ざわめきの中、試合終了の笛が鳴った。
ダブルスコアでやられっぱなしでいいところは無かった試合だったけれど、終わったことに安堵している自分を俊介は感じていた。。
相手は強かった。疲れもあった。身体も動かなかった。けれど、最初から気持ちで負けていたと思う。
あげられる相手側の歓声を尻目に、部の仲間は誰も声を発しなかった。
「お疲れ」
部長が肩を叩いてくる。俊介は胸がちくっと痛んだ。
全力でぶつかっても勝てる相手ではなかっただろう。けれど、あそこでもう少し走ればボールが取れたかもしれないとか、あそこでぶつかっていけばよかったと
終わった今なら思うことがある。
もう少し、そう思うところで力がでなかった。
祐貴の視線を感じて顔を向けると、切なそうな瞳に力が抜けた。心配してくれているのは痛いほど分かった。
今までの試合は絶対に勝つと思ったけれど今日は違った。
好きだと言われたあの声が頭に響く。
他には何もいらないと思った。
ベンチに行くと祐貴は笑顔で迎えてくれた。
「お疲れさま」
タオルを手渡してくれる。
「お互いに、な」
受け取りながら答えた。
無理やり引き込んでしまったけれど、それも終わりだ。自分の限界も分かったしこれ以上は辛い。
約束通り、予選の終わりとともに部はやめることになったな、と思った。
試合後の雰囲気は良くなかった。疲れも手伝っていたのだろう。
交わされるのは「お疲れ」という労いの言葉だけで、誰一人打ち上げの提案をすることもなく、自然のばらけてそれぞれに帰途についた。
「ここに置くね」
祐貴が持ってくれていた荷物を玄関にどさっと置く。俊介が担当になっていたボールを祐貴は肩にかけたままだった。
「ああ、それは?」
俊介はボールを指したのに、祐貴は素知らぬふりで
「今日はゆっくり休んで」
言いながら、手はドアを開けていた。
「祐貴?」
「じゃあ、月曜にね」
少しの笑顔を見せ、ドアを閉める。
パタンという音の後祐貴の姿は消えていた。
疲れもあった。まるで拒むような態度に、後を追いかける気力も無かった。
負けたからご褒美はなし?
あまりにもはっきりした態度にため息も出なかった。
本気で試合が終わったから、関係を絶つつもりなのだろうかと不安になった。
けれど。
好きだと言ってくれた言葉は嘘じゃないと思う。
祐貴が嘘を吐くとは思えなかった。
それでも。
月曜日の朝は緊張していた。
待ち合わせ場所に来ないかもしれないと思った。
なのに、祐貴はいつもの場所にいて笑顔を見せてくれて、「大丈夫?」と心配してくれて、不安は一気に飛んでいった。
雨が窓を叩いていた。時折稲妻が走る、地を揺るがすような音がする。けれど、それは別世界のことだと思えた。
「で?」
俊介が次ぎを促すと、
「使役の make を使って、目的語を主語にして」
祐貴が言いながら文を書いていく。
図書室の隅で今日の要点を教えてもらっていた。
部活はなくなってしまったから、じゃあどうやって祐貴を確保するかといえば勉強を理由にするのが手っ取り早かった。
「ん、なるほどね」
祐貴の説明は分かりやすい。
「だいたいこんなものかな置き換えは。パズルみたいだね」
祐貴が自分の書いたものを手に取って眺める。
「その方が分かりやすいよ」
実践に使えるのかはこの際置いておく。実践に使うことがあるかどうかは分からない。
「なら、いいけど……」
祐貴は少し不服そうだった。
「雨、収まりそうにないね」
窓へ視線を向けて続けた。
「そうだな」
祐貴の視線を追って、ちらっと窓を見ると俊介は祐貴を見た。
梅雨というよりは夏だとも思える雨が外は降っていた。このうっとうしい季節もあと半月ほどで終わり、試験が終われば夏休みが来る。
適当な時間で図書室を後にして、同じ電車で帰り改札を抜ける。
そこで。
「じゃあ、また明日ね」
祐貴が背を向ける。
声をかける隙も与えてくれない。
小さくなっていく祐貴の後姿をしばらく見ていて、振り返ってはくれなそうだと思い俊介も家へ足を向けた。
試合に負け、部活をやめてから祐貴との距離が変わったことを俊介は感じた。
手に触れようとすると引っ込める。近づこうとすると一歩引く。けれど笑顔は見せてくれた。
――それが答え?
友達だと言い張った祐貴はあくまでも友達でいるつもりなのかもしれない。
今はそれでもいいよ、と俊介は思った。
時間はまだまだある。
少しづつ気持ちを解してくれて、少しづつ距離が縮まればいいと思う。
好きだと言ってくれた言葉があるから。
――待つよ、祐貴
今は。
梅雨が明け、風が変わり、日差しが夏色になり、服も軽くなって気持ちも高まってくる。
夏はすぐそこまで来ていた。