いつも通りに待ち合わせ場所で会い、いつも通う道を並んで歩く。失恋しても日常は変わらない。ただ、翔太との会話は減った。
何を言おうとしても祐はため息がでそうになった。諦める方向に動いているはずの気持ちはじたばた抵抗する。翔太の気持ちはもう聞いてしまったのだから、今 更告白なんかしても翔太を困らせるだけだ。
翔太を見ると、翔太が何?と言った風に見返してくる。その仕草は変わらないのに、瞳が少し怯えているように見えた。
その瞳の前に何もできない。今のままの関係――それを翔太は一番望んでいるのだと思った。

教室へ入る直前で
「祐」
そう翔太が声をかけてきた。
「何?」
祐が翔太を振り返ると、
「今日……」
と言いながら、言いづらそうな顔をする。
「今日も、飛鳥と帰るんだろ?」
祐は投げやりに言い放った。
祝福してやれない気持ちは抑えきれない。翔太がはっとするような顔をするから、言い方がきつかったなと思っても後の祭りだ。
「いちいち断らなくてもいいよ。これから帰りは別行動ってことだろ?」
言いながら祐は胸が痛くなってきた。けれど、今の関係を続けたいならば我慢しなければいけない痛みだった。
辛いのは自分だけのはずなのに、翔太が切なげに眉を顰めた。
「怒ってる、よね?」
確認するように聞いてくる。
「怒ってなんかいないよ」
怒ってるわけじゃない。
「もう、今日だけだから」
消え入りそうな声で翔太が言う。
――今日だけ?
「そんな気なんて使わなくていいよ……」
こいつが辛そうな顔をするのは弱かった。
「別に、僕は怒ってなんかいないよ」
それは本心だった。
「ただ、心配なだけだ」
そう、いったい何がしたいのか。なんで話してくれないのか、その意味が分からない。
「今日で終わりだから」
翔太が同じことを繰り返す。
――終わり?
「じゃあ、明日になれば今までのこと全て話してくれるのか?」
付き合い始めたとかそんなことはない?
「ごめん……」
翔太が顔を伏せる。
「じゃあ、明日からは、もうヘンなことはしないのか?」
制服は乾いたみたいだが、額のガーゼはまだ張られたままだ。
「たぶん……」
翔太の答えは頼りないものだった。
――もしかしたら
図書室にヒントはあるのだろうかと祐は思った。

昼休み、クラスメートに弄られている翔太を横目に見ながら、祐は図書室へと急いだ。
翔太と飛鳥が読んでいた本のタイトルをはっきり覚えているわけじゃない。ただ、うっすらと記憶にありそうで、見たら思い出すかもしれないと思う程度だっ た。
「確か、ここだったよな」
翔太と飛鳥が物色していた棚だと思う。
「これ?」
ひとつ手に取ってみた。
本を読むことは嫌いじゃない。けれど、読むものは偏っていた。この手の、ファンタジーを含んだライトノベルものはあまり手に取らない。
ぱらぱらとめくりながら斜め読みをしていき、
――はぁ?
とあるページで手が止まった。
「冗談だろ?」
祐は自分の目を疑った。
「まさか?」
もうひとつ当たりをつけて手に取り、その中身を読んでため息が出た。
今日が最後だと言っていた。
この本と同じことをしようとしてる?
理由は分からなくても、それは、止めなければいけないと祐は思った。

放課後。
祐は先に学校を出た振りをして、後から出て来た二人の後を追った。
そんなことはばかばかしいからやめろと言えばいいのかもしれないけれど、自分の考えていることが正しいかどうか分からない。
それに、やめろと言ってやめるとも思えなかった。隠れて知らないところでやられたら、きっと後悔しても後悔しきれない。
予想通り、家から程近い小学校の裏の神社へ入っていくのが見えて早く止めないといけないと思い、祐は足を速めた。
入り口の大きな鳥居をくぐり、社務所の前を通って、池や東屋を抜けて本堂へと続く参堂を進むと、小さな鳥居の先に階段が見えた。その階段の上に二人はいる はずだった。
少し息を整えて、鳥居をくぐり上を見上げると案の定二人はいて、手を繋いで下を見ていた。
「祐……」
翔太のものらしい小さな声が聞こえた。
見つかって諦めてくれるかと思ったのに、二人の姿はすっと消えていった。
「翔太っ!」
祐は階段を駆け上がりながら、叫んだ。
本堂の脇にも階段がある。そちらへ回ったのかもかもしれなかった。
祐が階段を駆け上がった先に、二人の姿はなくて、もう一つの階段の方へ回ると、数段あある階段の下の踊り場で二人は重なるように倒れていた。
「翔太っ! 飛鳥!」
祐が階段を駆け下りると、むくっと翔太が顔をあげた。
「大丈夫か?」
そう聞くと翔太が泣きそうな顔をしながら頷く。
「飛鳥は?」
倒れたままの飛鳥を抱き起こすと、体は力なく腕の中で横たわる。胸のふくらみが上下していたから生きていることに安心したけれど、どうすればいいのか、救 急車を呼ばなきゃいけないのだろうかと思った。
一番近い電話があるところはたぶん社務所で、祐は飛鳥をゆっくり下ろそうとすると、飛鳥の腕が祐の腕を掴んだ。
「少しでいい、このままでいて……」
少し掠れたような、小さな声で飛鳥が言う。
「痛いところはないのか?」
十段ほどの階段とは言え、落ちたのだからどこか怪我していてもおかしくない。
「一番痛いのは、胸かな……」
飛鳥が腕の中に頭を埋めてくる。
「何、言ってるんだよ」
真っ当な答えだとは思えなかった。
「このまま死んじゃいたい」
そう言って飛鳥がぎゅっと抱きついてくる。冗談じゃないぞと祐は思った。
「おい? 飛鳥?」
引き剥がそうとしても、そうはさせてくれなかった。
「飛鳥?」
呼んでも答えてはくれなくて、そのうち、飛鳥は小さく嗚咽をこぼし始めた。


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