銀色の輪
「これ」
柴崎が手を彬の目の前に差し出した。掌の上には小さく輝くものがひとつちょこんとのっている。
「これは?」
彬が掌のものを見た後に柴崎を見上げると、柴崎は照れたような顔をして視線を伏せた。
「お前に。店の前を通った時に、なんとなく目にとまって……」
柴崎が空いている手で頭をがしがしかく。
「ありがとう」
彬はそっと柴崎の掌から小さな輪っかを取り上げた。銀色に光るシンプルな輪は、内側に文字が掘り込まれていた。
『K to A』
それが誰を指すのかは直ぐにわかる。
「大切にする」
言いながら彬は掌に乗せた。
「はめてやるよ」
そう言って、柴崎が彬の手から小さな輪をとる。そして、彬の手を持った。
「あれ?」
困ったような声を出す。
小さな輪は小さすぎて、第一間接までも入らなかった。
「お前の指は細いと思ったのに」
残念そうに呟く。
「先輩よりはね」
細くて華奢に見えるから、その小さな輪はたぶん女性用なのだろう、と彬は思った。男が男ものの、しかも自分のサイズと違う指輪を買うのは、とんでもない勇
気が必要そうだ。
「チェーンを買ってきて、通して、首にかけるよ」
柴崎の手から、取り上げる。小さな、大切な、カタチになっているもの。
「僕も、何か送りたいな。何がいい?」
残念そうな顔に問いかけた。サイズは合わなかったけれど、何かカタチにしてくれようとしたのは嬉しかった。
「いいよ」
「僕からもらうのは嫌?」
「嫌なわけないだろ」
少し突っ込まないと、本心は明かしてくれない。
「じゃあ、教えてよ。もし、あったら」
柴崎の顔を覗き込む。
ふっと視線を逸らしたから、きっと欲しいものがあるんだ、と彬は思った。
「じゃあ、教えてくれるまで、返事はしない」
ほんの小さなきっかけを与えないと、本心は探れない。
「え、彬?」
呼ばれた声には返事をせずに、彬は柴崎の前から立った。
「待てよ」
柴崎は彬の手を引いて、強引に座らせる。
「言うから」
やっと、最近、答えないと許さないことが分かったらしい。
「――――ピアス」
少しの沈黙の後、小さな声で柴崎が言った。
「え、でも、それはいいの?」
身体を傷つけてしまうものだ。それに、つけていて大丈夫なのだろうか。
「お前からもらうものなら、離さず身に着けておけるものがいい」
「でも、傷つけてしまうよ」
「お前なら、いいよ」
柴崎が口元を緩める。
本当に欲しいものなら、それが一番いいのだろう。
「じゃあ、明日見に行こう。チェーンと一緒に」
銀色の小さな珠は、きっと二人の距離を縮めてくれるだろう。
彬が柴崎に笑いかけると、柴崎は包み込むように彬へ手を伸ばした。
Fin.