんな小さな動物でも触れないのに、拾ってきちゃうなんて明日はヤリでも降りそうだと自分でも思う。
「うん」
「どこで? 」
「今日、拓也と別れたすぐ後、歩道の植え込みで――――名前がコウって言うんだ」
なんとなく、コウのことを付け加えてしまった。触れることさえ普段しないものを、拾ってしまったことへのいい訳だったのかもしれない。
それに対して、拓也の応えが無かった。
「拓也? 」
「お前、今どこにいるの? 」
「え、家だよ」
「今から行く」
「え、僕が――――」
言いかけた言葉は、無機質な音に遮られた。
既に回線が切られた携帯をしばらく眺めていると、コウが「くぅん」と鼻を鳴らす。
「拓也が来るって」
抱いているコウに向かって言うと、「きゃん」と鳴いて尻尾を振った。
――――まさかね
拓也が探しているのが、コイツなんて事はないよな。
子犬を飼ってるなんて話を聞いた事はない。昨日買った消しゴムの話までしてくれるのに、子犬がいるなら、絶対話題に上るはずだ。
意図して出さないのなら別として――――。
階下からインターホンの音がした。
急いで玄関に出ると、拓也がぜいぜいと荒い息をしていた。まだ暑い季節でもないのに、汗で前髪が張り付くだけではなく、一筋二筋流れ落ちていく。
「子犬は? 」
「僕の部屋にいるから――――先に行ってて」
言葉とともに、二階を指さした。手で汗を拭いながら頷いた拓也は、階段を上がっていく。
水とタオルを持って部屋へ行った時、既にコウは拓也の腕の中にいた。
拓也に水を差し出すと一気に飲み干す。「サンキュ」と言いながら渡されたグラスを受け取るかわりにタオルを差し出した。拓也は額の汗を乱暴に拭う。
「探してた犬は? 」
恐る恐る言葉にした。もしかしたらという気持ちとまさかという気持ちが混ざりあっている。
「見つかったよ」
汗を拭いていたタオルを僕に返し、拓也が腕の中のコウを撫でる。安心しきったように、拓也の腕の中で目を閉じているコウを見ると、探していた犬はコウなの
だと聞かなくてもわかった。
「ごめん。僕は余計な事をしたのかな」
もしも、僕が連れて帰らなければ、拓也はもっと早く見つけられたかもしれない。
拓也はゆるくかぶりを振った。
「助かったよ。見当はずれなところばかり探していたから。ありがとう、洸」
「ううん。でも、拓也が子犬を飼ってる事を話してくれていれば」
聞いていれば、あの時迷わず、拓也を呼び止めた。
拓也は眉根を寄せ一瞬当惑の表情を見せると、視線をコウに落とした。
「そうだな」
抑揚のない言葉は本心だとは思えなかった。何かを隠している気がする。
「洸」
拓也が顔を上げて、僕を見た。
「何? 」
拓也の開いた口が一瞬ためらう。
「――――今日はありがとう。俺、帰るよ」
「あ、うん」
玄関まで一緒に行き、近くまで送ろうと靴を履こうとした僕を拓也が手で止めた。
「じゃあな」
拓也の腕の中で、丸まっていたコウが「キュン」と鳴いた。お礼のつもりなのだろうか。頭を撫でてやろうと出した手は、ペロッと舐められた。温かくてざらつ
いた舌の感触が手に残る。
拓也は笑顔を見せるとドアの向こうへ消えた。
何か釈然としないものが残る。けれど、その正体は分からない。
それからも。拓也はコウの話題をだそうとはしなかった。
「コウ、元気? 」と話題を振ろうとしても、「ああ」と短い返事をするだけで、「そういえばさ」と話題を変えようとする。それが、ついさっき話した事と同
じだったりするから、明らかにコウの話題をさけているのだと分かる。
なんだか、隠し事をされているようで落ち着かない。
一週間も経った頃、朝、珍しく携帯が鳴った。拓也からの着信は学校を休むというものだった。骨折したという。学校を休むというのも珍しければ、骨折なんて
いうのも意外だった。
「何があったんだよ」と訊くと「滑って階段から転げ落ちた」と答える。
