アレシオが手を取り、立ち上がるように促した。
シリスが促されるまま立ち上がると、アレシオが後ろを向いて手を引く。シリスの心臓はとくんとくんと小さな音を響かせていた。
ベッドの脇で立ち止まると、振り向いたアレシオはシリスの腰に手をかけて、衣を止めていた紐を引いた。その紐だけで止められていた衣は床へするりと落ちて
肌が露になる。空気の流れを読むために、神官は衣の下には何もつけない。
「きれいだね。ほんとに……」
アレシオが感嘆をもらすように言う。
見られているだけで、胸が熱くなっていた。
「来て」
アレシオがベッドに手を置く。
アレシオの手の先に腰を下ろすと、引き寄せるようにぎゅっと抱きしめられた。
「僕はずっと待っていた」
首筋にかかる息が熱かった。
「でも、嫌だったら言って、辛かったら、痛かったら……」
耳元で囁く。
「私はすべてあなたのために……」
初めて会ったときから、そう決めていた。
けれど、不安がないわけでは無かった。行うべきではないということを自分はしようとしている。
けれど、神官は心の中を他人に見せてはいけない。不安とか悲しみとか恐れとかのマイナスな感情は特に。
マイナスの感情は不安を大きくして、時に起こらなくてよい不幸を呼び起こすと言われていた。心は常に穏やかに、それは大事な決定事項を左右する神官として
必要なことだっ
た。
シリスは目を閉じると、自分の主となる人にすべてを任せた。どくんどくんと鳴る心臓の音が耳の中に響く。
確かに神王書には書かれていた。
これは、自分が神官として強い力を手に入れるため
の儀式なのだとシリスは自分に言い聞かせた。
「シリス……」
甘い声が肌を撫でる。体に張り巡らされている神経がその声に傍耳をたてる、手で優しく撫でられてすべての気がその手を追う、唇で触れられて体は震えた。
「あっ……」
熱い息とともに声が漏れてしまう。
まるで、それを咎めるように唇を塞がれて、差し込まれた舌が口内を撫でる。触れた舌に絡めてくる。戯れるように口内で遊ばれて、息はあがっていった。
「はぁ……、ん――――」
指で胸の突起を摘まれて、シリスは息がとまりそうになった。
「感じてるんだね」
アレシオの指が突起を捏ね回す。弄られているのは胸なのに、シリスは体の奥が熱くなるのを感じた。固くなった小さな突起を口に含まれて、体は跳ねた。
「あっ……」
「これがいいの? 」
口で吸われて、頭を振った。
「あっ、いや……」
「嫌? 」
唇は触れたまま、アレシオが言葉にする。
「あ、ちが……」
熱くなる息に胸が苦しくなって、シリスは思うように声が出せなかった。
「いいんだよね。だって、もうこんな風になってるから」
手で敏感なところを握られて、顔が歪む。アレシオの手の中のものは緩く立ち上がって透明な液体を零していた。そこに口をつけられて、先端を舐められて、体
はぴ
くんと震える。
神官といっても普通の人間なのだから、生理的なものは避けられない。自分で慰めることはある。けれど、他人に、それも思うだけで体が熱くなる人に触れられ
ることの快感は想像以上だった。
「ここは?」
内股から差し込まれた手で窄まりを撫でられた。
「あ」
シリスは腕を伸ばして、アレシオの肩に腕を回した。自分の知らないところまで知られてしまいそうで不安になった。すべてを知られても、アレシオには離れな
い
でいて欲しかった。
「ひくついてるよ」
体はまるで、自分の意志から離れそれ自体は意志をもっているようだった。
「あっ……、アレシオさまっ……」
触れられるだけで震えてしまう自分の体が恥ずかしくて、でも、それを喜んでいる自分もいる。
アレシオは一度手を離すと、腕をサイドテーブルに伸ばし、小さな小ビンを手に取った。
ビンの中のものを手にとり、また触れてきた指はぬるっとした湿り気を持っていて、窄まりの中へ差し込まれた。
「あ――――……」
意識が落ちていきそうになる感覚にシリスの手は触れるものを掴んだ。柔らかな髪が指に絡まる。そのまま手はすり抜けて、落ちた先でシーツを握り締めた。
「ああ、っ……ん」
アレシオの指は快感に直接触れているようだった。熱い吐息が声が抑えきれずに出てしまう。
いい? 大丈夫? アレシオにそんな声をかけられて、シリスができるのはかぶりを振ることだけだった。指を増やされて中をかき回される。背筋がぞわぞわし
て、苦しいほどの快感は逃れたいと思う反面その先を追っていた。
すっと抜かれた指に空虚さを感じたの
