美樹は不思議そうな顔をしていて、祐貴は釈然としないような顔をしていた。
そして。
何で呼び止めてしまったのだろうと俊介は思っていた。

「いいじゃん、たまには」と言って、駅のすぐ横にあるカフェに入った。
「俊介のおごり?」
隣に座った美樹が聞いてくる。
「え、あ、別にいいけど」
そう答えながら、あまり高いものにするなよ、と俊介は美樹へ念を送った。
コンビニで何か買ってどっちかの家に行くのがいつものパターンだった。安くつくから沢山会えるというのが美樹の言い分で、いざとなれば食べ物も飲み物も家 で調達すればいい。幼稚園からの幼馴染で、両親とも知っているから気安い関係でもあった。
わざわざ、おごれなんて言ってくるのは、何か言いたいことがあるんだろうとは思う。
――まあ、当たり前か
この三人でいることは何かぎこちなく感じた。

「僕はいいよ」
向かいに座る祐貴がメニューを見ながら言う。
「いいよ。遠慮するなよ」
なぜか、見栄を張りたい気持ちになった。
「そうよ。そうよ」
美樹が加勢する。
「あ、ほんとに」
祐貴が困った顔をした。
別に困ることもないだろ、と思う。
いつもつるんでる連中なら、「やりぃ」と声でもあげそうだ。
「何見とれてんの?」
美樹が小さい声でつついてくる。
「別に……」
見とれていたつもりはなかった。
ただメニューを見ているだけの祐貴を、ただ目が離せなかった。

好みってあるよな、と思う。
例えば、TVに一瞬写っただけで、好きだなと思うとか。
どういうやつか全然知らないのに、きっといいやつに違いないと思ってしまう。
祐貴に対するものはそんな感覚に近かった。
オーダーを決めると。
「ちょっと、何か見てくる」
美樹が席を立った。
ここでは棚に並んでいるサンドイッチやケーキをセルフサービスで持ってこれる形式になっていた。
不満を食べ物で紛らわせるつもりらしい。
以前からそんなことはあった。
いやに食が進むなと思う時は美樹からの信号で、長い付き合いだからだいたい言いたいことは分かる。
今も分かるけれど、少しぐらいいいだろ、と俊介は心の中で美樹へ答えた。
テーブルに向かいあって、二人きりになったところで。
「職員室に行くだけでなんであんなに時間かかるんだよ」
俊介は消えない疑問を口に出した。
「ちょっとコピーを頼まれただけだよ」
――は?
「誰に?」
「宮崎先生とか……」
――宮崎?
それはちょっと断れないかもな、と俊介は思った。
学年主任で生活担当で、睨まれたらやばそうだ。
でも。
「生徒にコピーを頼むわけ?」
授業で使う資料とかを運べというなら分かるけど。
「まあ、ね。一度手伝っちゃたら、顔見ると頼まれるようになっちゃって」
――は?
なるほど、と思う。
星野のレポートもそんな感じなのかなと思った。酒井の週番日誌も。
何かきっかけがあって、一回やってその後は断れなかった。
「お前、バカじゃね……」
ふっと言葉がでた。
学年でぶっ飛びの一位であることは知っていた。
とんでもなく頭いいのだろうと、星野へのレポートでも思った。
そんな祐貴はきょとんとした顔をしていた。
「もう少し、要領よくやれよ」
勿体ないと思う。
頭があるのに――。

美樹はグレープフルーツジュース、祐貴はロシアンティーで、俊介はラテを頼んだ。
加えて、美樹はクラブサンドイッチを持ってきた。
「みんなでつまめるでしょ?」
そう言ったくせに、ほとんどが美樹の手に取られていた。

「食べれば?」
俊介はそう言ったのに。
「いいよ」
としか祐貴は言わなかった。
紅茶をかき混ぜながら伏せ目がちになる。
きれいだな、と俊介は思った。


「きれいな子だね」
祐貴の乗ったバスを見送りながら、美樹が呟く。
「ああ」
異論はなかった。
「いいよ」と最後まで遠慮する祐貴を押し切るように、バス停までやってきて見送った。
困ったような顔を今日一日で何度見たのか、と思う。
困らせるつもりはなかった。

「良かった、向こうは男で……」
美樹がぼやくように言う。
「は?」
「女だったら、勝ち目なかったかも……」
「何言ってんだよ。俺は幼稚園の時から、お前一筋だったぜ。お前は、了輔とか敬二とか朔矢とか色々浮気してたけどな」
そんなこともあった。
「あらあ、俊介にやきもち焼かせかっただけよ。ちゃんと帰ってきたじゃない」
そう、いつも。
ニ、三日遊ぶと飽きるのか、帰ってきた。
「だいたい、そんな昔のこと言われてもねえ」
美樹がためいきをつく。
今となれば懐かしい思い出で、近所の母親たちの昔話の笑い話になっている。
「本当に、友達?」
美樹が意味ありげに聞いてくる。
「え?なんで?」
「祐貴って言ったっけ。彼は意外そうな顔してたよ。俊介がそう言ったとき」
「これから、なるんだよ」
そう、これから。
「呆れた。無理やり引っ張ってきたの?」
「無理やりじゃないよ」
帰ろうと言ったのは向こうからだ。
「そういうことにしとく」
一旦切って。
「今までの友達とはずいぶん違うタイプじゃない?」
美樹が不思議そうに言った。
「そうかもな」
だから余計に気になるのかもしれなかった。
「帰ろ」
美樹が言う。
祐貴の乗ったバスが見なくなってから、久しかった。

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