「じゃあ、帰りに見舞いがてら寄るよ」と言うと「いいよ。しばらく休むから。じゃあな」と一方的に携帯は切れた。
酷くそっけない応対が、余計に気になる。
「いいよ。突然行って驚かせてやる」
既にきれている携帯に向かって呟いた。怪我をした向こうは動く事なんてできないはずだ。
「まあ、いらっしゃい」
「拓也くん、どうですか? 」
玄関で迎えてくれたおばさんの後ろには、でっかい犬が伏せをして尻尾を振っている。何度訊いても覚えられないこの犬の名前はやたら長かった気がする。
「ほんとにねえ。犬を庇ったつもりで階段を転げおちるなんてねえ」
「え? 」
犬? コウ? 滑ったと拓也は言った。
「左腕だから、まだ良かったのだけど、ちょっと熱があるの」
おばさんは階段を昇りながら、話しかけてくる。
拓也の部屋をノックすると、「何? 」と返事があった。
「拓也、洸くんがお見舞いに来てくれたわよ」
ドアを開けながら言ったおばさんの言葉が終わるか終わらないかの時に足下に変な感触を感じた。
「コウ」
「あら、知ってたの。拓也は誰にも秘密だなんて言ってたのに。有名にしてみんなをびっくりさせてやるなんて大口叩いてたのにねえ。まあ、それも、夢だけで
終わっちゃったけど」
僕はコウを抱き上げた。ふわふわな毛が気持ち良くて、微かにシャンプーの匂いがする。
「じゃあ、お茶持ってくるから、ごゆっくりね」と言うと、おばさんは部屋を出て階段を降りていった。
何と言っていいか分からなかった。言葉はなく、見つめ合っていた。
「罰が当たったんだよ、きっと」
拓也が視線を伏せると、呟いた。
「何の? 」
「自分を誤魔化して、お前を騙して、何よりこんな気持ちを持ってしまった事への」
ドアのノックがしたことで、話が一旦とぎれる。
トレーに紅茶とケーキを載せてきたおばさんは、テーブルの上にトレーごと置くと部屋を出ていった。
「きゃん」
コウは鳴くと僕の腕を飛び出し、トレーの前で尻尾を振りながらお座りをし、拓也の方を見て「きゃん」ともう一度鳴いた。
「わかったよ」
拓也は笑うと、ベッドから降りてテーブルの前に座り、トレーから紅茶とケーキを取ってテーブルの上に置く。
「洸も、来いよ」
「きゃん」
コウは待ちきれないという風にケーキにねじり寄り、もう一回鳴いた。
「わかったって、お前じゃないよ」
拓也はベッドの横にあった皿にケーキを取り分けると、床に置いた。コウは床へ飛び降り、皿の中のケーキを舐め始める。
僕は拓也の向かいに座った。
「賢い犬だね」
「ほんとは、もっと厳しくしつけなきゃいけないんだ。俺は飼い主失格だよ」
拓也はケーキを舐めているコウの頭をくしゃっと撫でた。
色々訊きたい事はあった。罰の意味。夢で終わったという事。
「さっきの話の続きは? 」
促すように言葉にした。
「ああ」
短く呟くと、拓也はまた視線を伏せ、紅茶を一口飲んだ。
「うちの犬は種付けもしているんだ。今回、生まれた犬を見に行ったら、『コウ』って名前の犬が居たんだ。そいつを見ていたら、離したくなくなった。
――――『コウ』だから欲しかったんだよ、好きなやつと同じ名前だったから」
胸の辺りがきゅっと痛くなった。
好き?――――好きってどう事だっけ。頭の中に波紋が広がっていった。拓也の言う好きという言葉が自分の中には見つからない。好きという言葉は異性に対し
て使うものだと思っていた。男同士であっても、成り立つものなのだろうか。友達という意味とは違う気がする。
「無理を言ってもらってもらって来たんだけど、手放す事にしたんだ」
「なんで? 可愛いんだろ? 」
見ていればわかる。拓也のコウを見る目は優しいし、コウも信頼しきっているように見える。
「可愛いよ、すごく。でも、飼い主として俺は失格だった。犬には主従の関係をはっきり持たせてや
らなきゃいけないのに、甘えさせてしま
う。本当はベッドの上になんて乗せちゃいけないんだ。でも、それが俺にはできない。俺に付いてくるのも好きにさせていたから――――だから、たぶん、あの
