それしか方法はなかった、と言っても翔太をおぶって五分で祐は後悔した。体育会系でもなければがっちりした体型なわけでもない。大人しく社務所で電話を借
り親に迎えに来てもらえばよかったかな、とも思ったが今更そんなことも言えない。
「オレ、大丈夫だよ」
背中越しに翔太が声をかけてくる。
「怪我人は黙ってろ」
答えながら、返事をするのもきついんだよ、と祐は思っていた。
これが一ヶ月前だったらもっと楽だったんじゃないかと思う。食べるだけあって、翔太も成長し
ているんだと思った。
とりあえず、怪我の手当てをしなければいけないから、祐は神社から一番近い自分の家を行き先に選んだ。飛鳥に先に帰るか聞いたけれど、飛鳥も一緒に付いて
くると言った。
二階にある自分の部屋へおんぶしていくのは危険でもあるので居間に通し、手当ての前にアメリカンドックを温めて翔太へ差し出した。
目は欲しそうなのに、翔太は手を出してこなかった。
「とりあえず、食べろよ。後で理由は考えるから」
祐は翔太の手を取ると、アメリカンドッグを握らせてやった。
「あ……ありがとう」
翔太が見上げてきて、次にはアメリカンドッグをかじっていた。
「食べるか?」
祐は飛鳥にも聞いてみたけれど、飛鳥は力なく首を横に振った。
祐は救急箱を取ってくると、翔太の脇にしゃがんで、
「いいか?」
一応確認をして、ズボンをまくりあげた。
「大丈夫だよ」
と、翔太はまだそんなことを言っていた。
「骨は折れてないみたいだから、捻挫だね。医者に行く?」
祐が翔太を見上げると、翔太は首を横に振った。
「じゃあ、明日学校で保健室の先生に診てもらった方がいいな」
本当は医者に行くのがいいのだろうが、もう医者は閉まっている時間だし、翔太がおばあさんに何か言われるのも可哀想だと思う。
「迎えに行くよ」
そう祐が言うと、どうしたらいいのかわからないような複雑な表情を翔太はした。
「行くからな」
祐は念を押した。嫌だと言われればそれまでだけれど、行かなければ余計心配することになると思う。
多めにシップを張り、厚い包帯できつく足首を巻いた。
「立てるか?」
祐が聞くと、翔太が恐る恐る立ち上がって頷く。
「送っていくよ」
そう言うと、祐は翔太の鞄を持った。
暗い道を翔太の速さにあわせてゆっくりと歩いていた。
飛鳥は何も言わず、後ろからとぼとぼと歩いてきていた。暗く声をかけるのも躊躇われるような雰囲気をまとっていて、その原因が自分の言ったことだと分かっ
ているから余計に声はかけられずにいた。
別れ道で後ろを振り返ると、飛鳥がはっとしたように顔を上げた。
「大丈夫か?」
祐は飛鳥に問いかけた。
普通に歩いているのだから、大した怪我はしていないのだろうと思う。
「うん、大丈夫」
飛鳥はそう言うと、
「翔太、ごめんね」
小さな声で呟いた。
どっちが言い出した事かは分からないが、飛鳥なりに翔太の怪我を心配しているのだと祐は思った。
翔太は無言で首を横に振って飛鳥に答えていた。
「じゃあな」
そう祐が言うと、
「うん」
と飛鳥が小さく頷く。
翔太を早く家に送り届けたかったし、祐は翔太を促し足を前に出した。
二人きりになっても、翔太は何も言わなかった。
翔太の家の前で
「大丈夫か?」
祐は翔太に問いかけた。
おばあさんへの説明をどうするのだろう、と思う。かと言って、自分がでしゃっばって後で翔太が怒られることになっても可哀想だ。
「うん」
翔太は小さく頷くと、
「ありがとう」
と小さく笑った。
「無理するなよ」
祐が言えたのはその程度のことだった。
手を振る翔太を見送り、翔太が玄関の中に消えると、祐はその場を後にした。
気持ちを知られても嫌われることはなかったみたいだった。そのことに気が抜けた反面、はっきりとした返事をもらっていないことが心の中に残った。
嫌われなかっただけでいいじゃないかと思いながらも、翔太は自分をどう思っているのだろうということが、翔太と別れてから祐は気になり始めた。
朝、家まで迎えに行こうと少し早めに家を出たのに、翔太はいつもの待ち合わせ場所にいた。
にこっと笑って「おはよう」と言う。
まるで、昨日の告白など無かったことにされたみたいだった。
「大丈夫か?」
祐は翔太の足首に視線を向けた。
やはり気になるのは足の怪我だ。
「うん。祐が手当てしてくれたから」
翔太が嬉しそうに言うから、祐も嬉しくなってくる。翔太が今のままを望むなら、このままでいいか、と思えてくる。
「朝、一番に保健室へ行こうか」
そう言って祐は足を前に出した。どうしてもゆっくり歩くことになるから、あまり暢気にもしていられないと思った。
数日経って、翔太の足が治り、変わったことと言えば飛鳥が大人しくなったことぐらいだった。
休み時間とか、今まではクラスの友達と騒いでいたのに、ぼんやりと窓の外を眺めていることが多い。それは、自分が原因なのかもしれないと思っ
ても祐には何をすることもできなかった。
当の翔太はといえば、特に変わらず、同じ笑顔を見せてくれた。ただ、時々飛鳥を見て、顔を曇らせていることはあった。
翔太は自分が飛鳥と付き合うことを望んでいるのかもしれないと祐は思ったけれど、そうする気にはなれなかった。
空は高く、青い空と秋の心地よい風が暗くなりそうな心を宥めてくれた。