白いシャツがまぶしかった。
隣にある笑顔がまぶしかった。
自分が隣にいるのは似合わないと思いながら、祐貴は自分からは何もできなかった。
大会が終わったら俊介を返してくれと美樹に言われていた、その言葉を忘れたわけではないけれど、きっかけもない。
ただ、それは言い訳で、俊介の隣にいられる居心地の良さを手放したくないのだと祐貴は自分で分かっていた。

バスケット部に入っていた時は共に体育館で過ごしていた時間はそのまま図書室に移動した。
勉強をしたり、本を読んだり、ごく普通の友達のようでいて少し違う。
俊介が近づくことを拒む自分を祐貴は感じていた。
意識しているわけではないのに身体が勝手に動く。
始めは怪訝そうな顔をしていた俊介は、理解してくれたらしい。必要以上に近づくことがなくなった。
この距離を保っていれば、抱き込まれることもキスをされることもない。そんな距離に祐貴は安心と物足りなさを感じていた。
このままで良いとも思わなかった。俊介にとっても、自分にとっても――。
けれど、どうしたらいいのか分からなかった。

駅で俊介と別れて、祐貴はボードに張られていたひとつのチラシに目がいった。
一度、俊介と美樹と入ったことがあるカフェでアルバイトを募集していた。『短期可』という文字に引かれた。そのまま店に行きドアを押した。
もうすぐ夏休みが始まる。
俊介に誘われたら断る理由は無くて、会っていたら流されてしまうだろうと思った。一度だけ触れた肌に嫌悪感は無くて、また同じ状況になったときに拒める自 信はない。
俊介を待っている人がいる。
彼女に俊介を返さなくてはいけないと思った。



あと一日試験は残っていた。
試験中も変わりなく、放課後は図書室で過ごしていた。
明日のテスト勉強のつもりで祐貴は年表に補足を書き入れていた。俊介は隣でそれを眺めていて、時々思い出したようにノートにペンを走らせていた。
「もう少しで休みじゃん?」
俊介が声をかけてくる。
「あ、うん……」
あまりその事には触れたくなかった。
アルバイトを入れたことをまだ俊介には言っていなかった。アルバイトをするんだと言った時にそれだけで話は終わらないだろうと思う。何か聞かれれば答えの 中には言い訳やら嘘が混じるのだろうと思ったら自分から言う気にはなれなかった。
「行きたいところいっぱいあるんだよね。付き合ってくれるよな」
「あ、ごめん」
祐貴は咄嗟に謝っていた。
「僕、バイトすることにしたんだ」
今言わないと言えなくなると思ったら、口が勝手に動いていた。
「え?」
俊介が小さく声をあげる。驚きをその声から感じた。
「駅前のカフェで募集してて、暇だし、するなら今年しかないかなって」
口が勝手に動く。ずっと考えていた言い訳だった。
「は?」
「だって、来年は受験一色になるだろ、だから」
俊介の顔を見ることができなくて、ペンを走らせながら言い訳を重ねていく。
「なんで、そんな……そんなこと言ってなかっただろ?」
言えるわけがない。
「あ、でも、休みの日は都合が合えば付き合うよ」
付け足していた。
嫌われたくない気持ちが顔を覗かせる。
けれど、それも顔を伏せたまま、俊介の顔を見ては言えなかった。
答えを待っていたのに、俊介は何も言ってくれなくて、自分から仕掛けたくせに不安になる。
嫌われた?
そう仕向けたいはずなのに、胸が痛くなる。
不安になって顔を上げると、訝しげな顔をした俊介と目が合って、またすぐ顔を伏せてしまった。
「何?」
俊介が声をかけてくる。
「ううん、何でもない」
祐貴は頭を振った。
嫌われたわけじゃないみたいだと俊介の顔を見て思って、そしてほっとした。
どうしたらいいのか分からなくなる。
友達でいたいくせにもっと近づきたい自分もいて、いつこんな関係が終わるのだろうと不安な自分もいる。
人に好意を持って良い思い出はない。
けれど、今までは好意といっても友達としてだった。建前ではなく本心で。
俊介に対する気持ちは今までの誰とも違う気がした。
気持ちを素直に出せたらどれだけ楽だろうと思う。けれど、思うだけで現実にはできない。
その後俊介は何も言わなかった。
ほっとしている自分がいる一方で、問い詰めてくれないことを祐貴はがっかりしていた。

何事もなく試験期間は終わり、数日の試験休みの後夏休みに入った。

初めてのバイトは覚えることばかりで、接待もなれなかったけれど、新鮮に感じた。
「どう?」
マネージャーが声をかけてくれる。
「なんとか……」
余裕は無かったけれど、周りの人が優しいのでなんとかやっていけた。
カウンターの中に二人、ウエイターが二人で店はまわっていた。後二人のスタッフを合わせ、6人でスケジュールを組んでいた。どうしても足りないときは、二 駅先にある系列店に応援を頼むということだった。
店に入っている時は俊介のことを忘れられた。
けれど、店を一歩出たとたんに思い出すのは俊介のことで、まだ果たしていない約束が気になった。
一週間ほど経つとバイトにも慣れてきた。心の奥に刺さっている棘を早く取ってしまった方がいいと、祐貴は電話に手を伸ばした。
一度見たことがある番号を忘れてはいなかった。
数回の呼び出し音の後、ラインは繋がった。
「もしもし?」
訝しげな声が受話器から聞こえた。
「あ、もしもし……僕は俊介の友達で……」
祐貴はそう言いながら自分からかけた電話なのに、相手の声を聞いただけで後悔していた。

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