一週間先を思えば遠く感じるのに、過ぎてしまった一週間はあっと言う間に感じられた。
祐貴が出張から戻り初めて出社した日、ほとんどの人がまだ出社していないオフィスの窓辺で、祐貴と可南子は窓外を見下ろしていた。珍しいものが見えるわけ ではな い。幹線道路に面している社屋から見えるものは向かいのビル群と下の道路を走る車、そして歩道を歩く人々だけだ。それほど高いところではないから、よく 知った人なら歩道を歩いている姿で分かる。
「よく考えてみたの」
可南子が呟くように言った。
「うん」
視線を窓の外へ向けたまま祐貴は答えた。
「祐貴を諦めることなんてできない」
「だから、それは――――」
「あいつとのこと、黙っていて欲しいんでしょ?」
祐貴の言葉を遮り可南子が問いかけてくる。
「それは……」
祐貴は即答ができなかった。誰にも知られたくないことだ。けれど、秘密にして欲しいと口に出して言うことには抵抗をかんじる。悪いことをしているわけじゃ ない。
「なら、別れて」
「可南子?」
思いがけない言葉に、祐貴は可南子を見やった。
「別れてくれないなら、みんなにばらしちゃう」
歪んだ可南子の顔は痛みに耐えているように見えた。
「邪魔はしないって言っただろ」
「それは、相手が女だったらの話よ」
噛み付くように言う。
「分かって欲しいんだ」
「分からないわ。変よ。絶対変。祐貴はあいつに騙されてるのよ」
可南子は眉根を寄せ、だす声は尖っていた。
「そんなことないよ。あいつは――――」
「美樹さんとだって続いているかもしれない」
「それはないよ」
過去には繋がりがあったのだろう。それを美樹は認めた上で、別れたと言った。
「なぜ、そう断言できるの? 美樹に会ったのかって聞いたあいつは焦ってた」
「それは――――」
可南子に説明するのは躊躇われる。これ以上、間には入って欲しくない。
「とにかく。あいつと別れて。でなきゃ、本気でばらしてやるからっ」
言い捨てるように言うと、可南子は祐貴を振り切るように背を向け離れていった。まっすぐに自分の席に戻る可南子の背中を祐貴は見ていることしかできなかっ た。言葉をかけることも、離れていく可南子を止めるために触れることも。
――――別れる? 俊介と?
そんなことは考えられない。可南子とのことは、自分で撒いた種だ。自分で始末をつけなきゃいけない。
けれど、どうやって?
社内で二人の関係が暴露されれば、自分だけではなく、俊介にも迷惑をかけることになる。

どうすればいい? 心の中で問いかけながら、祐貴は俊介の顔を思い浮かべた。
『あいつの言うことなんか気にしなきゃいい』
俊介の声が頭の中で響く。
いつだって、逃げたくなるのは自分だった。俊介のため、そう言いながら結局自分に覚悟が無かった。今だってそうだ。俊介に迷惑がかかる、そう思いながら ――――いや、そう思っているのも確かだけれど、自分の保身がないとは言えない。非難を含む視線に晒されることを嫌がる自分がいる。


「これ、家の鍵だから」
昼休みに、俊介は祐貴の手に真新しい銀色の鍵を渡した。
朝は俊介が得意先へ直接行くからと会えなかった。一週間ぶりに会って、自分を残して周りは進んでいることを知った。可南子も、俊介も。
「住所と地図はメールで送っておいただろ」
「あ、うん。見たよ」
出張から帰って真っ先にした携帯の着信の確認。その中に、俊介のメールはあった。身近な人間は祐貴が国内にいないことを知っているから、他に着信はなかっ た。
「今週末、引越しするから、手伝いに来てくれるよな」
疑問ではない確認。
「ああ、うん」
不安を感じながらも祐貴は頷いた。揺れる気持ちはある。可南子の言葉が頭を過ぎる。可南子がただの脅しを言葉にするとは思えない。
「あいつ何か言ってきたのか?」
俊介が耳元で囁いた。
祐貴が答えられずにいると、「あいつの言うことなんて気にしなきゃいい」と、まるで、祐貴の頭の中を読み取ったように俊介は言った。
それは、可南子が言った内容を知らないからだろう、とも思える。けれど、心がほっと安堵のため息をつく。言って欲しかった言葉をもらえて、抱えていた不安 が少し退いていく。
「……うん」
俊介の言葉に頷いた。
可南子の言葉は気にしないですむ言葉ではなかった。
けれど、俊介にはそれを知られたくない。負担をかけてしまうのは確かだから。


会社と自宅のちょうど中間地点で、駅から徒歩十五分。それが俊介が借りたアパートだった。駅前の銀行の角を曲がり、漢方薬局の角を曲がり、住宅地の中に 入っていく。コンビニの角を曲がってまたひとつ目の角をまがった角にアパートはあった。駐車場を通り過ぎて階段を上がっていき、二階の一番端の部屋。
荷物が入ってからでいいから昼すぎに来いと祐貴は俊介に言われていた。きっと食べていないだろうと、昼食用に駅前のコンビニで弁当と飲み物を二人分買って きた。食器とかなべとかどうなっているのか分からない。冷蔵庫さえあるのか疑問だった。
ドアの前に立ってインターホンを押すことに少し躊躇った。二人きりになれる空間は久しぶりだった。引越しの手伝いに来たはずなのに、波打つ胸がある。
胸の鼓動を感じながら、祐貴はゆっくりとインターホンを押した。
「祐貴? 開いてるから入ってこいよ」
音にかぶさるようにドアの向こうから俊介の声が聞こえた。

ドアを開けてくれるものと思っていたから、祐貴は少し拍子抜けした。
ノブを回すと何の抵抗もなくドアは開き、その先に見えたのはダンボールの山だった。
「凄いね」
思わず声がでた。
一人分の引越しなんて、ダンボールが片手で足りると思っていた。手伝いなんていうのは、いい訳だと思っていたのに、箱の山を見 たら考えは変わった。とりあえず生活できるようにしないといけないだろうとがっかりしている自分がいた。引越しの手伝いと言った俊介の言葉が思い出され た。
「自分のものは全部持って行けって言われたら、結構あるもんだな」
箱山の奥から俊介が顔を出した。
「今日、一日で片付くかな。買い物とかもあるんだろ。電気製品とかどうなってんの?」
冷蔵庫と洗濯機くらいはとりあえず必要だろう。
「そんなのはいいさ」
近付いてきた俊介に手を引かれた。身体を引っ張られ、 あっと思ったときには腕の中に抱き込まれていた。
「俊介?」
「お前がいれば他には何もいらない」
額にキスを落とされる。箱に隠されていた部屋の奥にはベッドと机が置かれていた。新しく買ったのか、セミダブルのベッドには白いシーツがセットされてい た。その上にダウンケットが無造作に置かれている。
「ちょっと待って、俊介、買ってきた弁当が……」
「買ってきてくれたんだ。いいさ、ここに置いておけば」
俊介は祐貴の手から袋を取り上げ、積まれている箱の上に載せた。そして、祐貴の唇を塞いだ。
「ん……」
キスをしたのは二週間前、それは可南子に見られたときだった。祐貴の脳裏に可南子の残像が浮かんだ。
ばらしてやる――――そう言われてから、可南子とは話をしていない。仕事は全てメールで済ませていた。毎朝のように話かけてきた可南子は今自分の席で睨む よ うにパソコンを見つめていた。
俊介の手が祐貴のシャツの釦にかかる。
「片付け……」
俊介の唇がふっと離れた隙に祐貴は口にした。
「そんなのいつでもできるだろ」
俊介の唇が首筋に触れる。
い つもより敏感になっている気がした。それをあえて、祐貴は身体の内側へ抑えこんだ。感じることを否定したい自分が頭の隅にいる。別れたくはない。けれど、 別れなければいけないかもしれない。そうなれば、俊介に抱かれることもなくなる。少し触れられるだけで感じてしまう身体は、別れることを納得するのだろう か……。
俊介にされるまま委ねていた身体は直ぐに、衣服を剥がされた。そのままベッドに押し倒されそうになって、祐貴はかぶりは振った。
「待って、シャワーを……」
こんなに早急にされるとは思っていなかった。いつもは、キスをした後、シャワーを使った。そういうものだと思っていた。
「いいよ」
俊介ためらいもせず、祐貴をベッドに組み敷いた。
「でも」
男女の仲ではないから、それなりの準備が必要なことを俊介だって知っているはずだ。
「ゴムを使えばいいんだろ」
かまわず、祐貴を押さえつけると、胸に唇を這わす。
「あ、汗かいてるよ」
「いいさ」
胸の突起を口に含まれて、祐貴は身体がびくっと震えた。直ぐに硬くなったそれを、俊介は舌でもて遊ぶようにする。
「でも」
「身体はこんなに正直じゃないか」
硬く尖った胸の突起を指で転がすと、そのまま俊介の手は下へ伸びた。
「ここも」
硬くなって緩く立ち上がっているものを、俊介が手の中に包みこむ。身体の奥が生む熱を静めたくて、祐貴は深く息を吐いた。
「我慢することないよ」
俊介の手が祐貴のものをゆっくりと擦り上げる。
「あ、俊介っ、待って」
祐貴は俊介の肩を掴んだ。けれど快感を追っていこうとする気持ちは抵抗することを拒む。流されるまま祐貴は俊介から与えられる律動に身体を揺らされてい た。
「いいよ、イけよ」
俊介の言葉に祐貴は顔が歪む。
欲しいのは自分だけじゃないはずだ。不本意な思いをしていたのは俊介のはずだった。
いつも、いつも、いつも、俊介は我が侭を受け止めてくれる。自分のことより先に考えてくれる。いつも、いつも、今も。
高まる熱はあっけなく俊介の手の中で弾けた。