時は俺を捜して、隙を見つけて家を出たんだと思う。街中じゃ色んな匂いが充満してて、きっと、わからなくなってしまったんだ」
「でも――――」
犬の飼い方なんて分からない、でも、可愛がっていて信頼されていて、なぜ手放さなければいけないのか理解できない。
「今回だってそうだ。あぶないって思った瞬間に身体がでてしまった。下手したら俺がこいつを下敷きにしてしまったかもしれない。こんな危険な飼い主なんて
いらないだろ。それに、賢い犬なんだ。ただ、可愛がられているだけはもったいないんだよ」
言葉からコウへの気持ちを感じる。手放したいわけはない。コウの為だと自分に言い聞かせているように聞こえた。
「でも、一つ問題があるんだ」
拓也が視線をあげて僕を見る。
「何? 」
「俺、お前とはずっといい友達でいられると思っていた。でも、こいつと会ってからお前に対する気持ちをこいつに向けてきた。こいつがいなくなってしまった
ら、その気持ちを何処へ持っていっていいか分からないんだ。こいつが来る前には気持ちを押さえていられた。でも、もう、きっと押さえられない。―――お前
が好きなんだよ、洸」
拓也のまっすぐな視線に僕は言葉がでてこなかった。
「直ぐに、返事が欲しいなんて言わない。きっと、今週は学校を休む事になる。その間、考えてくれるか? 」
拓也が視線から外れてしまう事が怖かった。僕は拓也を目で捕らえていられる範囲で、小さくかぶりを振った。
結局、ケーキも紅茶も手を付けないまま、拓也の家を後にした。
拓也の気持ちを信じられなかった。友達だと思っていた。好きか嫌いかと言われれば、好きに決まっている。
けれど、オトコ同士なのだ。今まで、恋愛対象として見た事は無かった。大切な人ではある。これからも、ずっと傍に居て欲しいと思う。何か楽しい事があって
も、悲しい事があっても、一番最初に告げたいのは拓也だ。
好き――――ってどんな気持ちだっけ。
中学の時、可愛いと思った女の子が居た。告白された途端、気持ちがさめてしまった。そんな僕に、『お前はまだ子供だから』と拓也は笑った。
そうだった。告白された時、持っていた好意は風船が萎むように、今まであったものが、どこかへ同化して消えてしまった。
けれど、今、拓也への気持ちは変わらない。告白されたのに、はっきり好きだと言われたのに、大切だと思う気持ちがある。好きだと思える気持ちもある。その
好きが、拓也の望む好きかどうかは分からない。けれど、失いたくないと思っているのは、確かだ。
夜の9時過ぎ、机の上に置いていた携帯が鳴った。
教科書とノートを開きながらも、ぼんやりと机に座っていた僕は誰からの着信かも確かめずに、携帯を取った。
「もしもし」
「洸? 俺」
聞き慣れた声が流れてくる。
「拓也」
「昼間言った事――忘れてくれ」
忘れる事なんてできない。あんな衝撃は生まれて初めてだった。ラインを繋いだままの沈黙が流れる。拓也の息づかいだけが聞こえる。
「洸? 聞いてるか? 」
「聞いてるよ」
「俺、やっぱり、お前を失うのは嫌なんだ、だから」
僕だって、嫌だ。
「忘れなきゃいけない?拓也が恋人っていうのも……いいかなって思ってきたのに」
あまりに当たり前だった、隣にいる存在。
「ホントに? 」
「本当だよ」
嘘をついても仕方ないだろう。「でも、いいかな……だけどね」
全てを受け入れてしまうのは、まだちょっと自信がない。
「いいよ。それでも」
安堵した声が流れる。
「明日、拓也のうちに行っていい? 」
「いいけど」
「コウに会いたい」
ちゃんと引き継ぎしないとね。
「――コウは俺のもんだからな」
手放すのに?――そんな意地悪な質問より聞いてみたい事が浮かんだ。
「どっちの? 」
「どっちも」
笑い声が流れていく。
まだはっきりしない好きだけど、もう少しではっきり形が見えてくるような気がした。
Fin.