祐貴と二人きりになったのは久しぶりだった。
部屋に入った途端。
「あまりゆっくりはできないよ」
そう祐貴に釘を刺された。
「それでもいいさ」
俊介は祐貴を後ろから腕の中に抱きしめた。
「電話なんかじゃなく、生の声で言ってくれ」
耳元で囁いた。
大人しく部屋まで来たのだから、答えは決まっているだろうと思う。
すぐ答えは聞かせてもらえると思った。
なのに、祐貴は黙ったままだった。
「祐貴?」
催促した。
ここまで来て焦らすことはないだろうと思う。
祐貴が手を重ねてくる。
「いいのかな……」
独り言のように呟いた。
ここまで来て何を言ってるんだと思った。
「いいに決まってるだろ」
抱きしめる腕にぎゅっと力をこめた。早く聞かせてくれよと思う。
「でも……」
「何を迷ってるんだよ」
もう一歩だと思うのに、その一歩を足踏みする。
「迷ってるわけじゃないんだ」
「じゃあ、何だよ」
ゆっくりできないと言ったのだから、早く言ってくれよと思う。
腕の中に抱えていて抵抗もしないのだからもうほとんど捕まえたようなものだと思うのに、気持ちは焦っていた。
「怖い……」
――は?
祐貴が手をぎゅっと握ってきた。
「……何も、とって食おうってわけじゃないんだから」
怖いと言われたのは意外というか心外だった。
怖い思いをさせた?
いつ?
「俊介は優しいから……」
は?
「じゃあ、いいじゃないか」
そう思ってくれているなら。
「だから、怖いんだ」
え?
「……分かるように言ってくれよ」
優しいから怖い?
それはまるで反対のことに思えた。
「俊介の腕の中にいるとすごく安心する。今までこんな気持ちになったことはなくて、だから、好き、なんだと思う」
「思うは抜けよ」
「好き、だよ……それは、きっと友達としてじゃなくて」
「きっとも抜け」
確かな言葉が欲しいと思う。
しばらく沈黙があった。けれど、手のは祐貴のぬくもりがあった。
「俊介……」
「何?」
「……好きだよ」
祐貴がもう一方の手も腕に絡めてくる。
短い答えはストレートに心の中に落ちてきた。
「ちゃんと言えるじゃないか……」
祐貴の言葉が重く胸に沈んだ。ぎゅっと抱きしめて、腕の中に確かにある存在を感じていた。
「キスだけならいいだろ?」
ゆっくりはできないと言った言葉は忘れていなかった。
怖いと言った祐貴の指すものはその先にあるものかもしれないと思う。男と女ではないから、繋がることに抵抗があるのは分からないわけじゃない。
少し後ろを向いた祐貴をそのままひっくり返して、有無を言わさず唇を重ねた。
「んっ……」
祐貴は驚いたように離れようとしたけれど、構わず舌を忍ばせた。口内を探るように撫でると祐貴の身体から力が抜けていくのが伝わってきた。
キスだけじゃない。身体も欲しいと思う。
ただ、それは少しお預けかなと思っていた。
躊躇いがちだった祐貴がそっと舌を絡めてくる。
少しづつ進んでいけば、自然にそんな日は来るのじゃないかと思えた。
しばらく舌を絡め合わせて、唇を離した。
「お前に会うにはどうしたらいい?」
この腕を離したくないけれど、そんなわけにもいかない。
「シフトを教えるよ。バイト以外予定はないから」
「じゃあ、後は全部俺が予約な」
「ん」
祐貴が腕を背中に回してくる。
「時間、ないんだろ?」
突付いてみた。
「あと少しだけ……」
祐貴が小さく息を零す。
「ついでに、抜いていけよ」
祐貴の息が熱く感じた。
俊介は祐貴の下腹部に手を伸ばした。
確かにそこは存在を主張していて、そっとこすりあげると祐貴がぴくっと反応した。
「分かりやすくて、いいな」
俊介がベルトに手をかけると、
「あ、でも……」
祐貴が手で押さえてくる。
「直ぐにイかしてやるよ」
強引にベルトを外した。
けれど、少し不安になる。
下着の上からそっと擦り上げて、
「だめか?」
聞いてみた。
「ずるいよ……」