自分が放ったものを拭う俊介を見ながら、祐貴は荒い息をついていた。
頂点まで駆け上った熱は弾け飛ぶ雫に全て奪われたように、身体の中に残るのは気だるさだった。
それで、満足していたときは確かにあった。
けれど、今は違う。
「俊、介」
手を伸ばして愛しい人の名前を呼ぶ。腕の中に入ってきたその人を抱きこんだ。
「欲しい……」
その人の耳元で祐貴は言葉にした。
俊介は祐貴の腕を振り解くように身体を離し、目を細めると頬にキスを落とした。着ていたTシャツを脱いでベッド脇に放ると、手を伸ばして枕元からプラス ティックの容器を手に取る。
それは傷つけないためのもの。
容器の中に ものを手に取ると、俊介は祐貴の内股から手をすべり込ませた。俊介を助けるように、祐貴は自分から身体を捻って足を開いた。俊介の指が窄まりに触れると、 それに応えるよ うに、そこはひくついた。
「欲しい……今すぐ」
身体は繋がることを望んでいた。
「まだ、ダメだよ。久しぶりだし」
片手で祐貴の髪をくしゃっと撫でながら、俊介のもう一方の手が窄まりを優しくなでる。
身体の奥は欲しがっているのに。ぴったりと閉められたそこは、入ることを拒もうとする。
欲しいのに、こんなに欲しいと思っているのに。
祐貴はそっと、手を下へ這わせると、俊介のジーパンの手をかけた。ゆっくりと前を撫でると確かにそこに存在を誇示するものがある。
「祐貴?」
「欲しいんだ」
その思いは切なさに似ていた。すぐそこにあって、消えたりはしない。もうすぐ感じることができると分かっているのに、待てないと身体が心が言う。
そのまま釦を外しファスナーを下ろすと、その中へ祐貴は手を滑り込ませた。感じるぬくもりを手の中に包みこむと、心がほっと息をつく。俊介は自分のもの だ、 と安心した。
「嫌がっていたのはお前だろ」
言いながら、俊介は窄まりを撫でていた指を中へ差し入れる。
「でも、欲しかったんだ」
自己の中で抱える矛盾はモラルの方が勝つ。その方が大切なものを失う可能性が低いと思うから。一時の感情で全てを失いたくないと思うから。
祐貴の手の中で俊介のものは硬く質量を増していく。
愛しくて、愛しくて、愛しくて。
この気持ちがどこから溢れてくるのか分からないまま、何に命じられているのかも分からずに、悦を与えられる。
ダンボール箱の山が回りの視界を遮る狭い空間の中、深い息と湿った音が響いていた。

