祐貴を乗せたバスは小さくなって、後続車に完全に隠れてしまった。
「帰ろ」
美樹がつついてくる。
「ああ」
俊介は美樹にヘルメットを渡すと、自分もかぶった。
「最初で最後なのかな」
美樹がぽつんと呟くように言う。
「ちゃんと捕まってろよ」
俊介は、あえて、美樹の問いには答えなかった。
「ん、安全運転でね」
「当たり前だ」
俊介はバイクにまたがるとエンジンをかけた。
明日は大事な試合だった。


汗が飛び散る。
コートの外からの声援はざわめきにしか聞こえなかった。
「俊介っ」
パスされたボールを受け取ると、いつの間にか敵が目の前にいてガードしてくる。前回での試合とレベルがはるかに違った。フェイクをかけて抜けたとしても、 すぐ他のやつがいる。
向こうの方が人数多いんじゃないの?
本気でそう思ってくる。
ゴール下までは行けそうもなくて、スリーポイントを狙うしかないと思った。時間はもうほとんど残っていない。このシュートが決まらなければ負けだ。
負けるわけにはいかない。
――くっ
膝の違和感が波ように襲ってくる。
ふっと痛みが軽くなった瞬間、ゴールを狙った。
「入れっ」
ゴールめがけてボールを離す。
願いをかけたボールがゴールに吸い込まれるときを見られぬまま、俊介は着地とともにコートに転がった。
一段と高くなった歓声に、俊介は入ったことを確信した。
――良かった
起きあがらないとと思い顔を上げると、副部長が手を差し出してくる。
「すごいよ、お前!」
歓喜でか顔が赤くなっていた。
「祐貴のおかげですよ……」
小さく呟いた俊介の声は耳に届かなかったらしく、「え?」と副部長が一回聞き返してきたが、整列のため呼ばれてそれはそれで終わった。
ベンチの方へ顔を向けると、笑顔ばかりの中で、祐貴が一人不安そうな顔をしていた。


俊介がベンチに戻って座り込むと、
「大丈夫?」
祐貴が手を膝に当ててきて、そっと撫でるようにする。
「だめっぽいな」
相手が強いだけに、もう、正直試合はきついと思う。
「相手強かったね」
「ああ」
強いとは聞いていたけれど、実際やってみると思っていた以上で、思い通りにならない足にいらついた。
今日勝てたのは、このところの勝ちで部全体が気を良くしていたのもあると思う。
次の試合は勝てないだろうと思った。
「祐貴」
俊介が呼ぶと、祐貴は小さく笑った。
すべて、祐貴は理解してくれているように感じた。

試合が行われる会場の施設はその時々でずいぶんと違う。今日の試合は市立体育館で行われて更衣室は広かったしシャワーもあった。
軽くシャワーを浴びて、恒例の、今日は祝ラーメンで祝い、次はカレーだと気勢をあげる。
けれど、きっと、残念カレーになるんだろうな、と俊介は思った。
今まで試合の前に負けるということを考えたことはなかった。それだけ弱気になっている自分も感じた。
祐貴が自分に笑顔を見せてくれるのは今日が最後。
それは間違っていないと思う。
ラーメン屋を出る時に、祐貴は俊介のバッグに手をかけた。
「持っていくね」
「……サンキュ」
今日が最後なんだから、好意は素直に受けようと思った。
ひとつ心に決めていたことがあった。

「あがって行けよ」
家の前でも自分の荷物は受け取らなかった。
「うん」
祐貴がうつむき加減に返事をする。
部屋で何があるのか予想はしているだろうけれど、ひとつの約束があったから、それを信じているだろうとは思った。
優勝したらなんてよく言えたものだと思う。
あの時はまだカケラほどの希望があった。
家に入って言われた通り階段を上がる祐貴の後をそのまま付いて行った。ちょっと不思議そうな顔をして、それでも祐貴は先を行って、部屋の前で止まるからド アを開けてやった。
「お邪魔します」
水臭いだろと思えるような挨拶をして祐貴が部屋に入る。
その後ろを追って静かにドアを閉めると、俊介は後ろから祐貴を抱きしめた。
「俊介?」
祐貴が驚いたような声をあげる。
「ずっと、こうしたかった」
腕に力を加えた。
そう、昨日男に組み敷かれる祐貴を見て、なんで祐貴を組み敷いているのが自分じゃないんだと俊介は思った。自分以外のやつに、好きにされるなんて我慢でき ない。
「俊介?」
祐貴が腕に手をかけてくる。
その手は冷たくはなかった。温かいいつもの祐貴の体温があった。

「いいだろ?」
祐貴の手からバッグを取ると、そこいらへ放った。
「何?」
不安そうな声を漏らす唇を指先で撫でた。
「嫌だって祐貴が言うなら、やめる」
無理やりやりたいわけじゃない。
祐貴は拒めないだろうと十中八九思っているのに、ずるいなと思いながら、止まらなかった。
後ろから上着を剥いで落とし、ネクタイを抜くと、Yシャツのボタンを外していった。
「誰か来たら……」
祐貴がボタンを外す手を止めよとする。
「誰も来ないよ」
放任主義という看板がこういうときはありがたい。バイクだけはさすがに止められたけれど、美樹が部屋に来ても干渉はしてこない。
ふっと力が抜けた手は邪魔にはならなくて、Yシャツのボタンをすべてはずすと、それも床へ落とした。
首筋に唇を当てると、ぴくっと反応する。
「きれいだな……」
白くて、肌理の細かい肌は触るとしっとりと馴染んだ。
「そんなことないよ。全然運動とかしてないから、白いだけで……」
言いながら祐貴が顔を伏せる。
抱き上げてベッドに連れて行きたかったけれど、それはちょっと無理だと思い手を引いた。顔を見ると、少し困惑げな表情で、でも、それが更にそそる。
ベッドに座らせて頬に触れると、祐貴が恐る恐る見上げてくる。俊介は自分の上着を脱いでネクタイも放ると、祐貴を組み敷いた。
「好きなやつのすべてが知りたいって、自然だろ?」
手を下へ這わせ、俊介は祐貴のベルトに手をかけた。

back | top | next

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル