ぬ く も り


ふと気がつくと、腕の中がからっぽだった。
絶対離さないと抱きしめたまま、うっかり眠ってしまったらしい。玄関のドアが静かに閉まる音が聞こえ、続いて遠ざかる足音が聞こえた。今、追いかければ間 に合うと思いながらも、身体は動かない。
まだ温もりが残るシーツの上に掌を滑らせた。
「雅人――――」
呟いた言葉に答える人は居ないのに、
「何?」
あいつの声が頭の奥に響いた。

 雅人と俺は同期入社だった。初めは気に入らない奴だった。整った容姿の上に、言う事に理屈が通っていて、おまけに、何かと言えば俺に反論す る。あいつを負 か してやりたいと、最初の一年は仕事に没頭した。重ねていく実績に奢りもあったのだろうと思う。2年目に入ってすぐ、初めてのミスで取引先を一つ失った。
上司に散々嫌味を言われ、「気にするな」という同僚の言葉は気休めにもならなかった。
全てが身体から抜け落ちていったようで、退社時間が過ぎても、席から立てなかった。仕事を終え退社する人達の声を背中で感じながら、誰もいなくなった部屋 で、俺は、一人ぼんやりしていた。何も考えられなかった。突然聞こえてきた足音に、思わず音の方へ顔を向けると、雅人がこちらへ歩いてくる姿が目に映っ た。雅人 は俺の目の前に来ると缶コーヒーを差し出した。
「飲む? 」
手を出さなかった俺に雅人は、机の上に缶コーヒを置き、そのまま隣の席に腰を下ろすと缶コーヒを飲み始めた。
机の上に置かれた缶コーヒーにそっと触れると、缶は暖かかった。手にとってプルトップを外すと口にもっていった。
言葉は無く、2人で缶コーヒーを飲んだ。コーヒーは苦かった。けれど、身体と一緒に胸が暖かくなっていくようだった。何も言葉はないのにぬくもりを肌が感 じるようだった。優しい空気がそこにはあった。同情ではなく、ただ見守ってくれていた。
あの日から、雅人は俺にとって特別な人間になった。
酔っている振りをして、口説いて、抱いた。
戸惑いを表情に浮かべながらも、雅人は俺を受け入れてくれた。それから、半年経つ。
俺にとって失いたくない大切なものになっていたあいつに、転勤の内示がきたのは一か月前だった。
一か月同じ会話を繰り返した。
「転勤なんて、蹴っちゃえよ」
「転勤を蹴るって事は、会社を辞めるって事だよ」
そんな事はわかっている。今の不況で再就職が難しい事も。
「お前ひとりくらい、俺が養ってやるよ」
「――――僕は男なんだよ」
雅人の言葉に、思わず腕を回し抱きしめた。悲しかった。その後は、話なんてできなかった。抱きしめて、唇を貪って、突き上げた。快楽の渦に飲み込まれてい る時は、辛い現実を忘れられた。
男である以上自立していたいと思うのは分かる。もし、自分に転勤の内示がきたら、連れていきたいと思うだろう。自分が会社を辞める事など考えられない。
分 かっていながら、最後まで悪あがきをした。昨日、引っ越し荷物を出し終わった後の雅人を部屋に連れてきて、何度も身体を重ねた。身体に負担がくるのは承知 の上だった。身体が動けなくなればいい、熱でもだせばいい。一日でも二日でも、雅人の出発を遅らせたかった。雅人はひとつも文句を言わず、俺の首に腕を回 し、潤んだ瞳に俺を映していた。突き上げて、突き上げて、突き上げて、お前は俺のものだと、心の中で叫んだ。
「絶対離さない」と雅人の身体を抱き込んだ俺に、雅人も背に腕を回し抱きしめてくれた。
「眠い」と言った雅人の寝息に安心して気が緩んだのだろう。気がついた時に雅人の姿はベッドに無かった。
部屋の中を泳がせた視線がベッド横のローテーブルにあるメモで止まった。手を伸ばして取り上げてそれを読んだ。
