風が吹いていた。
潮の香りが鼻をくすぐる。
人々の喧騒が遠くに聞こえた。
さくさくと砂を踏む音が響く。

「気持ちいいね」
智が隣を見上げるとそこには笑顔があった。
「ああ」
俊介は短く答えると視線を海を向けた。
太陽があたりをオレンジ色に染めて自分の存在を主張していた。
「あとで花火やろうか」
沈みつつある太陽に視線を向けながら俊介が言う。頬がに少しオレンジ色がかかっていた。
「あ、いいね」
夏休みの一泊旅行だった。
昼はきっと人で一杯だったと思われる砂浜には、今数えるほどの人影しかいない。
「花火買いに行くか」
俊介が急に顔を向けてきて、視線があって、智はどきっとした。
ずっと見ていたことがきっと分かってしまった。
少しの動揺が答える言葉を消してしまっていた。
「行くぞ」
俊介が手を掴んでくる。
「う、うん」
温かい手をそっと握りかえした。
いつまでも繋いでいたい手だった。
俊介が強く握ってきて、ふっと笑う。
この笑顔もずっと見ていたい――――そう思った。

Fin

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