提案どおり、祐は駅前のマックに入り小さなテーブルに翔太と向かいあった。
翔太はこれで高校二年生かよと思うほど幼いやつだけど、その実何を考えているのか分からない。馬鹿らしいと思うことも全部計算ずくじゃないのかと思うとき もある。
黒目がちの瞳は小動物ぽくて、肌はつるつる髪はさらさら、唇はぷるんとしていて可愛い。絶対に可愛い。この可愛らしさについ許してしまうこと多数。

ただ――。

照り焼きバーガーに噛り付いていた翔太が突然顔を上げた。
指を指しながら、話かけてくる。
「祐、ねえ、あの人ブ――」
翔太の指先を視線で追い、そこまで聞いて、祐は翔太の頭をぱかんと叩いた。
こういう時は仕方ない。
「っ――痛いよ〜」
翔太は叩かれた頭を撫でながら涙目になっていた。
「そんなことは言わなくていい」
祐はアイスティを一口すすった。
翔太の指先を辿っていけば、翔太の言いたいことは分かった。
ブラジャーのホックが外れているなんてことを、こんな場所で大声で言われたい人はいないだろう。
「でもぉ」
翔太が不服そうに口を尖らせる。
「教えてあげたら良かったって思うかもしれないよ。俺も祐に教えてもらって良かったって思うことたくさんあるもん」
文句を言って、翔太はまた照り焼きバーガーにかぶりついた。
お腹を満たすことも大切な作業らしい。
「きっと、あの人は分かってるよ」
祐は翔太に言ってやった。
友達と一緒に来ていたその彼女は席を取ると、カウンターに行った友達とは別にトイレに向かっているようだった。きっと、直すためだろう。
「そうなの?」
翔太がきょとんとした顔をする。
「何でもかんでも教えてあげたら言い訳じゃないよ」
そう何度言ったか分からない。
「祐の言うことは難しい」
翔太は不満そうな顔をしながら、また一口齧る。
この歳ならもう分かっているだろうことで翔太には決定的に欠けている部分がある。
母親には小さい時にまともに世話をしてもらえなかったらしい。
お母さんはいつもお酒を飲んでいた、とか、ご飯はイカの塩辛だとかキムチだとか、辛いものが多かったけど、中には美味しいものもあったとか。それは小学校 に入る前のころの話らしく。仕方なく引き取った父親方の母親、つまり翔太のおばあさんは子供があまり好きではないらしくあまりかまってもらえないとか。
時折ぼそっと自分のことを話す翔太の言葉をまとめるとそういうことになる。
その所為か、身体はクラスで一番小さく、小学校三年生で転校してきた翔太はその時、パンツを前後ろ反対にはいていた。体育の着替えの時に気が付いて祐が教 えてあげると、母親からそう教わったのだ と渋ってはいたが、はきなおすと、はき心地が良いとすごく喜んでいた。
それ以来の仲だったりする。

自分のものを全部食べ終わった翔太がずっと一点を見ていることに祐は気がついた。
「いいよ。食べて」
セットで付いてきたフライドポテトが少し残っていたやつを、祐は翔太のトレーへ載せてやった。
「ホント? ありがと!」
翔太が満面の笑顔を見せ、さっそくひとつを口に入れていた。
これくらいでそれだけ喜んでもらえるとあげる甲斐もあると思う。
全部食べ終わると、翔太はズボンのポケットに手を突っ込んで、小銭を出してくると、三十円をトレーの上に載せた。
「これくらい? かな」
うかがうような顔をする。
「いいよ」
祐はトレーに乗せられた小銭を翔太の手を取って握らせた。
「でも……」
翔太が暗い顔をする。その理由は分かっていた。
「僕はもうお腹いっぱいだったから、翔太が食べてくれて助かったよ」
「ホント?」
翔太がまたすぐ笑顔になる。
翔太のおばあさんは世間体にうるさいらしい。前にも同じようなことがあって、それをおばあさんに話してしまって『他人の施しを受けるな』とすごく怒られた らしい。『物欲しそうな顔をしていたんだろう』と言われて、『そんなことをしていると相手にされなくなる』とも言われたそうだ。
『祐が相手をしてくれなくなったら嫌だ』
と翔太が言うからそんなことはないと答えたけれど、翔太は不安そうな顔をしていた。
その笑顔が可愛いからとも言えない。助かった――苦し紛れに出てきた言葉が翔太には良かったみたいだった。



「じゃあね」
翔太が手を振りながら小走りに路地を入っていく。
「また、明日な」
祐も手を振った。
10メートルほど行くとまた後ろを向いて手を振ってくる。祐も応えるように手を振った。それから前に足を出す。
別れてそれからも少し待っているだけで安心するらしい。長い付き合いの中で、翔太のことはよく分かっているつもりだった、自分は。
翔太は分かってくれてないよな、と思う。
可愛くて抱きしめてしまいたくなることがよくある。それが友達以上の感情だと気づいて久しい。
まだ翔太から誰かが好きだという話を聞いたことがない。きっと一番最初に話してくれるのは自分だろうという自負はある。
ただ、そんな日は永久にこないで欲しいと祐は思っていた。

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