『貴弘へ よく寝ているようだから起こさないで行くよ。元気で。 雅人』
きれいな、まるで女が書いた字だろうと思えるような整った雅人の字だった。
書いてあるのは嘘だ。
最初から、俺が寝ている時に出て行こうと思っていたのだろう。
将来の約束をする事はできない。新しい場所へ行けば、新しい出会いがある だろう。雅人に新しい恋人ができた時には祝福しなければいけないとは分かっている。分かっている事と出来る事は別だ。あいつに恋人ができたら、と思うだけ で胸が潰れそうになる。別れを否定したい気持ちから、結局、次の約束さえしていなかった。

雅人がいなくなっても、日常は回っていく。
昼間仕事をしている時は忘れられても、夜、家で一人になると空虚さが襲ってくる。生活を共にしていた訳ではない。週末を共に過ごしただけだ。それでも仕事 が忙しい時は一ヶ月間会わない事もあった。会いたいと思えば会えるという事がどれだけ大きい事だったのかを知った。
声だけでも聞きたいと、携帯の番号を押してはみても、最後のひとつで躊躇った。今、誰かと会っているかもしれない。思うだけなら否定もできる。事実として 知ってしまった時に、自分がどうなるかを想像さえしたくない。
それだけでなく、声だけで満足できるのだろうかと思う。声を聞いたら、会いたくなるに決まっ ている。そのまま新幹線に飛び乗ってしまうかもしれない。会ってしまったら、あいつを置いて帰ってくる事はできるだろうか。
ふと、上司や取引先の担当者の顔が浮かぶ。
そして、『――――僕は男なんだよ』と言った雅人の顔が浮かんだ。
携帯を置いて、自分の下半身に手を伸ばす。雅人の幻影が自分を追いつめてくる。あいつの笑顔も怒った顔も、俺を欲しがる顔も全て頭の中で思い描く事ができ る。
「雅人――――」
『貴……弘』
頭の中で響く声に応えるように、熱が弾ける。
雅人の幻影が消え、部屋の静けさを感じ取った時、後に残るのは虚しさだけだった。


雅人が転勤してから三ヶ月が過ぎた。
遅いのか早いのかも分からない。日めくりカレンダーのように、ただ淡々と過ぎていく。
仕事を終え帰った家で、ベッドに仰向けになり天井を見つめていた。仕事は以前と同じ様にやっている。ただ、家に帰ってからは、何もする気がおきなかった。 元からマメに自炊をする方ではなかったが、テーブルの上には食べ終わったコンビニ弁当が広げられている。ベッドから起きる気力も無い。このまま、寝てしま おうかと寝返りをうった瞬間に鳴り始めた携帯の着信に飛び起きた。
ハンガーに掛けていたスーツの上着をもぎ取るようにして、中から携帯を取りだした。
「もしもしっ」
「貴弘? 」
聞き慣れた――――この三か月は頭の中にだけ響いていた声が聞こえる。
「ああ、俺」
「……」
携帯が告げるのは沈黙だった。俺の応えに雅人の反応が無い。沈黙が流れていく。このまま切られてしまうのかと、雅人の名を呼びかけようと口を開いた瞬間に 雅人の声が返ってきた。
「明日、出張でそっちに行く事になったんだ。会えるかな? 」
心臓がドクンと跳ねる。
「良いに、決まってるだろ」
雅人が待ち合わせ場所を告げる。そこは、会社帰りの待ち合わせによく使った喫茶店だった。
「遅くなっても絶対行くから。帰ったりするなよ」
「わかった。じゃあ、明日」
雅人の声を最後にラインは切れた。
携帯を上着のポケットに返すと、テーブルに広げられていた弁当の空き箱をゴミ箱に捨て、クローゼットから掃除機を取り出した。明日は金曜日だから、週末は こっちで過ごせるはずだと、俺は勝手に決めた。

ほとんど手につかなかった仕事を終わらせたことにして、喫茶店のドアを開けると、雅人の姿が飛び込んできた。別れた時と変わらない姿に、すぐ腕の中に抱き しめてしまいたいと思う。そして、それが許さ れない状況に、右手を握り込んだ。
