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空の音、風の声



王国セルシアは海に囲まれた人口五万人程の小さな国だった。
気候は温暖で、主な産業は漁業と農業であり、食料に関しては自立できるほどの生産があったが、国交を結ぶ国も少なく、日々の生活には困らないが、世界か ら孤立していた。古くからの言い伝えが重きを占め、そられが国民の指針になっていた。

そのひとつ。
国王もしくは女王は、同じ日に生まれたものを伴侶とすること。
国を統治するものは陽として生まれ、必ず同じ日に陰を持つものが生まれると言われている。その二つが揃って初めて国は安定する。
裏を返せば、同じ日に生まれた性別が異なる者がいなければ、王になる資格はないとされた。

暦が春を告げ、風が春めいていた日、王宮ではまだ太陽が昇らない早朝から人が走る足音と忙しない声が途切れることなく響いていた。
太陽が顔を出し、冷えていた空気が暖められほっと緩んだ頃、大きな産声とともに、王宮全ての緊張が解けた。
そして、すぐ。
「姫を探し出すんだ!」
内務大臣であるシドの声が響いた。
第一王子アレシオは、その声をふかふかなタオルに包まれ母の腕の中で聞いた。もちろん、意味など分からずに。

一週間後、国王の前に二人の赤ん坊が差し出された。
「おおっ!」
大声をあげ王は嬉しさを周りに憚ることはなかった。
同じ日に生まれた子供がいなければ、それだけで王への道が閉ざされてしまう。
ただ……。
「なぜ、二人なのだ」
陰の素質を持つものは一人、それは、王子に一番近いところで生まれた者になるはずだ。
「それが……」
一人の赤ん坊を抱いていた者が体を包んでいた布のめくり、頭を露にした。
「それは――――」
王は言葉を飲み込んだ。
その赤ん坊は艶やかな黒髪を持っていた。
「なんということだ。これは――――我が子が――――」
王は切れ切れに言葉を繋ぎながら、玉座から立ち上がった。

セルシアは属国として支配されたいた時代があった。その支配を終わらせ、建国へ導いたその時の指導者ダリはいつも傍らに黒髪の妻アイラを伴っていた。
ダリへの敬意を表すとともに、勝利の象徴としてアイラも信仰に似た崇拝を集めた。
もともと黒髪のものは少なく、更に血が混じり今では黒髪の子が生まれることはほとんどない。
黒髪を持って生まれた者は、アイラの生まれ変わりとして尊ぶのが常であった。そして、黒髪を持つものは期待を裏切 ることなく、国の 人々のため、働き実績を残してくれた記録もある。ただ、残念ながら、今まで王宮へ入ることは無かった。
もし、黒髪の者が王宮へ入れば、アイラの生まれ代わりとして今までにない発展があるのではないかと、その日はいつかきっと来ると、それは国民の夢でもあっ た。
「ただ、残念なことに、男のお子様でございます」
その子を抱いた者が頭をたれる。
「……そうか」
落胆と安堵が混じった声をともに、王は腰を下ろした。
発展を望まないことはない。
ただ、国に発展をもたらせたとしても、本人が幸せになれるとは限らない。現にダリ自身は国王となった後裏切り者に殺されその事は国民 には知らされていない。アイラも愛する子供達と引き離され、寂しい最期を送ったと言われている。それは、遠い過去だ。国を作ったものの悲哀をよそに、国は 育ち平和を保っている。

「アレシオと同じ日に生まれたということは、何か意味があるのだろうか? 」
王は呟いた。
同じ性別をもっていたことは残念ではあっても、神聖とされる黒髪の子の存在を無視はできないと思った。
きっと偶然ではない。
「……その子は、神官として王宮で育てよう」
王は告げると、玉座を立ち、黒髪を持つ子へ近寄った。そして、手を差し出し抱き上げた。
「名前は? 」
「シリスと申します」
シリスを抱いていたものが応える。
シリス――――王は口の中で呟いた。

「シリス、アレシオの力になってやっておくれ」
シリスに向かって言うと、王はシリスを返した。
今の平和がいつまで続くかは誰にも分からない。力をもつ者が身近にいることは、心強い。

「アレシオさまは幸先がよろしいですね」
側近の一人が王へ声をかけた。
「そうだな」
王は答えた。
姫が一人と力となるだろう者が一人、もう身近にいる。
時に、伴侶となるものが見つからない者、もしくは、伴侶として該当するものが二人現れる者、出生を偽るものが現れたりする。
この一週間慎重に調べを進めて出た結果は信じられるものだ。
「姫の名前は? 」
もう一人の子供へ王は声をかけた。
「クレアと申します」
「そうか、では、健やかに育つように手配を頼む」
「はっ」
赤ん坊を抱いている二人とともに、傍に立つ側近も王へ返事を返すと、軽く頭を下げ部屋を出ていった。
先は明るいはずだった。
今は問題となりそうなことが何もない。
なのに、何か分からない不安を王は感じていた。
自分は長兄ではなかった。兄には残念ながら、伴侶となるものがいなかった。
けれど、どちらが幸せかは分からない。
生まれたときから、自分は恋をすることを許されなかった。
兄は王という地位は得られなかったけれど、恋をして子供を成し傍目には幸せそうな家族に見えた。

王は玉座へつくと小さくため息をつき天井を見上げた。
生を受けた自分の子供に幸せになって欲しい――――小さく幼い顔を思い浮かべそう思った。

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