「ここは?」
「あ、あっ……」
身体を降りてきた手が内股を滑り、窄まりを指で丸く撫でられただけで、身体が跳ねてしまった。
ちゅっと頬にキスすると、ジェルをすくった指で、窄まり解すように撫で、ゆっくり中に差し入れてくる。
入ってくる感触に身体が強ばって、背筋が仰け反った。
初めてじゃないのに。初めてじゃないのに、つい、数日前まで、毎日のようにされていたのに。
「あ、あ、あ」
なんで、こんなに感じるんだろう。
本当に欲しいものだから?
以前は、いつかは終わりになるのだろうと思いながらも、傍にいてくれる日常に別れへの現実感は無かった。
与えられるものをただ受け止めていた。それだけで、満足していたし、それ以上のものがある事も知らなかった。
傍にいた時よりも、離れてからの方が想う時間はずっと長くなったような気がする。忘れなきゃと想うのに、頭に浮かぶのは真哉の笑顔ばかりだった。
「雅紀……」
真哉の指がゆっくりと身体の中をかき回しながら、唇が肌を啄んでいく。
「……っ、……んや」
もう、どうなっちゃってもいいや――――もう最後なんだから。呆れられても、嫌われても。
真哉の背中に回していた手をそっと外し、下へ伸ばして真哉のものを包み込んだ。
「雅紀?」
真哉が顔をあげる。
「僕にも……させて」
身体を起こすと、真哉のものを口に含んだ。
朝までの限られた時間しかないけれど、その時間全てで愛したい。身体を満たすものがなくても、傍で感じるぬくもりがなくても、暖かい記憶として残る時間に
しよう。もう、これ以上ないくらい愛し合って、お互いを感じ合って、そうしたら、きっとそんな時間はできるよね。胸の片隅でずっと覚えてる。寂しい時は、
その思い出で自分の身体を抱きしめる。
真哉の手が背中を優しく撫で、指が雅紀の髪の毛を絡める。
「雅紀……好きだよ」
荒い息の中で、くれる言葉は胸を熱くする。
好きだよ、大好きだよ。だから、もし望んで良いのなら、この気持ちを心の片隅で良いから忘れないでいて欲しい。まだ、好きでいてくれるって思ったら、がん
ばれるから。
真哉をそのままイかせてあげたかったのに、ゆっくり体勢を変えた真哉の口に自身を含まれて、中を指でかき回されてしまったら、何がなん
だか分からなくなってしまった。傷つけたくなくて、顔を上げると、そのまま押し倒された。
「真哉」
不満声を上げると、
「俺は、イきたいんじゃなくて、お前が欲しいんだよ」
そう言いながら、雅紀の腰を抱えると、自身をあてがう。
触れた感触に胸がちくっと痛んだ。確かめるように真哉がゆっくり入ってくる。それを感じながら、涙が一筋零れ落ちた。
「雅紀?」
真哉の手が涙の後をなぞる。
「ごめん」
「何? 」
怪訝そうな表情をしながら、真哉の手が汗ではりつく前髪をはらう。
「僕は……真哉だけじゃな――――」
「いいんだよっ」
全てを言う前に、言葉をかぶせるように言われて、口を噤んだ。
「――――いいわけじゃないけど、もう時間は戻らないだろ。俺はそれでも、お前が欲しい」
「真哉……」
「俺はお前の前でだけ自分になれるんだ。俺自身を見てくれたのはお前だけだよ。口を開けば「お父さんは」っていう教師やおべっか使ったり、たかる事しかし
ないやつらとは違う。お前の前でだけ、俺は殻を脱げるんだよ。お前がいないと、息が詰まりそうなんだ」
もう一度頬を撫でると、真哉はゆっくりと動き始めた。突き上げられる律動に身体を揺らされながら、真哉と繋がっている事を感じる。
初めは穏やかな高まりが、次第に激しくなってくる。自分では抑えるえることのできない波に、逆らわず身を任せた。
何度イったかわからない。離れていた時間を埋めるように、何度も身体を絡ませた。
余韻が残る中、背後から抱き込まれて首筋に真哉の熱い息づかいを感じる。雅紀は身体の回された真哉の手を取り、口づけた。
「全部、話すよ」
挫ける前に。心の中が暖かいもので詰まっている今のうちに。
「ん……」
相槌をうちながら、真哉は首筋にキスを落としてくれた。
覚悟したのに――――それでも、初めの一言を言うのを躊躇う。支えてくれるものが欲しくて、真哉の手をぎゅっと握りしめた。
「おじさんに、真哉のお父さんに別れてくれって言われた。お札を山にように積んで、高校卒業したら、真哉には何も言わずにどこかへ行っ
てくれ。そう言って、おじさんは僕に頭を下げた。それが、一月の初め」
一瞬息を止めた真哉は、その後すぐ大きく息を吐いた。
「知られてたってことか」
「――――クリスマスに、僕達以外に誰もいなかったはずの真哉の家で聴いた物音は、気のせいじゃなかったんだよ。たぶん」
「なんで、俺に言わなかったんだよ」
「言ったら、どうした? 」
握っていた真哉の手をさする。
「高校卒業したら、お前がもらった金を持って、二人で逃げる」