俺に気付いたらしい雅人が軽く右手を挙げる。そのまま、伝票を持って席を立った。場所を変えるつもりなのだろう。俺は店の外へ出て、雅人を待った。そのま ま、家へ連れて行ってしまおうと思っていた。他には何もいらない。あいつだけが欲しいのだと、一目見た瞬間に分かってしまった。
「何か食べに行こう」
俺より一瞬早く口にした雅人は、俺を促すように先を歩いた。
「何か食べたいもの、ある? 」
振り向き、俺に訊く。
「何でもいいよ」
出端を挫かれてしまった。俺はあいつを抱きたいのに、あいつにはその気さえ無いような気がしてきた。何の為にあいつは会いたいと言ってきたのか、 期待しか持っていなかった俺は、突然不安を感じ始めた。
言葉も無く、雅人の後に付いていくと、雅人はイタリアンレストランの前で止まる。
「此処でいい? 」
「ああ」
そこは初めて雅人と食事をした店だった。
週末の夕方でありながらもまだ時間が早いのか、満席にはなっていない。雅人はコースは重たいからいいよねと言ってアラカルトで頼んだ。カボチャの冷たい スープとシーザーサラダは雅人のお気に入りであり、パスタは和風ソースと決まっている。俺はパスタをクリームソースにしてワインを頼んだ。
雅人が目を細める。
「一本だけだよ」
酔っぱらいの相手をして抱かれたのに、酔っぱらいは嫌いだと言う。そのくせ、何処で鍛えたのかアルコールには強かった。
「会社では会わなかったな」
ワインを一口飲んで、雅人を見た。雅人もワインを口に運ぶ。
「僕は、キミのうわさを聞いたよ」
「え? 何だよ」
慌てた俺に、雅人は軽く笑うと、ワイングラスを置いた。
「『今野さん、お昼も食べないで、仕事してたわよ』って、給湯室で女の子が言ってた」
よく見てるものだと思う。定時に終わらせるために、懸案事項は全て潰した。最後の15分は電話の受話器も上げたままにしておいた。
「出張はよくあるのか? 」
話題を変えようと思った。
「初めてだよ」
「また、来るのか? 」
「わからないよ」
移ってまだ三か月だ。やっと慣れた頃だろう。分からないと言われても納得はできる。
「新しい職場どう?」
「ん、雰囲気はあんまり変わらない。でも、上に近い分活気はあるかな」
雅人を前にして自分の気持ちが抑えきれない。触れたい、くちびるを塞いでしまいたいと思っても此処では無理だ。
「明日休みなんだろ」
大方食事が終わったところで、口にした。
「今日は、ホテルを取ってある」
微妙に違う応えに、雅人の真意を測りかねる。だからと言って、はい、さよならとは言えなかった。
「俺のとこへ来いよ。いいだろ」
雅人は視線を伏せた。
「――――いいよ」

玄関を入るとすぐ、靴も脱がずに抱きしめた。
「痛いよ」
雅人が腕の中で小さく呟く。
鍵を締めると奥へ行こうと雅人を促した。後に付いてくる事を確認して、先を行く。部屋へ入ると、上着を脱いでソファに放った。
「皺になるよ」
雅人が上着をハンガーに掛ける。自分の上着も脱ぐと、ハンガーにかけた。
俺のところへ来るというのは、抱くという事だ。一回として例外は無かった。
後ろから雅人を抱きしめた。ネクタイを解いて、ソファへ放る。ワイシャツのボタンを外す。ベルトに手をかけたところで、雅人が振り向く。
「これじゃ、不公平だ」
雅人の手が俺のネクタイを解く。俺は、雅人の顎に手をかけて上を向かせると、くちびるを塞いだ。
ずっと欲しいと思っていた感触が伝わってくる。何度も啄むように口づけると、雅人も返してくる。手はワイシャツのボタンを外し、ベルトを外していく。お互 いに脱がせていき、裸になると、絡まるようにベッドに倒れ込んだ。
