昼休みに、教室で数人の仲間と話をしていた。
「翔太」
と隣にいた翔太を呼ぶ声がして、祐が声の方を見ると飛鳥がいた。
飛鳥が手招きをして翔太を呼ぶ。
「ちょっと行ってくる」
そう翔太は言って、飛鳥と共に教室を出ていった。
祐はその姿を見送って、けれど、見過ごすことはできなくて、二人に気づかれないように後をつけた。
この前のようなばかばかしいことはもうしないだろうと思ってはいるけれど、あの二人がコンビになると何をするか分からない怖さもあった。
翔太は飛鳥の言いなりに近い。飛鳥のことを好きなのかと思うこともあったけれど、そうなら、体を入れ替えたいとは思わないだろう。
翔太の真意は分からなかったけれど、あの時のことを話題にだすことが躊躇われた。
翔太の気持ちを知りたくないわけじゃない。ただ、こちらの気持ちは伝えたのに変わらない態度は友達以上の気持ちはないのだと言っているように思えた。


翔太と飛鳥は階段を上っていって、これは図書室へ行くのかもしれないと思った。けれど、二人は図書室の階よりも上に上がって行った。その先は屋上しかな い。
――まさか?
屋上から飛び降りでもされたら、ただですむわけがない。
後をつけてきたことがばれることを少し躊躇いはしたが、そんなことを言ってる場合でもないと思った。
階段を駆け上がって重いドアを開け辺りを見回したけれど、二人の姿は見えなかった。
フェンスへ駆け寄り周りを見渡しても見つけられなくて、階段室の裏に回って、祐はその場に固まった。
気づいた翔太が視線を向けてきて、それにつられるかのように飛鳥も見てくる。
――今何をしようとしてた?
飛鳥が好きなのは自分だとついこの間も言っていた。
なのに、なぜ?
壁にへばりついたような翔太は、もごもごと口を動かしながら、ばつが悪そうな顔をする。そりゃそうだろう。キスするところなど、あまり見られたくないもの だと思う。
翔太はやっぱり飛鳥が好きだってこと?
でも、飛鳥がなぜ?
ただ。
「何をしようとしてたんだ?」
祐は二人を交互に見た。ただ単にキスをしたかったわけじゃなくて、何か魂胆が隠れている気がした。
「分かったでしょ? 邪魔しないで」
飛鳥がぷいっとそっぽを向く。
翔太が飛鳥を好きだというのなら、それはそれで仕方ないと思う。
「翔太、何をしようとしてたんだよ」
できることなら、好きなやつが他のやつとキスなんてして欲しくはない。
翔太は口をもごもごと動かしながら、無言で視線を伏せた。
「お前、何か口に入れてる?」
何か大きいものを口の中で転がしているように見える。
「何を食べさせたんだよ」
祐は飛鳥を見た。
いくら飛鳥でも危険なものを食べさせないとは思う。けれど、何か分からなければそれは不安になる。
「ただの飴よ」
そっぽを向いたまま、飛鳥は答えた。
―― 飴?
そう言われれば納得できることではあったけれど。
「何をしようとしてるんだよ!」
いい加減、勘弁して欲しい。
「だって、翔太が羨ましいんだもん……」
理由はこの間と同じだった。
「翔太だって、いいって言ってくれたもん」
不服そうな声で続ける。
「翔太、本当なのか?」
翔太に問いかけると、翔太はこくこくと頷いた。
「そんなに体を入れ替えたいのか?」
翔太が拘る理由が分からない。
祐の問いかけに、翔太はふるふると首を横に振った。
「え、じゃあ、何?」
また、何か新しいことを始めたらしい。
「……ひろつになるんら」
少し躊躇うように翔太は答えた。
大きな飴玉を口に入れられているからなのだろう、言葉ははっきりしなかった。
「え、何? ひとつになる?」
何が?
「うん、おれろあすかちゃん」
―― は?
「何考えてるんだよ……」
翔太の答えに、祐は頭も体も気力も全ての力が抜けていくように感じた。


放課後の図書室は、いつもと同じく静かだった。
飛鳥に手渡された漫画本を読み、祐はため息をついた。
「こんなこと、他で試してからやってくれ」
キャンディーを口を入れたままキスしたら片方の体に乗り移り、二重人格の人間ができちゃうなんてことは、ファンタジーの世界だけでたくさんだ。
「じゃあ、試してみてできたら、やっていいの?」
飛鳥が真剣な顔で言ってくる。
「いいよ」
そんなことがあるわけがない。もし、起こったとしたら、それはそれで敬意をあらわそうと思う。
「翔太も翔太だよ」
なんで、そんなことを受け入れたのか。ただ、今回のことは命にかかわることじゃなくて良かったと心底思った。
「頼むから、もう、こんなことしないでくれよ」
こっちの命がいくつあっても足りないと思う。
翔太と飛鳥は顔を見合わせて、複雑な表情をしていた。

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