そのまま帰れるわけがなかった。
祐が図書室に入ると、二人の姿は無かった。入ったことは確かめたのだから、魔法でも使わない限りこの中にいることは確かで、図書室は隠れるところが山ほど
ある。
あまり見たくないものを見せつけられたりすることもあるから、書架の中を無闇に歩きたくはないけれど、二人のことの方が気になった。
カップルがいちゃついている場所はだいたい決まっていて、そこを外せばいいのだけれど、いかんせん二人の目的は分からない。
ひとつづつ書架の通路を覗いて行くと、程なく二人の姿が目に入った。
飛鳥が一冊本を持っていて、翔太が書棚から本を取ろうとしていた。翔太が目当てらしい本を引き抜くと、二人並んで閲覧用のテーブルの方へ歩いていく。
――なんだろう
二人が手に取った本が気になって、二人がいたところまで行くと、そこは著者名があいうえお順で並んでいる文芸誌のコーナーだった。
「ここいらだったよな」
名前を知っている作家の本のようだったけれど、それをなぜ二人が持っていったのか分からなかった。
書架を出て、二人の姿を見つけると、その正面のテーブルに祐は座った。ここなら気づくだろうと思ってしたことだった。
翔太はつい二日前までは、自分の周りを離れなかった。あいつから、先に帰っていいなんて台詞を聞くなんてことを考えたことは無かった。なのに、そいつは、
今女と二人でいて、ついこの間飛鳥から好きだと告白されたばかりだから、まさかあの二人が付き合うような関係になっているとは思えないけれど、面白くない
ことだけは事実だった。
二人は同じ本を顔を引っ付けるようにして熱心に読み、時々小さな声で互いに囁いていた。知らない人から見れば恋人同士に見えなくもない。それほど接近して
いた。
熱心に本を読んでいるとは言っても、それは冒頭だけで、直ぐに次の本へ行き、それも冒頭だけ読むと小声で何か言い合って、席を立った。
時間にして、ほんの十分か十五分だった。
いい加減気がつけよ――と思っていたのに、当の二人はちらっとも視線を向けてくることなく、書架へ本を返すと、さっさと図書室から出て行った。
「何だよ……」
ぼやきがでる。
まるで二人の世界がコーティングされていて、外界は見えないかのように、そして二人は消えて行った。
小さくため息をこぼすと、祐も席を立って二人を追った。
きっと何を聞いても答えてくれないだろう。自分の目で確かめるしかない。
幸いそれほど急いでいる様子もなく、祐が階段を早足で下りると二人の姿はすぐに見つかった。
昇降口を出て校庭を横切り校門を出たところで、家へ帰るなら右へ曲がるところを左へ曲がった。
家までは歩いて30分ほどの道だ。左に曲がっても帰れないことはないけれど、二倍はかかる遠周りになる。
「何、考えてんだ?」
絶対何かがあるわけで、二人を見失うわけにはいかなくなった。
五分ほど歩くと、脇にある公園に二人は入っていった。
「はぁ?」
そこは割りに大きい公園で、広いグランドと少しのアスレチックと四季折々の花が咲く庭とカメと鯉がいる池があった。
夕方になるとところどころにあるベンチでいちゃつくカップルもいるらしい。それが自分達の高校の生徒であることも結構な確率であるらしい。
まさかその中にあの二人が入るなんてことは冗談でも思いたくはない。
祐は公園の入り口で一瞬躊躇って、けれど、足を前に出した。
もし、あの二人が付き合うことになるならそれでも自分の目で確かめたかった。少し遅れたことで二人を見失っていて、この際見つかっても仕方ないと足早に公
園を中を探した。
一番ベンチの多いグランドにはいなかった。アスレチックにも、庭にもいなくて、まさかと思った池のほとりで二人を見つけて、まさかと思う光景に祐は息を呑
んだ。
――嘘だろ?
二人は池のほとりで抱き合っていた。