「欲しかった」
腕の中で抱き込んで、一番の真実を口にした。
「三か月、電話のひとつもくれなかったのに? 」
「お前だって」
白い肌に掌を滑らせる。
「何度もしようとしたけどできなかった。キミに新しい恋人ができているかもしれないと思うと、最後まで番号を押す事ができなかった」
雅人の手が俺の背筋を撫でる。2人の間で、お互いのものは軽く勃ちあがっていた。
「俺も――同じだ」
遠く離れていても同じ事も思っていたことが、うれしかった。
胸の突起を舌で転がすと、大きく堅くなってくる。手は脇を滑らせ、奥の窄まりへ触れた。
「ん……」
雅人の身体が小さく震える。枕元の潤滑油を手にとり、ゆっくりと指を差し入れた。堅く閉じているところは、指にぴったりと絡みつく。ゆっくりと中をかき回 した。内壁をさするように、指を這わせる。しっとりと濡れているところは、段々と柔らかくなり指に馴染んでくる。
「貴……あ、あ……っ」
雅人の感じるところは指が知っていた。擦り上げると、言葉にならない声をあげ、身体を開いてくる。自然に濡れる事はなくても、受け入れるために変化してい く。
指を増やして、深く浅く馴染ませるように、動かす。勃ちあがって大きくなってくるものは、先端から透明の液を零す。
「雅人、いい? 」
「あ――――あぁ……っ」
雅人は歪む顔に快感の色を見せていく。手がシーツの上を滑り、何かを掴むように、手を握り込む。
雅人の中をかき回しながら、くちびるで身体に触れた。首筋、脇、腕。肌の感触とともに感じる雅人の匂いは、下半身の熱を高める。
いつもよりゆっくり慣らしても、きついと感じた。それでも、自分にも余裕は無かった。
「入れるよ」
雅人が荒い息をつきながら小さく頷く。
潤滑油をいつもより多めにつけて、ゆっくりと進めた。雅人の顔が歪む。それは、辛さなのだとわかった、頬に手を寄せると「大丈夫」と返してくる。たとえ、 雅人がやめて欲しいと訴えても、やめる事など考えられなかった。雅人の顔を窺いながら、ゆっくりと自分自身を収めていく。
全てをおさめると、大きく息を吐いた。久しぶりに繋いだところは、きつく締め付けてくる。雅人は俺以外を相手にはしていないのだと安堵した。けれど、こい つは男なのだと思う。
「浮気した? 」
繋がったところを馴染ませるようにゆっくりと腰を回しながら訊いた。あえて、浮気という言葉を使ったのは、お前は俺のものだと示したかったからだ。
「したくても、できないよ。男を相手にする、男なんてそうそういないだろう」
「男じゃなくても、いいだろ」
お前は男なんだから。
「……気が付かなかったよ。キミの事ばかり考えていたから」
雅人の言葉に胸が熱くなった。言葉だけでイきそうになる。雅人はいつでも欲しい言葉をくれる。
「ごめん」
俺は雅人のものを手で包んだ。ゆっくり追い上げている余裕は無い。
突き上げながら、雅人のものを擦り上げた。雅人は揺らされながら、時折頭を振り、切り切れな声をあげる。
こんなに欲しいのはこいつだけだと思う。雅人と出会う前に、付き合った女も何人かいる。腕の中に抱いている時は愛しいと思っていた。でも、時間が簡単に忘 れさせてくれた女達と雅人は違う。時間が経てば経つ程、会いたいと、欲しいと強く思う。
雅人と俺は同時に熱を放った、のだと思う。きゅっと締め付ける雅人の中で、感覚全てを取り込まれるような感じがした。
前のような無茶はしないと思っていた。自分でやった癖に、雅人の身体が気にかかった。ただ、抱きしめているだけでも良かったんだと後悔しても後の祭りだっ た。ただ、あの時は、雅人が欲しいと、それだけしか考える事ができなかった。欲しい気持ちは変わらない。離れてみて、尚更、こいつは俺にとって失いたくな いものだと、大事なのだと分かってしまった。