俊介のものが緩く握っていた祐貴の手の中から意志を持ったように抜けていく。
「俊介?」
「もう……いいだろ」
言いながら、俊介が祐貴の腰の下に枕を差し入れる。
「うん……」
正直、どれだけ辛かろうが良かった。欲しい気持ちの方が上だ。
窄まりにあてがわれるものを感じて、はっとした祐貴が腰を引こうとしたのに、俊介は押さえ込んでその先端を祐貴を中に埋めた。
「俊介っ」
声は叫びにも近かった。
ゴムを使うと言っていたのに、俊介にそんなそぶりは無かった。
「もう、いいよ」
「でも」
引こうとする身体は押さえられ、確実にゆっくりと中へ入ってくる。
「すぐシャワー浴びればいいんだろ」
「でも」
「直ぐに欲しいって言ったのは、お前じゃん」
全てを埋めて俊介が、額にキスを落とす。
「でも」
「お前を感じるのに、何かを間に挟むなんて、嫌だ」
言葉の後に、俊介は顔を歪め深く息を吐いた。
「最初からそのつもりだった?」
きっと、たぶん、そうだったんだろう。
「あんなモン、俺が持ってるわけないだろ」
額から耳朶にそして首筋に、俊介の唇が触れる。身体の中では自分が欲しいと望んでいたものを確かに感じた。
普通ではないから、色々な制約がある。
繋がるための準備とか、後始末とか。
その煩わしさを分かった上で、選んだ選択だった。
けれど、それは時として自分達は普通ではないのだと、思い知らされる。

変だ、と言った可南子の声が祐貴の頭の中に響いた。
変、なのかな――――男同士で抱き合って、思いを確かめあって、重ねあって。
欲しがっていたものが、今自分の身体の中にある。
それは、望んだものを与えてくれる。駆け上がっていきそうになる、愉悦。愛されていると感じる、安らぎ。
いつもなら、自分から追いかけてしまうそれらを追ってしまうことに、躊躇う気持ちが生まれる。
変、なのかな。
俊介に突き上げられるまま、祐貴は身体を揺らされていた。
入ってきたものが抜けていく。そしてまた入ってくる。内壁が擦られる。俊介を直に感じる。手を合わせるのとは違う、肌を合わせるのとも違う。内側で深く感 じる。

突然俊介の動きが止まった。
祐貴がゆっくり目をあけると、不安げな俊介の顔を飛び込んでくる。そして、手が優しく頬に触れた。
「何、考えてる?」
俊介の問いかけに、祐貴は緩くかぶりを振った。
「怒ってるのか?」
俊介の手が優しく頬を撫でる。
その問いにも、祐貴はかぶりを振った。
「じゃあ、なんで――――」
「やめないで」
「え?」
「止めないで、俊介」
顔が自然に歪む。
「これが、いいのか?」
俊介がゆっくり突き上げる。それに、祐貴は小さく頷いた。
いつもは駆け上がっていく熱が今日は違った。身体の中をじわじわと熱くする。そして、それは少しづつ溜まっていく。
「俊介……」
何かに縋りつきたくて、手に触ったシーツを握りこんだ。
「ん?」
「すごく、いいんだ、どうしよう……」
溜まっていく熱に愉悦が深くなっていく。
「はっ」
俊介が笑った。
「もっと、よくしてやるよ」
律動のリズムが早くなる。
「あ、あ――」
泣くたくなるほど苦しくなって、苦しくって逃れたくなるほど身体が疼いて、そのうち身体の奥で膨らんでいった熱が破裂するように弾けた。と、同時に腹部に ねっとりと湿った感覚があった。
「ゆう、き?」
俊介が苦しそうな声を上げる。律動が更に早く小刻みになって、俊介のものが身体の中で震えるのを祐貴は感じた。
頭上で俊介が大きく息を吐く。
崩れ落ちるように両脇に肘をついて祐貴を見下ろしながら、俊介の身体も波打っていた。湿った息遣いが言葉を交わすように波打つ互いの間で流れていた。

