廊下をかけてくるその音だけで分かってしまう。
それは、いつからか……?
智が本から顔を上げると、教室の入り口ドアの上限ぎりぎりにちょうど俊介の顔が見えて、智が手をあげて挨拶すると、俊介も手をあげて答えてくれる。でも、 俊介のあげた手は入り口の上にある壁にはばまれて見えない。
智の方へ歩いてくる俊介が途中で誰かに掴まるのはいつものことだ。

そのまま始業のベルが鳴るまで、俊介は話の輪に入っている。
初めの頃は、一緒に話の輪に入っていた。けれど、ゲームの話にしろ、グラビアアイドルの話にしろ下ネタにしろ、他のやつは面白そうに笑っていても、智には よく分からなかった。
雑誌は読まないから、グラビアアイドルは知らないし、厳格な父はゲーム機など買ってはくれない。それでも、お年玉でゲーム機のお買い得セットを買ったこと もあったけれど、買ったソフトが悪かったのか、おもしろいとは思わなかった。
本を読んでいる方がずっと面白い。

放課後は分からない話の輪に入っていることもあるけれど、朝は読書に勤しんでいるのは智にはいつものことだった。
けれど、俊介が来ると本に顔を向けながら、耳は俊介の声を拾っていて、頭ではその言葉を解読している。

そんなことを俊介は知らないだろうと思う。
むしろ、知らないでいて欲しいと思う。
今は、声が耳の中に入ってくるだけで幸せだから、そんな時は、ずっとこのままでいたいと智は思った。

Fin

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