家に帰る道で、祐貴に来てもらえば良かったかな、と俊介は少し後悔していた。
明日の試合で負けたら、そこで終わりだ。
その前に、少しでも祐貴に触れておけば良かったかな、と思う。
家の門を開けながら、明日は絶対に勝たなきゃな、と思った。
玄関を開けて。
「ただいま」
と声をかけながら、客がいることに気が付いた。平日の昼間はよくあるみたいだけれど、週末にはない。
珍しくばたばたと奥から足音がした。
「俊介」
姿を見せた母親は険しい顔をしていた。
「何かあった?」
出てくることなど滅多にない。それに、後ろには美樹の母親もいた。
「あんた、怪我は?」
「え?」
「携帯に何度かけても出ないし」
文句を言ってくる。
――携帯?
そう思って、鞄を開けてごそごそと奥から出すと、不在着信が表示されていた。
「あ、ごめん。気づかなかった」
帰宅が遅くなるときとかの連絡用で、かかってくることはあまり想定していない。
「それより、怪我は? 美樹ちゃんは?」
「え?」
「あんたが怪我したって、美樹ちゃんが行ったでしょ?」
「は?」
話がさっぱり分からなかった。
「美樹の携帯にかけてもなしのつぶてで」
美樹の母親がため息をついた。
「ちょっと待って、どういう事?」
何かはあったらしい。
「美樹ちゃんから連絡があったんだって、あんたが怪我して病院に来て欲しいって言われたって」
「誰がそんなこと」
嫌なやつが頭にちらついた。
「俊介くんと同じ高校の子だって、美樹は言ってた」
――やっぱ、そうか
そんなことをするやつは一人しか思い浮かばなかった。
でも、何のために?
「あんた、怪我は?」
母親が上から下まで視線を走らせる。
「そんなのしてないよ」
少し調子が悪かったりするけれど怪我ではないし、だいたい病院になんて行ってない。
「じゃあ、美樹は?」
美樹の母親が心配そうな顔をする。
「心当たりあるから、聞いてみます」
あいつしか考えられなかった。
「お願いね」
美樹の母親は少し安心したような顔をした。
「はい」
頷くと、俊介は階段を上った。
自分の部屋に入り、俊介は鞄を放るとベッドの上に腰を下ろした。
一度試しとばかりに美樹の携帯にかけてみると、呼び出し音は鳴るもののメッセージサービスへつながってしまった。
星野を捕まえるには、携帯の番号を知ってるやつに聞くのが早道だろうと思う。
アドレス帳で発信し、二人目で星野の携帯電話の番号は分かった。
まずは、第一段階が終わって、俊介は一度大きく息を吐いた。
そして、聞いたばかりの番号を押した。
呼び出し音が三回ほど鳴って、「誰?」と無愛想な声が聞こえた。
「星野?」
一応確認した。
間違いないだろうと思っても、電話では少し声が変わる。
「誰だよ」
偉そうな物言いで聞いてくる。
「お前、今日俺が怪我したとか言ってだましたやつがいるだろ」
あいつの質問なんか聞いてやる義理はない。
「はっ」
笑い声が聞こえ、
「ずいぶん、早かったな」
いやらしい声に変わった。
「どこへ連れていったんだよ。そこにいるのか?」
とりあえず、当たりらしかった。
「知りたい?」
へらへらと笑いながら口にする。
「早く言えよ」
いらいらしてきた。なんでこんなやつに聞かなきゃいけないんだよ、と思う。
「いいもの、見られるかもよ」
「なんだよ、焦らすなよ」
いいもの?
その言葉に嫌な予感がした。
「祐貴とお前の彼女はあるところに一緒にいるよ。今頃、きっとお楽しみだぜ」
――祐貴が?
「どこにだよっ!」
声にも焦らされることにも苛つく。
「へへっ」
星野は笑いながら、ホテルの名前を口にした。
――は?
「なんで、そんなとこに……」
おまけに、祐貴まで?
「ついでに、ビデオなんか取らせてもらおうかなってことで。モデル料はこっちでいただくからな。俺はお前のおかげで、すごい損させられて、信用も台無し
だっ」
急に、星野は真剣な声になった。
「ちょ……」
ビデオ?
「じゃあな」
ぶちっと携帯は切れた。
どういうことだよ。
そう思いながら、このまま放ってはおけないと思った。
じゃあ、どうする?
俊介はポケットから財布を出して、免許が入っているのを確認すると、部屋を出て隣の兄の部屋に入った。
机の上に無造作にバイクのキーが放り投げられていて、それを取ると、階段を駆け下りた。
「ちょっと、兄貴のバイク借りるから」
奥に向かって叫ぶと、玄関を飛び出した。
エンジンをかけると、玄関から母親がでてくるのが見えたけれど、そのまま道路に出た。
後でめちゃくちゃ兄貴に怒られるかもしれないが、そんなことは構っちゃいられない。星野から聞いたホテルの名前は知っていて、けれど、その場所は、はっき
り知っていたわけではなかった。
――祐貴
たとえ、二人きりにされたとしても、祐貴が美樹に手を出すはずはないと思う。けれど、それに人の手が加われば別だ。
また星野に弱みを握られる。
それは、決して良いことではない。