俊介の手が祐貴の前髪を掬い上げる。
「よかった?」
俊介の言葉に頷くと、祐貴は目を閉じた。まだ、身体の奥は震えていた。
話には知っていた。慣れてくると、入れられるだけでイけると。それを今まで経験したことは無かった。体質によると言われることが多い性質のものだから、そ ういう人もいるのだと、そういう知識で捉えていた。
いつもは弾けると冷めてしまう身体の熱が、イッたはずなのに身体に残っていた。
「そんなに、良かったのか?」
声を出すのが辛くて、頷く。
「声もだせないくらい?」
また頷いた。
「じゃあ、俺と住む?」
頷きかけて、腕を俊介の背に回して抱きしめた。
「なんだ、ちゃんと意識があるんじゃないか」
不服そうな声を出しながら、俊介の指が髪を弄ぶ。
「別れたくない……」
祐貴は口の中で呟いた。思わずでた言葉だった。
「……別れる必要ないだろ」
俊介に聞こえるように言ったつもりは無かったのに、言葉は伝わっていたようだった。
祐貴はもっと近付きたくて俊介の胸に額を押し付けた。
別れたくない。たとえ、変だと言われても、おかしいと言われても、誰もわかってくれなくても。
「二人なら、どこででも生きていけるよ」
俊介の手が頭を撫でる。見上げた祐貴に俊介は口元を緩めた。
優しい笑顔に胸が痛くなって、祐貴の顔が歪んだ。

「僕は俊介に我が侭を言ってばかりだ。なのに、なんでそんなに思ってくれるの?」
いつも頼って縋って甘えてしまうばかりだ。
「好きだから、に決まってるだろ」
「どこが? 」
自分は自分が大嫌いだ。
「顔……かな」
意外な言葉に、祐貴は俊介を凝視した。言葉がでなかった。
「そんなに驚くなよ……お前が感じていること全て表すところだろ。嬉しいとき悲しいとき辛いとき怒ってるとき、全部でてくるだろ」
俊介が頬を撫でる。
「そうだけど……」
なんか釈然としないものが残った。
「お前は頑張りやだし、人の痛みが分かるし、何でも器用にこなすし、いいところはいっぱいあるけど、そんな言葉を上げても他にもいるだろ。そういうやつ」
「僕はそんな」
祐貴はかぶりを振った。自分の俊介の言葉にはまるとは思わなかった。
「たとえどんなに似せて作ったとしても、表情でお前だって分かるよ……きれいだからじゃない、お前の顔見るとすごく安心する。それがどうしてかって訊かれ たら分からないけど」
お前は? と俊介は後ろに言葉を付けた。
――――俊介の好きなところ?
「気配」
ふと思った言葉が口からでた。
「なんだよ。俺は忍者じゃねえぞ」
不満げに言いながら俊介は笑った。
「安心する。俊介が側にいると」
何が、とか、どうして、とか、そんなことは分からない。ただ傍にいると、触れていると、それだけで安心する。
そう、安心するんだ――――それは、俊介の言葉と重なった。
それでいいんだ、そう祐貴は思った。
そう思ったら心の奥のわだかまりがすっと消えていった。
つりあわないと思ったときもあった。自分にはもったいないと思ったときもある。でも、俊介が自分と同じ気持ちを持ってくれるなら、それでいいんだ、そう素 直に思えた。
同じ気持ち――――愛しくて、大切で、ずっと傍にいたい。
重なった言葉はきっと同じ気持ちを持っている。
「あ、シャワー」
飛び起きた祐貴を俊介が押さえつけるように組み敷いた。
「その前に、もう一回」
「でも、終わったらすぐって言っただろ」
もう今更だとは思っても、素直に引きたくはなかった。関係を続けていくためには大事なことだから。大切な人だから。
「もう、一回やらせてくれたら、な」
言いながら、ねじ込むように中へ入ってくる。一度解されたところは、すぐに受け入れた。
唇を塞がれて、祐貴は大人しく従った。暴れたところで、ややこしくなるだけだ、と思った。


「来年の十月になったら、一緒に住めるんだよな」
身体に唇を這わせながら、俊介が言う。
「ん」
俊介の頭に腕を回しながら、祐貴は頷いた。
別れて――――可南子はそう言った。
けれど。
決めたよ、可南子。
――――僕はもう、引かない
俊介を感じながら、意識が掠れていく中で、それだけは強く思っていた。

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