なんでなんだろう――そんな疑問は解消されない。

頭一つでているからホームにあふれる人の中から俊介を見つけるのは簡単なことだった。祐貴は人の背中に隠れるように階段の角の曲がり、俊介とは反対側の方 向へ進んだ。
人付き合いがうまくないという自信はあった。好意を感じる相手ならば余計に自分に近づいて欲しくなかった。
面白い話ができるわけでもなく、人を楽しませる才能があるわけでもなく、先端の話題についていけるわけでもなく、人と話をしているより本を読んでいたり勉 強していた方が落ち着く。
ずっとそうしてきた。
まさか、あの俊介が自分に近づいてくるなんて祐貴にとっては考えもしないことだった。
そして、今も、自分のことを探しているらしい。

呆れられるならともかく、友達として認知される覚えはない。
話をした初日から『バカ』の烙印を押された。けれど、それが嫌だと思わなかったのは俊介の人徳だと思う。
クラスではいつも輪の中心で、自分とは違う世界の人間だ。
なのに、なぜ?

ホームを歩いていたら、電車の案内が流れてきた。
一本遅らせようか、と祐貴はぼんやり思った。
駅に着いて学校までの道すがら俊介と会わないとも限らない。一本遅らせても十分間に合う時間だった。
そうしよう、と思って内側へ抜けようとしたら、目の前に立ちふさがる人がいた。
同じ制服?
――え?
見上げて、祐貴は息は呑んだ。
「お前、間違ってるぞ」
俊介が眉根を寄せ難しい顔をしていた。

「後ろはあっちだろ」
俊介が親指で電車が進入してくる方を指す。
「あ……」
俊介が指し示す方へ顔を向けながら祐貴は素で驚いていた。俊介はさっきは向こうにいたはずだ。いつの間にこっちへ来たのか。
そう思いながら。
「ごめん……」
咄嗟に謝ってまでいた。
避けたんだよ、気づけよと思う気持ちがある一方で、そのことに気づいて欲しくない気持ちもある。話しかけられてうれしいと思う反面、近づかないで欲しいと 思う。
『祐貴なんか嫌いだっ』
そんな声が頭に響いて、祐貴は思わず顔を伏せてしまった。
いつも一緒にいた、誰よりも好きだった人から最後に言われた言葉だった。
もうあんな言葉を聞きたくも無ければ、あの時と同じ思いもしたくない。
それは簡単だ。
誰にも好意を持たなければいい。
近づかなければいい。

「いや、別に責めてるわけじゃないさ。誰にも勘違いはあるよ」
俊介の声が頭上から落ちてくる。
構わないでくれよ、という気持ち半分。探してきてくれたんだと思う気持ち半分。
どんな顔をしていいのか、分からなかった。
「ん……」
とりあえず、相打ちをうった。
勘違いだと思ったのなら、それでもいいと思った。
ただ。
――なんでなんだろう
俊介の態度からすれば、自分のしていることは呆れられることばかりで、なぜ、気にかけてくれるのか分からない。
都合よく使われることはあっても、友達として接してくれたやつは呆れてどんどん離れていった。
それで、良かった。

「ほら、ドアが開くぞ」
俊介に言われて、電車がもうホームに着き人の波はそれにしたがっていることに気づいた。
「これ、乗るか?」
俊介が親指で電車を指す。
「あ、どっちでもいいよ」
見つかってしまったものは仕方ない。
俊介は少し考えるようにして。
「やっぱ、乗ろう」
人波にのるように、背中を押してくる。
この時間、一本二本で込み具合が違うことはあまりない。どれに乗っても大差ない。ただ、早く着きすぎると誰もいないから、教室で暇をもてあますことになる だけだ。
それも祐貴には関係ない。
朝は本を読んでいるのが常だった。

「お前が言ったのより二本早いぜ」
俊介がぼやくように言う。
「ん、バスが早く着いたから」
バスを一本早くしたとは言えなかった。
「ずいぶん運行時間に幅があるバスだな」
今度はため息交じりに言う。
「ん……しょうがないよ」
もう、この話は避けたかった。ぼろを出したくない。
会いたくないから一本バスを早くしたと言えば、もう俊介が構ってくることはないだろう。
なぜ――なんて思わなくてすむ。
今までの平穏な日々が戻ってくる。
なのにそんな言葉は言いたくなくて、自分でもどうしたいのか分からなかった。

「じゃあ、こうしよう」
俊介がぱちんと手を打つ。
「え?」
祐貴は俊介を見上げた。
「早く着いたら、三分まで待ってろよ。それでも十分間に合うだろ」
「あ、うん」
返事を返し、ちょっと待てよと祐貴は思った。
――それって、毎朝一緒に登校するってこと?
「でも、バスが遅れるかもしれない……」
「十五分まで待ってこなかったら先に行くさ。それだって早いくらいだ」
待ってくれる?
なんでそんなこと――。
面白い話の一つができるわけじゃない。俊介の周りにはもっと楽しいやつがいるはずだ。
――あ、そうか
ひとつだけ心当たりがあった。
昨日、俊介が待っていた用件は授業をまとめたレポートが見たいからみたいだった。
あれが欲しい?
それほどの価値があるのかは分からないけれど、星野曰く好評らしい。

「いいよ、ホント分からないし……。あの、あれは、別に、仲が良い子だけってわけじゃないんだ。次の日になってもいいなら、作るよもう一部……」
言葉はしどろもどろになった。
俊介の気に障らないように、どう言ったら分かってもらえるんだろと思う。
別に俊介が怒ったとしても、今まで付き合いもなければ話したこともないやつだから構わないのに、嫌われたって別に構わないのに、でも、どこかで嫌われたく ない気持ちがある。
でも。
どうせ嫌われるなら早いほうがいい。
少し落ち込むだけで、すぐに忘れられる、きっと今なら。

「は?」
俊介はきょとんとした声を出して、眉根を寄せ難しい顔をした。
「何のこと言ってんの?」
「あ……」
できれば察して欲しかった、と思いながら。
「授業のレポート……」
祐貴は小さな声で呟いた。
「え、いいよ、別に。大変だろ。帰りにちらっと見せてもらえばいいし」
――え?
もしかすると、帰りも一緒に帰る気らしい?

狐につままれるっていうのはこういうことなんだろう、と祐貴は思った。

――なんでなんだろう

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