切なげに眉を顰めて、祐貴は顔を伏せた。
OKってことだよなと自分で答えを出し、俊介は祐貴の手を引き自分の上に後ろ向きに座らせた。
顔が見えないのは残念だと思ったけれど、顔を見ていたらイかせてやるだけじゃ満足できない気がした。
下着の中へ手を入れて、祐貴のものに直に触れて熱を感じた。擦り上げると祐貴が息を漏らす。
「俊介……」
泣きそうな声を出すから、
「何?」
答えてやった。
「俊介も……」
手を取られ触れていたものが手から離れ、祐貴が向かいあってくる。
ベルトを外しジッパーを外し下着の中へ手を入れ握ってくる。俊介は祐貴にされるままになっていた。
「熱くなってる……」
祐貴が零す。
「そりゃそうさ」
何を今更言ってるんだと思った。
好きなやつが目の前にいるのだから、当たり前だ。
互いに擦りあって熱い息を感じて、束ねて扱いて、達したのは二人ほぼ同時だった。
互いの手に交じり合った白濁を受け止め、見詰め合って、笑った。
快感を手にしたのはほんの短い時間で、それでも、心の中が洗い流されたように気持ち良かった。
「会う度、こうなっちゃうのかな」
ティッシュで手を拭いながら祐貴が言う。
「嫌?」
「嫌なわけじゃないけど」
「じゃあ何?」
「いいのかなって、ただ」
祐貴が目が伏せる。
モラル的に正しいことだと言えるかは疑問だった。
「会う度じゃなきゃ、いいのか?」
「嫌だって言ってるわけじゃないんだ」
祐貴が頭を振る。
「お前、考えすぎ」
その頭の中はどうなっているんだと思う。
「そうかな」
不安そうに口にする。
「したければ、すればいいだろ?」
それは道理だと思う。
「したいことが全てしていいことじゃないし」
一旦祐貴は言葉を切って、
「悲しむ人がいると分かっていることはしたいわけじゃない……」
続けると口を噤んだ。
「美樹のことを言ってるのか?」
路地で美樹と別れた時、祐貴はしばらくそこを動かなかった。
「難しいね」
呟くように言う。
「あいつは、あれですごくもてるんだぞ。俺なんかより良いやつをすぐに見つけるさ」
別れたことがばれたみたいで誰々から電話がかかってきたと美樹はこの間ぐちるように言っていた。知らない男が隣にいるのを見るのはそんなに遠いことじゃな
いかもしれないと思う。そのことに、あまりおもしろくない感情があったとしても、自分は祐貴を選んだとだと俊介は思った。
「そうだといいね」
祐貴は小さく笑うと、額をこつんとつけてくる。
「世の中、思い通りにはいかないけど、そんなに捨てたもんじゃないよ」
それは実感だった。
こうして祐貴は腕の中にいる。
中学の時、怪我したときも辛かったけれど、傍にいて支えてくれる人はいた。きっとそうやって回っていくものだと思う。
「お前の人生はお前のモンなんだからさ。自分のことをもう少し優先させろよ」
そして、少しはこっちも見て欲しいと思う。
「……じゃあ、わがまま言っていいかな」
祐貴にしては珍しいことを言うなと思った。
「何?」
胸がどきどきした。こいつのわがままってなんだろうと不安さえあった。
「あと五分、このままでいたい……」
え?
一気に気が抜けた。
「いいさ、お前の気がすむまで」
だいたい時間がないと言ったのは祐貴だった。
「でも、もう迷惑な時間じゃないかな……」
祐貴がドアへ視線を向ける。
なんだそんなことを気にしてたのかと思ったら、ますます気が抜けた。
「うちは昔から友達がきてわいわいやってたから、誰がいようと親は気にしないよ」
「でも――んっ」
うるさい口を塞いだ。
そんなに気になるなら五分でいいよ、と思う。
ただ、その五分は余計なことは考えて欲しくはなかった。
――好きだよ
俊介は心の中で呟いた。
丸ごと包んでいつも抱えていたいくらいに。
そんな感情がどこから来て、どうしてこんなに大きくなってしまったのか分からない。ただ、全てが愛しく思った。