「土地や家や財産、会社、代議士の家柄、真哉が継ぐはずのものを全部捨てて? 僕に出したお金だって、僕には山のように見えても、真哉にとっては、端金だ
よ。きっと」
真哉が責めるように大きな溜息をつく。
「俺が知ったら、お前を捨てると、思ったのか? 」
図星をつかれて、きゅっと胸が縮んだ。
「――――そうだろうな、とは思った。でも、もし真哉が僕を選んでくれたとしても、僕には重荷なだけだよ。僕は何もあげられない。お金だって、地位だっ
て、権力だって。真哉が何もしなくても手に入れられるものが、僕には何もない」
捨てられても、選ばれても、どちらも辛いだけのように思えた。
それ以上に、卒業までの二ヶ月あまりを真哉に気づかれずにいるなんて事は絶対無理だと思った。
突然、雅紀の手を弾いて真哉の腕が身体から離れていった。驚いて振り向いた雅紀の視線を外すように真哉は顔を背ける。
「お前は俺を端金で売った、って事か」
思いがけない言葉に、起きあがって真哉の方を向いた。
「違うよっ。お金は返したし……僕はその方が真哉のため――――」
「お前は、金や権力や地位と俺を天秤にかけたら、金の方を取るんだろ。だから、俺がお前を捨てるなんて思うんだ。俺がお前を選んだら重荷だなんて思うん
だ」
視線を背けたまま、真哉は吐き捨てるように言う。
「真哉……違うよ」
分かってもらえないもどかしさばかりが胸に溜まって、どう言葉にして良いか分からない。
「もし、逆の立場だったら? 俺が、俺には何もないから別れようって言ったら、お前は俺を捨てんの? 」
ゆっくりとこちらを見た真哉の表情は寂しそうだった。頭からすっと血が退いていく。自然に身体は動いて真哉を抱きしめていた。
「いやだ」
胸に額を擦り合わせるように、頭をふる。
自分は真哉の為なら、なんでもできる。それしかないのだと思ったら、別れる事も。でも、もし、真哉がお前のためならと離れていこうとするとしたら絶対に嫌
だ。何もいらない。真哉がいてくれれば、それでいい。
真哉の手が雅紀に頭にそっと触れた。
「お前、自分が嫌だと思った事を人にしちゃいけない、って習わなかったのか? 」
言いながら髪の毛を指に絡めるように、優しく頭を撫でる。
「いやだよ」
自分が傍にいるのは真哉の為にならないと分かっている。でも。
「嫌だよ、真哉」
自分の為にと真哉が離れていくのは嫌だ。矛盾していると分かっていても、どちらも譲れない。
「俺は、余計な金も権力も地位もいらない。雅紀と一緒に生きていけるだけのものがあればいいよ。あんなものあっても維持するのが大変な
だけだ。堅苦しいフルコースのフランス料理より、お前と一緒に食べた一本70円の焼き鳥の方が旨かったよ」
焼き鳥と言われて、初めて、真哉に声をかけた時の事を思いだした。
日が暮れかかった公園で、ブランコに座っている真哉を見かけたのは高一の時だった。いつものクラスの中心で華やかな印象がある時とは違う、寂しげにも見え
る様子に通り過ぎる事ができなくて、目に入った近くの屋台で焼き鳥を二本買った。
差し出した焼き鳥に、真哉はすごく不思議そうな顔をした。やっぱ、こんなものダメだったかなって思ったら、ふっと顔が緩んで「ありがとう」って言ってくれ
た。あれが、始まりだった。
「でも……真哉は家を継がなきゃいけない」
「そんなの、欲しがるやつらは山程いる。俺なんかより、そいつらにやった方がずっと良いよ。俺は、もうお前と一緒に居る事の心地よさを知ってしまったか
ら、そんなもの興味ない。それに、新しい事を始めた。あいつを越えるなんて、まだまだ先の話だけど、欲しいものは自分の手で作っていくさ」
俺が一番欲しいのはお前だよ、と続けると腕を背中へ回して抱きしめてくる。
言葉を返せずに、そのまま腕の中に抱かれていた。
「嫌だ、と言わないならお前は俺のモンだからな」
答えない事に焦れたように真哉が言う。
それにも、答えられない。積極的に受け入れる事も拒絶する事もできない。答えない事で答えている。嫌だとは言えない事を、真哉はきっと分かってる。
少しの時間の後「俺のところへ来いよ」と言った真哉に「うん」と答えた。
満足そう微笑むと真哉は頬にキスを落とし、強く抱きしめてくれる。
好きだから諦めようと思った。好きだから幸せになって欲しい。好きだから、好きだから、好きだから。
好きだから、好きだから、好きだから、たくさんの好きを重ねたら、その人の傍にいる事を選んでいた。
それが正しいかなんて、きっと誰にも分からなくて。でも、間違っていたから何だというのだろう。
他の道を選んだ方が良かったなんて、誰にも言えない。選んだ道にしか結果はでないから。
「好きだよ」
小さく呟くと、答えるように触れてきた唇に唇で返す。
先の事は分からない。でも、今は一緒にいたいと思う気持ちを大事にしたい、と思った。