「伝わる思いのその先に」 後日談
集中していた意識がふと途切れた。
顔を上げると、向かいでかりかりとシャーペンを動かす祐人がいる。遼平は学年末試験の勉強という名目で祐人の部屋へ来ていた。
三ヶ月意識が無かった祐人はリハビリを終え、一ヶ月前に復学した。医師さえ驚くほどの回復力で、若いからと言われていたけれど、時折夜遅く遼平が病室へお
邪魔すると、いつも祐人は練習をしていたから、本人の努力なんだろうと遼平は思っていた。今度の試験の成績次第では留年は考慮してくれる、ということで、
祐人の意気込みは並々ならぬものがあった。今、自分がここに居ることさえ忘れているだろう、と遼平は思った。邪魔をするわけにもいかず、遼平の視線は祐人
の手を追っていた。
突然祐人は手を止めると、顔を上げた。柔らかい中性的な顔が笑う。
「少し休憩にしようか?」
言いながら腰をあげると、遼平の返事を待たずに祐人は部屋を出ていった。
ドアの閉まる音を聞いて、遼平は小さくため息を零した。
好きだと告白されてから約半年が経つ。意識がなかった三ヶ月はおいておくとして、そのあと、祐人が返事を急かすことはなかった。返事を急かされないのをい
いことに、以前と同じ友達のままでいる。
そのくせ――――。
小さなドアの音がして、祐人がトレーにマグカップを二つ乗せて戻ってきた。目の前に置かれると、湯気のたつ琥珀色の液体がさわやかな香りを放つ。
「温かいので良かったかな?」
祐人が不安そうな顔をした。
「ああ」
暦は春だと言っても、まだ寒さは残る。足はコタツに入っていた。
ほっとした顔を見せると、祐人は自分の分を自分の前に置き、トレーを横へ置いた。そのまま、マグカップへ手を伸ばし、一口飲む。その一連の動作を遼平はぼ
んやり見ていた。
「飲まないの?」
きょとんとした顔をして問いかけてくる。
「ああ、飲むよ」
言葉だけの返事をした。目があったまま、少し沈黙があった。
「こっちの方がいい?」
祐人は立ち上がると、遼平の横へ来てひざをついた。閉じられる瞳に誘われるように、遼平は唇を重ねていた。
初めて触れたときは、夢中だった。二回目は自分から望んだ。今がもう何回目かは分からない。薄く開いている隙間から差し入れた舌で、戯れる。初めに舌を入
れてきたのは祐人だった。されるまま流されているといつの間にか自分のものは勃っていた。そのまま続けていたら、イってしまうんじゃないかと思えるほど気
持ちよかった。ぴちゃぴちゃと湿った音が耳の奥で響く。
はぁ……――――。
唇を離すと、足りない空気を補うために、息を深く吸った。
「おまえ、キス巧いよな」
「え?」
祐人がきょとんとした顔をする。
「実は、彼女がいるんじゃないの?」
彼女ができたのならちゃんと言えと言ったのはそっちの方なのに。
「そんな暇あるわけないよ」
「そうだな」
そう即答できるほど、一緒にいた。
「遼平だけだよ」
そう言うと、祐人は小さく笑った。
「とりあえず、いい成績取らないとね」
言いながら自分の場所へ戻り、また、かりかりとシャーペンを動かし始めた。
こんな関係を友達だと言えるのか、と思う。けれど、世間に認知されてきたとはいえ、まだまだホモが少数派であることは変わりない。結論を出してしまうこと
に、ためらう自分がいた。
けれど――――。
学校へ復学する前は、時間さえあれば祐人の部屋を訪ね、今も、分からないことがあれば教えてやるよ、という名目で祐人のところへ来てしまうことを、どう言
い訳するのか。
――――好き、なんだろうな。きっと。
Fin.
これからも仲良くいてください、ということでエンドマーク。