結局。
「祐、言ったことは忘れないでよ」
と飛鳥が強気の発言でしめ、その場はお開きになった。
祐は翔太と帰る道すがら、
「また、飛鳥が入れ替わりたいとか一つになりたいとか言ってきたら、お前は承諾するのか?」
そう翔太に聞いてみた。
飛鳥がまた何を言ってくるか分からない。
「分からない」
翔太が頼りない答えをする。
「なぜ? なんでそこまで飛鳥に言いなりなんだ? 」
言いながら、祐は一つの結論が頭に浮かんだ。
好きだから?
翔太は飛鳥を好きだと言っていた。だから?
「言いなりになってるわけじゃないよ……」
翔太がぼそっと言う。
「じゃあ、お前は飛鳥と入れ替わりたいとかひとつになりたいとか本気で思ったのか?」
何のために?
「そうなったらいいな、とは思ったよ」
言いながら翔太は視線を伏せる。
「なぜ?」
今まで聞けなかった言葉がすっと喉から出た。今なら、翔太は話してくれるような気がした。
「祐は飛鳥ちゃんのことが好きなんだと思ってたから……」
――え?
それは、翔太が神社の階段の踊り場でも言っていたことだった。その時は深く考えなかったけれど、飛鳥の言いなりではなく翔太自身の意志があるなら、それは
自分が
思っていたことと違う結論を意味しているんじゃないかと祐は思った。
それを確かめたくて、祐は立ち止まった。
「僕が飛鳥を好きだと思ったから、お前は飛鳥になりたかったのか?」
言いながら、祐は翔太に頷いて欲しいと祈るような気持ちになった。
「……うん」
少し躊躇いぎみに頷いた翔太に、祐は全身の力が抜けた。
「もっと早く言ってくれよ……」
ここ数日重い気持ちを引きずっていたのは何だったんだと思う。
「え、言ったよね」
翔太が確かめるように聞いてくる。
確かに、飛鳥のことを好きだと思っていたと、言葉としては聞いた。
「お前が飛鳥の言いなりだったのか、自分の意志があったのかが大事なんだよ」
祐はぼやくように言った。
日頃、飛鳥の言うことには絶対服従に近いものがあったから、その類かと思っていた。
それに。
「飛鳥が好きだって言ってたじゃないか」
それははっきり確かめたことだ。
「うん。優しいし、かわいいし。それに、祐が好きな人だと思ってたから……仲良くしないと、祐とはいられないかと思った」
――は?
「そんなわけないだろ……」
たとえ、飛鳥のことが好きだったとしても、友達は別の意味で大切な存在だ。
「飛鳥ちゃんと入れ替わったら祐と恋人になれるし、それに飛鳥ちゃんは……」
翔太が言葉を途中で止めた。
「何? 今更隠し事するなよ」
好きだからどんな小さなことでも気になる。
「飛鳥ちゃんは俺と同じなのかなって思ったし……」
「同じって?」
翔太と飛鳥の共通項なんて思いつかない。
「同性が……女の子が好きなのかなって、だから男になりたかったのかな、って思った」
なるほどね。
「……そうか」
恋愛面にはとことん疎いんじゃないかと思っていたけれど、翔太は翔太なりに考えているんだと祐は思った。
「じゃあ、もう変なことしないよな」
下手をすれば命にもかかわってくることだし、する必要もないはずだ。
「でも……」
翔太の返事ははっきりしなかった。
「まだ、何かあるのか?」
どうせなら、全て洗いざらい言って欲しい。
「飛鳥ちゃんの気持ちが分かるから――」
下を向いて翔太が言葉を詰まらせる。
一つになりたいと言った飛鳥にいいよと言ったのは、そんな翔太の気持ちからなのだろうと思った。
「……飛鳥にはさ、僕なんかよりずっとお似合いの相手が現われるさ」
正面を向ける人は一人しかいないから、そうあって欲しい。
「そうなのかな……」
翔太は呟くように言った。
日常は淡々と流れていく。
お互いの気持ちを確かめ合ったのに、どちらかといえば、翔太との距離が遠くなったような気が祐はしていた。
今までは普通に握れた手に触れることを躊躇ってしまう。目が合うとそのまま固まってしまって言葉がでない。翔太に向かい合うと自分の動作が酷くぎこちなく
なるように祐は感
じていた。
意識しすぎだよと思うのに、なかなか体は言うことを聞いてくれない。
キスしたいと思う気持ちはないわけじゃない。その先に好奇心もあった。
けれど、突然変わってしまった関係に戸惑いもあった。
そんな中で一つ変わったことと言えば。
祐が図書当番の時は飛鳥たちと教室にいた翔太が図書室に来て大人しく本を読んでいるようになった。
きっかけは何であれ、本を読むことが面白いと思ったのなら、それはそれでいいと祐は思っていた。
祐が図書室のカウンターにいると、図書室に入ってきた翔太が書架を少し物色すると本を一冊取り出してきて、窓際の机で大人しく、本を読み始めた。
「けっこう続くんだな」
大野が意外そうに言う。
本を読むのはいいことだとは思うけれど、いかんせん祐には先日のことが記憶に新しい。
気になるから、祐は書架の見回りの振りをして翔太の後ろに立って本の中身を覗いた。一応ちらっと斜め読みしてタイトルだけ覚えているようにしていた。
今までは、特に気にならない本だったけれど。
――え?
数行読んで、祐は目が点になった。
高校の図書室にある本なんていうのは、有名なものか硬い内容のものだと思っていた。ただ、寄贈されたものはしっかりチェックがされていないものもあるか
ら、趣味に走ったような類の本も絶対ないとは言えなかった。
気づいたらしい翔太が後ろを向いてきて、
「本に書いてあることって、全部嘘なのかな?」
真剣な瞳を向けてくる。
「そりゃ、本によるだろ」
ドキュメンタリーもあるし、事実に基づいたフィクションもある。
「これはどうなのかな?」
翔太に縋るような目で見られて、
「試してみるか?」
そう祐は答えていた。
「いいの?」
少しの驚きと喜びを翔太が表情で表す。
「いいよ」
喜ぶ翔太に、ダメだとは言えない。
同性愛を扱ったらしい本には赤裸々な絡みが記述されていた。