ベッドがぎしぎしと音をたてる。
「あっ……まさ……、もうだめ……だから……」
卓巳はシーツを握りしめていた。足は雅也に抑えられて動かせなかった。
イきたくて、でも、雅也にはイかせてくれなかった。ぎゅっと握られたそれは刺激が欲しくて、けれど、体は抑えられて動けなかった。
「もう少しがんばったら、イかせてやるよ」
雅也が冷たく言う。
「もうっ、だめだよっ!」
動く上半身を捻っても、欲しい刺激には届かない。雅也に突かれているところが痺れてくる。その痺れは今にも弾けそうなのに、なかなか許してくれなかった。
「イきたい?」
雅也が聞いてくるその声は酷く冷静に聞こえた。
「まさ……やっ!」
縋るように出した卓巳の声は掠れていた。
いつもは優しい雅也が今日は違って見えた。今まではイきたいと思った気持ちを察するかのようにイかせてくれた、なのに。
――なぜ?
言われたことは守っていた。雅也を怒らせるようなことをした覚えはない。膨れ上がる熱を吐き出したくて、けれど、その根元を雅也に押さえつけられていた。
雅也は構わずに突き上げてきて、体がびくんびくんと跳ねる。
「お前は俺のもの?」
雅也にそう聞かれて、卓巳は何度も頷いた。
何でも言うことを聞くから、だから、この熱い体をどうにかして欲しいと思った。
ふっと弛んだ雅也の手が熱の先端を誘う。
「……っ!」
すぐに弾けた熱は卓巳の体を愉悦で包んだ。力が抜けた体を更に雅也は突き上げてきた。
「たく……みっ!」
熱を帯びた雅也の声は卓巳には遠く感じた。


ゆらゆらと快感の中で漂っていた意識はいつの間にか落ちていたらしい。ふっと気がつくと、雅也の腕に抱かれていて、その雅也は寝息をたてていた。
二人ともあのまま寝てしまったらしい。
「ま、いいか」
誰に見られることもない。
卓巳はそのまま目を閉じた。
風がレースのカーテンを揺らしていた。少し秋を感じる風は心地よかった。



どこかで目覚まし時計が鳴っていた。
しばらく聞いていなかった音は懐かしく感じた。
いつまでもその音は止まらなくて、自分でかけた記憶はないからいったい誰の目覚ましなのだろうと思いながら、意識がはっきりしてくると、間近でうるさく鳴 る音は自分のものとしか考えられなかった。
――なんで?
セットした記憶はない。
卓巳が目を開けると、ベッドの縁に座る雅也の姿が目に入った。
「え?」
「起きたか?」
雅也が目覚まし時計を切る。
「どうしたの?」
雅也は学校の制服に着替えていた。
「もう罰ゲームは終わりだ」
雅也が頭を撫でる。
「罰ゲーム?」
そんな話は聞いていない。
「もう、自由にしていいってことだよ。部屋へ戻っていい。好きにすればいい」
――え?
「ちょっと待ってよ」
卓巳は雅也の腕を掴んだ。
罰ゲーム? 何の? 自由にしていい?
「俺といたらお前は幸せにはなれない。そう、澤田にも言われた」
「澤田?」
誰だろうと思って、卓巳はあっと思った。
「なんで? 澤田さんは僕達の関係を知っていたわけじゃないでしょう? 」
かまはかけられたけれど、はぐらかしたはずだ。その事を不審に思っている様子は無かった。
「キャンプでのことを……単なる余興のひとつだって分かってたんだろ? お前の弟が可哀想だ、ってさ」
そう言って雅也がふっと笑う。
「お前に何が分かるんだとその時は思ったけれど」
雅也は目を細めると、顔を伏せた。
「俺はここまでお前を束縛しても満足なんかできない。束縛すればするほど小さなことが気になる。ほんの一瞬外された視線とか、何を考えているのか、と か、限がないんだな」
「雅也?」
それは嬉しいことなのか悲しむべきことなのか卓巳には分からなかった。
「知ってたんだ。キャンプで吉野達がしたこと……」
もしかとは思っていてもそれは微かな思いで、雅也の演技だったとは思えなかった。
「あの時はお前もぐるだと思っていた。だから、お前が俺の前からお前が消えたらどうなるのか見たいなら、見せてやるよ、と思った。だけど、澤田が言ってた よ。お前は何も知らないみたいだったってね。きょとんとした顔をしていて、俺を呼ぶ声は震えていたって」
「そうだよ。知らなかったよ。だけど――」
ぐるだったとは思って欲しくは無かった。雅也の気持ちを確かめようなんて思ってはいない。ただ、事の発端が自分にあることは変わりない。
「だから、もう終わりにしよう」
雅也が言う。
「嫌だ! ちょっと待ってよ。ずるいよ」
卓巳は体を起こして雅也の腕を両手でぎゅっと握った。

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