夕暮れ

窓際に立つ俊介の頬を夕日が染めていた。

「お待たせ」
智が教室へ入ってすぐ声をかけると、俊介が視線を向けてきて目を細める。
「ごめん、遅くなって。みんな帰っちゃったんだ」
俊介に近づきながら智は言った。
週番の日誌を返しに行ったら、担任にこれ幸いと社会準備室へ荷物を頼まれ、そこでは、コピーなんていうものをやらされた。
テスト一週間前は部活もないから、引けが早い。教室には俊介しかいなかった。
「ああ。どうせそこいらでたむろってるんだろうけどな」
校門から少しだけ駅に近いところにあるコンビニは溜まり場だったりする。

「待っててくれたんだ」
智は嬉しかった。二人きりになれることだって、そうそうない。胸がとくん、とくんと存在を主張する。嬉しいけれど、ちょっと苦しい。

「夕暮れってなんか寂しいじゃん。一人じゃ寂しいだろ? 」
それは俊介には意外な言葉で。
「そう? 」
なんて答えていた。
「今、そう思った」
俊介が窓の外へ視線を向けた。
明日もいい天気なのだろう。オレンジ色の夕焼けが西の空に広がっている。
「きれいな夕焼けだね」
俊介の隣に並んで、智も外へ視線を向けた。
静かだった。
廊下を走る音も、話す声もない。いつもは校庭から聞こえる運動部のかけ声もない。
「一人だったら寂しいかも」
智は呟いた。
横に俊介がいる。だから寂しいとは思わないけれど、一人だったら寂しい気持ちになったかもしれないと思う。
「だろ?」
同意を得たのが嬉しいように、俊介が得意げに言う。
「俊介がいてくれてよかった」
それは、寂しいからだけじゃなくて、いつも隣にいて欲しい存在だから。
「俺も」
俊介が呟くように言った。
俺も?
その言葉をどう取ればいいのか、智は分からなかった。
戻ってきたこと?
友達として?
それとも……?
俊介の手が肩に置かれて、体中心臓になってしまったかのように鼓動が響く。とても顔を見ることなんてできなかった。
どのくらいの時間、そうやって夕日を眺めていたか分からなかった。
「帰る? 」
頭上から聞こえた声に「うん」と頷いた。
夕日を眺めていたのはそんなに長い時間ではなかったと思う。太陽の位置はあまり変わっていないように思えた。
本当は、ずっとこのままでいたいけれど、そういうわけにもいかない。こんな姿を誰かに見られても、マズイ気がする。
すっと離れていった俊介の手に、智は寂しさを感じた。

いつかはこうやって、俊介も離れていくときがくるだろう。
「俊介」
見上げて。
けれど、その先の言葉は出なかった。
好きだと、そう言ってしまったら、もう友達としても見てもらえないかもしれない。
挨拶をしたら返してくれることも、昼休みの時間も、週に一度の集団デートも、全てなくなってしまうかもしれない。
「何? 」
俊介が首を傾げる。
「……帰り、モスへ行かない? 」
出てきたのは、そんな言葉だった。
「珍しいな、智がなんか食いに行こうっていうの」
それしか思いつかなかった。それだけだ。
「そうかな……なんとなく、菜摘が食べたくて」
苦しい言い訳をするはめになる。
「そっか、お前、あれ好きだもんな」
別に好きなわけじゃない。けれど、ボリュームは少なくて食べきることができる。食べきれないと分かっているものを食べに行きたいとは言えない。
「じゃあ、行こうぜ」
俊介が、にこっと優しい笑顔を見せる。
好きなのに、こんなに好きなのに。
その言葉を口にすることはできない。
「うん、すごく好きなんだ」
俊介が――――。
声に出せない言葉は心の中で呟いた。

Fin

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