朝なのかもう昼なのか、卓巳が起きると雅也が食事を持ってきてくれた。流し込むような食事が終わると、雅也と体を絡める。また、雅也が食事を持ってきてく
れて、また体を絡めて。
そんな生活は世界と隔離されていて、空の色とセミの鳴き声しか分からなかった。
壁にかかっているカレンダーはただのポスターの意味しか持たず、今日が何曜日か何日かは分からない。夏休みがあと何日で終わって、それから後どうなるのか
も分からなかった。それほど量があるわけじゃない宿題はキャンプへ行く前にほとんど終わらせていたけ
れど、それは無駄なことだったのかもしれないと思う。
雅也は何を考えているのか、それを聞くことも卓巳は怖かった。
じぃじぃとセミがうるさく鳴いていた。日差しが少し柔らかくなって、太陽はもうすぐ沈むのだろうと卓巳は思った。
雅也とひとしきり戯れた後、卓巳はベッドの上でうつ伏せに寝転んでいた。
「卓巳、何を考えてる?」
雅也が顔を覗きこむようにして、聞いてくる。
「別に、何も……」
とりたてて言うほどのことじゃない。
何も考えたくなかった。考えて良かった試しがない。
「もう、飽きたか?」
雅也が耳元で囁くと、耳たぶを甘噛みする。
「っ……そんなことないよ」
それなりに体は感じて、今日だけでも何度イったか分からない。
ただ、雅也は体を繋げようとはしなかった。
『いいよ』と、そう卓巳は何度も言ったのに、雅也は笑うだけだった。
互いのものを擦りあって、それだけでも十分に気持ちは良いけれど、何か満たされないものを卓巳は感じていた。
それが、体を繋げないからなのかか、心の奥に燻るものがもたらすものなのかは分からなかった。
「もう夏休みも終わりだな」
雅也がカレンダーを見ながら呟くように言う。
ということはもう八月も末ということで、この部屋で生活を始めてからもうそんなに日にちが経っていたんだと思った。
初めは窮屈に思った生活も慣れてくれば楽だった。
何もしなくていい。ただ寝て食べて快感を貪っていればいい。その後のことは考えないようにした。考えたところで、どうなるか分からない。
「夕飯は下に食べに行こうか」
雅也が言った。
意外な言葉に卓巳は耳を疑った。
「え?」
突然のことだった。
「母さんも心配してるし」
――え?
「心配することなんてないじゃん」
雅也の管理下の元で勉強していると信じているはずだ。
「子供の顔見れなきゃ、心配にもなるだろ」
それはそうかもと思いながらも、釈然としなかった。
「……どうかした?」
疑問が口から出る。
雅也は今までそんなことは一言も言わなかった。
「別にどうもしない。何か理由がなきゃだめなのか?」
「そんなことないけど……」
けれど、雅也のすることには何か理由があるはずだ。
「卓巳がつまらなそうな顔してる」
雅也が目を細め手が頬を撫でる。
「そんなことないよ」
卓巳は頭を振った。
気持ちを疑われたようで不安になった。キャンプから帰ってきてからずっと雅也に逆らわなかった。それは信じて欲しいからだ。
「じゃあ、楽しいか?」
雅也が意味ありげな顔をする。
楽しいよ――そう言えばいいと頭は命令するのは声はでなかった。
「呼びにくるから、服を着ていろ」
雅也は笑うとベッドを降りTシャツに手を通す。ハーフパンツをはいて一度後ろを向いて、歩きかけて戻ってきた。
「そんな顔をするな。お前の気持ちは分かってるから」
ちゅっと額に軽く唇で触れると、雅也は部屋を出て行った。
――分かってる?
本当に?
じゃあなぜ部屋に隔離するのか、そして突然下に食事をしに行こうと言うのか。
卓巳には雅也の気持ちが分からなかった。
久しぶりの家族との食卓は、流し込むだけのものとは違った。久しぶりに見たTVも新鮮に感じた。母の笑顔が懐かしく思えた。
先に風呂に入ってこいと言った雅也は、
「今日は覚悟しとけよ」
と耳打ちしてきた。
今日?
今まで体を繋ぐことを拒んでいた雅也がその気になったのかなと卓巳は思った。