もし思い切れるものなら――――祐樹はそう思った。
今まで通り友達で、笑って、じゃれて、つるんでいられたら、どんなに良いだろう。それができないから、言葉が口をついて出てしまった。友達でいるのが苦し
いから、それを分かって欲しかった。
「どうしようもないんだ」
祐樹は視線を伏せた。直接圭輔を見ることが辛かった。見つめられる視線を感じるだけで、今は胸が熱くなってくる。
「俺はお前と友達でいたいんだよ」
上から降ってくる声に、顔が歪んだ。
それが普通で、それが当たり前なんだ。それは分かっている。
「肩が……痛いよ……」
祐樹は呟いた。驚いたように圭輔が手を離す。その手は肩先を掠めて床へ置かれた。
痛いのは肩だけじゃなかった。表面からは見えない心の奥が疼く。
友達――――そう言われても祐樹にはよく分からなかった。ただの友達とは思えない自分の気持ちをど
れだけ押さえれば友達でいられるのか。
あごに手をかけられて無理やり上を向かされた。上から見下ろす圭輔が目を細める。
「なんでそんな顔するんだよ……」
圭輔の顔が苦しげに歪んだ。
「好きなんだ、だから圭輔を苦しめたくないよ。だけど、自分でもどうしようもないんだ」
胸の奥に滴が落ちる。
「だから、それは誤解なんだよ。何度言ったら分かるんだっ!」
じれったそうに圭輔は小さくかぶりを振った。
「何度言われたって分からないよ。頭で考えることじゃないだろ……だって、圭輔のことを思い浮かべただけで胸が痛いんだ。今だって、苦しいぐらいに痛く
て、なのに、手を伸ばせば届くところに圭輔がいることが嬉しくて、苦しくて。もう体に力も入らない。手をあげることさえ辛いんだ」
「っ……」
圭輔が唇をかみ締めるようにして、顔を逸らした。
「だから、離して。僕には、圭輔を押しのける力なんてない」
それは今には限らない。歴然とした差があることは分かっている。けれど、今は自分で立ち上がれるのかを不安に思うほど、体に力が入らない。
「……なんで、お前、そんなことを平然と受け止められるんだよ」
「え?」
「俺は男で、お前も男なんだぞ」
圭輔は顔を逸らされたままだった。
「そんなの分かってるよ」
生まれついた性別は変えられない事実だ。
「変だとは思わないのか? 」
「だって、好きなんだ」
伸ばした手が圭輔の頬に触れていた。
気づいたら好きになっていた。その気持ちをどうすることもできなかった。
「変だろ、そんなの」
振り払われるかと思った手はそのまま、圭輔は顔を逸らしていた顔を祐樹へ向けた。歪めた顔はそのまま小さく瞳は揺れていた。
「いいよ。変でも」
気持ちを偽ることができるほど自分は器用じゃない。
温かくて柔らかい圭輔の頬を祐樹はそっと撫でた。それだけで胸が熱くなってくる。触れられるのはこれがきっと最後だ。そう思うと、このまま時間が止まって
しまえばいいと思った。
「ごめん。どんなに詰られても嫌われても、この気持ちは変えられない」
迷惑だと分かっていても、望まれていないと分かっていても。
止まって欲しいと思う時間が止まってくれないことは分かっているから、いつまでも触れていたい頬から祐樹は手を離した。
「もう近づかない。迷惑はかけないよ」
祐樹は体を捻って起き上がろうとした。いつまでも平行線な話はどこかで誰かが切らなければいけない。
祐樹が捻って起き上がろうとした体を圭輔に抱き込まれて押さえつけられた。
――――え?
足に圭輔の高ぶるものを感じて、祐樹はそのまま動けなくなった。
「そんなこと言うなよ」
苦しげな声が囁く。
「友達だよって、そう一言言えばいいだけなんだから」
更に抱きしめるようにして圭輔が続けた。
「圭輔? 」
暗く静まっていた胸がとくんとくんと波打ってくる。
「俺は嫌だよ……俺を巻き込まないでくれよ。男が男になんて絶対変だろ? お前が友達だって言えばそれでいいんだよ」
ぎゅっと抱きしめられて胸が熱くなっていく。
「もう、だから、近づかないって言ったよ? 」
出す言葉とは違うことを頭では考えていた。圭輔の体は明らかに友達に対するものとは違っていて、それに対する答えを見つけられない。
「それじゃあ、嫌なんだよ。お前は俺の傍に友達としていればいいんだ」
「無理だよ」
また話は平行線に戻ってしまう。
「どっちも男ってことは、男が男を抱くんだぞ」
「……分かってるよ、そんなこと」
そこまでを望んでいたわけじゃない。ただ好きだということを心の中にしまっておけなくなっただけだ。けれど、もし、圭輔が望むなら、拒むことはしないだろ
うと
思う。
「男に抱かれるなんて俺は、絶対っ、嫌だよ」
圭輔の手が頭を抱きこむ。
「……誰も圭輔を抱くなんて言ってないよ」
圭輔の言葉が頭の片隅に引っかかった。
「いいのか? お前は」
ふっと離れた圭輔が顔を覗きこむ。
「抱いてみる? 」
祐樹が言うと、圭輔はあっけに取られたような顔をした。
「試してみる? 」
もし、望みがあるのならそのチャンスを失いたくなかった。
「お前、自分で言ってる意味分かってんのか? 」
圭輔が怪訝そうな顔をする。
「分かってるよ。もし……もし、途中で圭輔が嫌だと思ったら止めていいよ。その場で放り出していい」
「お前、そんなこと」
圭輔が視線を彷徨わせる。
「いいよ。今からでも……でも、だめかな。親とか帰ってきちゃうよね」
「兄貴は……いつも終電だし、親も仕事人間だからまだ帰ってなんか来ないよ。でも……」
圭輔が視線を逸らした。
祐樹は圭輔の体からすり抜けると、上半身を起こした。
「シャワー、貸して」
祐樹が言うと、圭輔も起き上がって祐樹をぼんやりと見ていた