身体の汚れを軽く拭くと、雅人を腕の中に抱き込んだ。一緒に居られるのは、あと一日か二日か……その先はわからない。
「お前、帰るの? 」
「帰るよ。仕事が待ってるから」
躊躇いの無い返事に落ち込む。気持ちは同じだと思ったのは、ちょっと前だというのに、こいつにとって、仕事はそんなに大事なのかと思うと悔しい。
「今度は、いつ会える? 」
せめて、今度はちゃんと次の約束をしたい。簡単に忘れられはしないと、少し離れていただけで感じた。
「わからないよ」
あまりの淡々をした言葉に、ついさっきまで俺の下で喘いでいたのは、ホントにお前か? と思う。
「俺、お前のとこへ行くよ」
今回はお前が来てくれたから、今度は俺が行く。先の約束なんてどうでもいい。俺にはお前が必要なんだ。
「いいよ、来なくて」
あまりの答えに、雅人の顔を覗き込んだ。
「なんて顔してるんだよ」
言葉と共に雅人の手が優しく俺の頬を撫でる。
「黙ってようかと思ったけど――」
雅人の腕が俺の身体を包み込む。
「まだ、極秘事項なんだ」
雅人の声が耳元で囁く。
下半身が熱くなってくる。こいつが欲しくなってくる。
「焦らすなよ」
雅人の腕の感触を返すように、抱き返した。
「こっちに戻って来られるかもしれない。今回の出張も、その打ち合わせだったんだ」
思わず身体を起こし、上から雅人の顔を見つめた。
雅人の腕が俺の身体を寄せるように抱き込む。
「ホントか? 」
今更、嘘だとか冗談とか言うなよ。
「ホントだよ。まだ時期は分からないけれど、新しいプロジェクトが始まる。――僕は戻って来ていいのか確かめたかったんだ」
「良いに決まってるだろ」
俺は、雅人の背中に腕を回した。もう離したくない。
「でも、キミ目当ての子は結構居るだろ。経理の安部さんとか情報の箕島さんとか。僕が居ない間に、恋人ができていても不思議は無かった」
「知らないよ。そんなの」
俺には、お前しか見えて無かった。「そんな事言うならお前だって」
雅人と社内を歩いていると、明らかに雅人を見ているとわかるやつが山程居た。一々名前なんて覚えちゃいない。絶対、お前達になんて渡さない――とそう思っ ていた。きっと、新しい職場でも、多くの視線を集めたに違いない。
雅人の手が俺の背中を滑っていく。
「僕には、キミしか見えてないから」
こいつはどうして、俺が言えない言葉をあっさり言えるのだろう。
「お前、ボロボロにされたい?」
俺の欲求は止まらない。許されるなら、四六時中、お前を感じていたい。
俺の言葉の意図がわかったらしい雅人は、困惑の表情を浮かべた。
「この間みたいのは――――困るよ」
俺は自然と口が綻んでしまった。これ以上ないくらい雅人をきつく抱きしめた。
「じゃあ、これで我慢してやる」
ずっと離さない。誰にも渡さない。お前は俺だけのものだ。
「僕は、戻って来てもいいんだね」
雅人の言葉は心の中にストンと落ちる。
「戻って来たら一緒に暮らそう。新しい家を探しておくよ」
「今は難しいみたいだよ。男同士の同居って」
雅人の息が肌にかかる。
「じゃあ、隣同士とか、同じマンションとか」
会いたいと思ったら、直ぐに会える場所に。
「スープの冷めない距離ってやつ? 」
「スープは冷めるな。スープよりお前が先だから」
離れてみてわかる事もある。
「何よりもお前が先」
ただ触れているだけで与えてくれる安らぎに包まれる。
「寝てる間に帰ったりするなよ」
雅人が頷くのを確認すると、俺は目を閉じた。

Fin



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