空から白いふわふわしたものが落ちてきた。
ふと窓を見たジュデは、そのことに気がついた。
「雪だよ」
ベッドから降りて、窓辺へ近づいた。冷えが足元から這い上がってくる。それでも、窓辺まで行き外を見ると、うっすらと地面を雪が覆っていた。空は紫色の
ベー
ルをまとっていて、太陽はまだ顔を見せていなかった。
「もう、エカティでは積もっているかな……」
ここより北にエカティはある。真冬は雪に閉ざされる。
「そうですね」
ナオトの声がすぐ後ろで聞こえた。
「そのかっこうでは寒いでしょう」
肩からふわっとケットを掛けられて、包まれるように後ろから腕を回される。
そこに体温は無かった。
「……冷たい」
「まだ早いですから、ベッドへお戻りになった方が……」
ナオトが困ったような声を出す。
「そうするよ」
ジュデがナオトとは反対側へ身を翻すと、ケットはぱさっと床へ落ちた。
小さなため息が聞こえた。
そのため息は聞かなかったことにして、ジュデはまっすぐにベッドへ戻り、布団の中へ体を滑りこませた。後からナオトが追ってきて、ケットを布団の上に被せ
るように広げる。そして、ベッドの縁に
腰掛けると、ジュデの額にかかる髪をすくいあげる。
「寒い」
ジュデはナオトに向かって呟いた。すぐに自分のところへきて暖めてほしい。そう思った。
少し見つめあっていて、それはそのまま沈黙になった。
「では、少しお待ちください」
ナオトが腰をあげようとした。慌ててジュデは、ナオトの体に腕を回した。
「ナオトが暖めて……」
ベッドの中にナオトを引きずりこもうとした。けれど、そう簡単に引きずりこまれてくれるナオトではなくて、簡単に剥がされたのはジュデの腕で、そのまま布
団の中へ押し込まれて、上から押さえつけられた。
こういう時のナオトは容赦がない。
「……お湯をお持ちします。少しお待ちください」
「じゃあ、いいよ。いらないっ!」
ナオトに顔を背けて、ジュデは布団の中へ潜りこんだ。
冷え切った部屋は一瞬で体を冷やしてしまったから、ナオトの体もきっと冷えてしまっただろう。そんなことは分かっていた。けれど、ただ触れ合っているだけ
でも、体の奥は熱くなって熱を生むのに。
部屋には冷たさと共に静けさが広がっていた。ナオトはしばらく動かなかった。ジュデもまた動かなかった。
どのくらい経ったのか、小さなため息をひとつ零すと、ナオトがベッドの端に体を滑り込ませてきた。いつも、近くで
ナオトを感じていたかったから、わがままを言って二人で作った大きなベッドだった。
ジュデはナオトの気配をうかがっていた。ナオトもこちらの気配をうかがっているだろう、とジュデは思う。ジュデが何をしようとしているか、きっとナオトに
は分かって
いるから。
あまりにも静かでしんしんと雪の降る音が聞こえてくるような気がした。空気まで雪の冷たさで凍ってしまったような中、ナオトが自分に向かって神経を張って
いるのを感じる。自分の動きをずっと監視している。
その神経の糸がふっと途切れた。
――――今!
そう思うと、ジュデはナオトの体に抱きついた。その体は雪のように冷たかった。
自分が無防備にベッドを抜け出したから、冷やしてしまった体だ。絶対剥がされる、と思ったのに、ナオトはそのまま動かずにいた。意外に思ってジュデは顔を
あげ、
ナオトを見た。ナオトは口元を緩めるとジュデの頭にそっと手を置いた。
「分かってはいるのです」
「ナオト?」
「もっとあなたを信頼すればいいと――――でも、どうしても、あなたのすべてを守りたくなってしまう」
手がやさしく頭をなでる。
「そうだよ」
守りたいのは自分の方だよ、とジュデは思う。もう守られるだけじゃない。守ることもできるはずだ。
ナオトの目がふっと笑った。
「寒くなれば、自分から戻ってきたでしょう?」
「うん」
ナオトの腕の中に。
「そうしたら、暖めてあげることもできたのに」
「うん」
ケットなんかじゃいやだ。
「あなたにこんなに冷たい思いをさせることも無かった」
「そうだよ」
ぎゅっと強く抱きしめた。
初めは冷たかった。その体に少しづつ体温が戻ってくる。
今、体温を分かち合っている。これからも、すべてを分かち合っていきたいと思う。それは対等な立場で。
雪がどれだけ体を冷やしても、二人で分かち合えばきっとすぐに、雪は解ける。
何があっても、二人なら越えていける。
これから先、ずっと――――。
Fin.