卓巳は雅也に言われた通り風呂に入ると部屋に戻って雅也を待っていた。けれど、雅也はなかなか戻ってこなかった。
しつこいぐらいに傍にいた人間がいなくなると、それはそれで不安だった。
「もう、一時間?」
時計を見て思う。
先に上に行っていろと言われただけだ。それから風呂に入ったとしてもとっくに上がってきていい時間だ。
―― 下へ見に行こうか
そう思ったけれど、卓巳はめた。部屋から自由に出ていいとは言われていない。言いつけを守らなかったと、今度はどうなるか分からない。
自分にそれほどの価値があるとは思わないけれど、雅也がそう願うなら、雅也と二人で生きていくのもいいかもしれないと卓巳は思い始めていた。
山の中で聞いたあんな切ない声をもう聞きたくない。
雅也はたぶん、世界中の誰よりも大切にしてくれる。


ベッドの上に座ってまんじりともせず、さらに小一時間待つと、階段を上がる音が聞こえてきた。
「雅也!」
卓巳はベッドを降りて、駆け寄って、部屋に入ってきた雅也に飛びついた。
「どうしたんだよ!」
雅也が驚いたと言わんばかりに声を出す。
「雅也が遅いから……」
もう自分には雅也しかいない。
「ちょっと、買い物してきたんだ」
雅也が手で顎を捕まえると、軽く唇に触れてくる。たった、それだけで、卓巳はほっとする気持ちがあった。
「買い物?」
それなら、一言言ってくれればよかったのに、と思う。
雅也は持っていた袋の中からビンを出した。
「手を出してごらん」
そう言われて卓巳が手を出すと、雅也がビンを開けて中の液体を掌にたらす。紫色のぬるっとした液体からはほんのりと花の匂いがした。
「クリームより、こっちの方がいいんじゃないかな」
きゅっとビンの蓋を閉めて雅也が言う。
体を剥がすようにされて、
「風呂入ってくるから」
そう言うと、雅也は軽く頭を撫でると部屋を出て行った。
――え?
今までの雅也に比べてあっさりしている気がした。まるで突き放されたような気さえした。触れてくる唇も撫でてくれた手も変わらないのに、雅也が去った後に 卓巳の心の中に不安が残っていた。

窓にかけられたレースのカーテンが風に揺らされていた。
灯りを落とした部屋の中は、扇風機のモーター音と、
「卓巳……」そう呼ぶ雅也の声と、
自分の息づかいと、
ジェルがたてるぴちゃぴちゃとした音が混ざっていた。
いつものように触れる雅也の手は優しくて、違うと思ったのは気のせいかなと卓巳は思った。
「夜の方が好きみたいだな」
雅也が笑う。
「だって、なんか恥ずかしいよ……」
見られているのだと思うと体が硬くなる。けれど、それも最初の頃よりはだいぶ慣れたと思っていた。
「別に恥ずかしがることなんてないだろ。お前の裸は赤ん坊の時から見てるんだから」
「赤ん坊の時と一緒にしないでよ。ここ数年は一緒にお風呂も入ってなかったし……」
自然に、風呂は一人で入るようになった。
「同じようなモンだろ。ついてるものが同じなんだから」
そう雅也は言ったけれど。
「……違うよ」
双子なのに、と言っても顔も性格も頭のできも違うのだから、違って当たり前ではある。
「不満?」
雅也に聞かれて
「そういう訳じゃないよ」
卓巳は答えると、雅也の背中に腕を回して抱きしめた。体が触れ合うと下腹部に自分のものよりも大きく見えるそれの硬さを感じる。
まだ、少し余裕があるんだなと思った。
互いに上になり下になり、ここずっとこんな事をしていたのだから、どうしたら気持ちいいかも分かってくる。
「ここ、雅也好きだよね」
卓巳は雅也の脇をすっと撫でた。応えるように雅也が体がぴくんと反応する。
「お前もだろ?」
雅也が背筋を辿るように優しく撫でてくる。初めはくすぐったく感じていたところが、熱を帯びてくるとその感覚を変える。
肌を触れ合っているだけでも気持ち良いいけれど、
「お遊びを終わりにしよう」
雅也はそう言うと、体を入れ替えるように組み敷いてくる。買ってきたジェルを掌の落とすと、内股へ手を差し込んできた。
卓巳はぬるっとした感覚を窄まりに感じた。
「痛かったら、言えよ」
雅也の手が優しく撫でる。
「ん……」
感じるそれは久しぶりの感覚だった。

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