はつかの間で、足を開かれ、腰を少し持ち上げられて、それまではとは違う圧迫感をそこに感じた。
「痛い? 大丈夫? 」
汗で張り付く前髪をアレシオの指がはらう。荒い息が邪魔をしてシリスは声が出せなかった。
「シリス……」
アレシオはシーツを握り締めていたシリスの手を取ると自分の手に絡めた。アレシオにきゅっと握られて、シリスのばくばくしていた心臓はしだいに穏やかに
なっていった。愛しい人が自分をしっかり掴んでくれている。そう思うことはとても心地よかった。
ゆっくり息を吐きながら、体の中に入ってくるものをシリスは感じた。それは、体だけでなく、心も満たしていく。
すべてを収めた体をアレシオは優しく抱きしめてくれた。
「動くよ」
アレシオに言われて、シリスは小さく頷いた。
揺らされて、ベッドの軋む音と擦れあうところがたてる湿った音の中で、シリスは体すべてでアレシオを感じていた。
シリスの意識が戻った時、天蓋から下ろされた布を通して見える部屋の色はまだ外が薄暗いことを示していた。耳には体を絡めるように抱く人の寝息が聞こえ
た。
顔を向けると、安心しきったような無防備な顔が目に入る。寝顔はい
つも見せてくれる顔よりも幼く見えた。
何も身に付けていない肌が触れ合っていた。暖かい肌が優しく自分を包んでくれている。自分はこの人を守っていくのだとシリスは
思った。
アレシオの頬にそっと唇を寄せると、シリスはベッドから抜けようとした。
「ん……」
声がして、そちらへ顔を向けると、大きな瞳がゆっくりと開く。
「どこへ行くの? 」
腕を回して抱きしめられた。
「戻らないと」
シリスはアレシオと夜を共に過ごしたことを他人に知られてはいけない気がした。
「いいよ。もう少し」
抱きとめられた腕は離してくれそうもなかった。
「もう少しで太陽が昇ります。その前に庵へ戻らないと」
シリスは夜に部屋を空けていたことをハービィにも知られたくなかった。
「もう、誰にも遠慮をすることはないはずだよ」
アレシオの手が髪を梳く。
「私にはまだ学ばねばならないことがあります」
望みをそのまま口にすれば、この腕の中にいたい。けれど、それではこの人の役にたつことはできない。
「シリスは優秀な神官だと、もう、教えることはないとヒューは言っていたよ」
アレシオの足が絡む。足に昨夜自分が受け入れたものが触れる。
「いいえ」
シリスはかぶりを振った。
「あなたに最高の王になっていただくためには、今の私ではまだまだ力不足です」
すべてを読む力を掴むことができたなら、それは絶対に大きな力になるはずだった。空が風が教えてくれる。木々が囁いてくれる。けれど、今はただ流れていく
ものを聞いているだけで、問い掛けることができたら、教えて欲しいと訊くことができたら、どんなにいいだろうとシリスは思う。
「ずるいよ」
アレシオがぼやくように呟いた。
「僕のためになんて言うのは」
背中に回された腕で更にぎゅっと抱きしめられた。
「私のすべてはあなたのために」
血の一滴までも、すべてをささげても惜しくはない。そうシリスは思っていた。
「今夜も来てくれる? 」
囁く唇が耳を甘噛みする。
「……はい」
そう返事をしなければ、背中に回される腕は解いてもらえないだろうと思った。
「約束だよ」
名残惜しそうに、ゆっくりと腕は離れていった。少しの寂しさを感じながら、シリスはベッドを降りた。
「ねえ、今日の天気は? 」
衣をまとう背中に声をかけられた。
――――天気?
体が一瞬強張った。そういえば、体に風を感じないと思った。いつも空気の流れを体で感じていた。湿り気のある空気、乾いた空気、普通の人には分からないわ
ずかな違いを感じ、それらは天候の変化と変わる方向を教えてくれる。シリスの心臓は鼓動を速めていった。
早足で窓へ近づくと、シリスは少し窓を開いた。風が部屋へ入ってくる。けれど、その風が湿り気をもつものが乾いたものかも分からなかった。
空は紫色のベールを山の尾根に広げていた。もうすぐ太陽が上ってくる。見る限り空に雲は無かった。確か昨日は雨が近いと感じていた。湿った空気に明日は雨
が降ると昨日は確かにそう感じていたはずだった。
「シリス?」
怪訝そうな声が足音と共に近づいてくる。
「どうかした? 」
後ろからアレシオが腕を回してくる。
分からないとシリスは言えなかった。雲ひとつない空を見て、雨が降ると言える自信はなかった。
「今日は……とてもよい天気で暖かくなります」
シリスが出した言葉は、願いでもあった。