季節は人の心などお構いなしに過ぎていく。
冷たくなっていく風とともに色づいていた葉も落ち、クリスマスもお正月も何もないまま過ぎていった。
無理強いをしないと言った俊は言葉のまま、時々思い出したように言葉では仕掛けてきてもその先を要求することは無かった。
図書室で課題をやったり話をしたり、それは変わらなくて、人の気配がするとはっと顔を入り口に向ける動きも変わらない。ただ、あれから先輩は姿を見せな
い。
かりかりとシャーペンを動かす俊の手が突然止まった。
それはいつものことだった。
そして、ため息をつくとまたかりかりと書き始める、はずだったのに、俊は顔をあげたままだった。
もし、先輩が来たのだったら、今度は席を外そうと祐樹は思っていた。ちょっと書庫の影へ本を取りにいく振りをするのでもいい。受験シーズン本番に向かっ
て、学校へ来ることさえなくなるのだから、せめて二人きりにしてあげたい。そう思って祐樹は顔をあげた。
顔を上げたまま、祐樹も固まった。
「ちょっと席外してくれないか?」
机を挟んで祐樹の向かいに立った圭輔が俊に向かって言った。
「ああ」
返事をすると俊は自分の荷物を鞄に収め、席を立った。その時、俊が祐樹の肩をぽんと軽く叩いた。思わず顔を向けた祐樹に、俊は口元を緩めた。
がんばれよ――――そう言われている気がした。
「じゃあな」
言葉では挨拶を告げ、俊は机を回り図書室を出ていった。
心臓がどくどくと走り出す。
久しぶりだった。気持ちを告げたあの日から圭輔と向かい合うのは初めてだった。
「そんな顔するなよ」
そう言うと、圭輔は顔を伏せ、机を回って祐樹の隣の席へ腰を下ろした。
どうしたらいいのか分からなかったし、何を言ったらいいのかも分からなかった。
ただ心臓はどくんどくんと体の中で響いた。
「この間、撮影会があったんだ」
圭輔が鞄を机の上に置くと、中から分厚い紙袋を取り出した。紙袋の中から写真をつかみ出すとテーブルの上に広げる。
重なった写真は隙間から梅の花を覗かせていた。
祐樹がぼんやりと写真の山を見ていると、圭輔はその中から一枚を取り出した。
「これなんか、いいだろ」
目の前に写真を持ってくる。
「花なんか興味ないか」
笑う顔は引きつっていた。
祐樹は声が出せなかった。
はっきりと拒絶されて諦めるしかないと分かっているのに、それができずにいる。
目の前にいるだけで胸が熱くなって何も言えなくなるなんて情けないと思いながらも、何もできずにいた。
「友達じゃ……だめなのか? 」
圭輔が手に持った写真をひらひら振りながらぽつんと言う。
友達でも――――そう言うことはできなかった。友達として圭輔を見れる自信はなかった。
「なんか、言ってくれよ」
圭輔が不安そうに顔を覗きこむ。
目の前に圭輔の顔があって、何か言いたくても何も浮かばなくて、声もでない。
「なあ、祐樹」
何もされていないのに、息があがってくる。
「ご……めん」
やっと言えたのは謝罪の言葉だった。
あげた視線に圭輔の視線が重なる。見つめられて動けなかった。そのまま圭輔が近づいてくるから、祐樹は咄嗟に目を閉じた。
柔らかいものが唇を覆ったのは一瞬で、はっとして目を開けた祐樹に映ったのは、困惑げに眉根を寄せる圭輔の顔だった。
「俺……」
圭輔が手を口元へもっていく。
「圭輔? 」
これは夢? ――――頭の中にそんな言葉が通り過ぎていく。けれど、感触は確かにあった。
圭輔は宙を一回見上げると深い息を吐いて、鞄を抱えて身を翻し何も言わず足早に図書室を出て行った。
残されたのは写真の山で、その中の一枚が滑り落ちた。ひらひらと舞うように落ちた写真を祐樹は拾いあげた。
白いまだ半開きの梅の花が写真には写っていた。