卓巳がコテージのドアを開けると、雅也がゆっくりと体を起こしてきた。
「すぐ、戻ってくるって言っただろ?」
責めるように言う。
「ごめん」
卓巳は謝ると、靴を脱いで部屋に上がった。
部屋の隅に自分の荷物があって、澤田が持ってきてくれたのだと思った。

「澤田さん、何か言ってた?」
卓巳は自分の荷物を視線で示した。雅也に話したいことがあると言っていた。
「別に」
答えはそっけない。
「友達だろ?」
「そんなのはどうでもいいよ。卓巳、早く来いよ」
雅也が手招きする。
雅也の脇にしゃがむと、回してきた腕に抱きしめられて床に倒された。このまま、今夜は離してくれないだろうと思った。
「明日二人で朝一番に帰ろう?」
自分達がいない方が、みんなも変な気を回さなくて済むだろうと思う。
「もう、離さない……」
雅也が呟くように言う。
答えはもらえなかったけれど、雅也に反論はないのだと思った。
「どこにもいかないよ」
あんな雅也を見たらどこにも行けるはずがない。
唇を塞がれて、だめだよ、と思ったけれど抵抗はできなかった。



もう、離さないと確かに雅也に言われた。
けれど――。
キャンプから帰ってきて一週間、卓巳はトイレと風呂以外自分の部屋から出ることを許されずにいた。
食事は雅也が運んできてくれる。
時には、トイレや風呂まで付いてくる。

キャンプから戻ってすぐ、
『卓巳がやる気になったから勉強を見てやることにした』
雅也はそう両親に向かって言った。
気が散るから、二階にはあがってくるなと牽制もした。もともと雅也の信用は厚い。反対も異論もなく、雅也の部屋で軟禁とも言える生活が始まった。
それで勉強をしているのかと言えば、しているだろと雅也は言うけれど、机の前に座って参考書や問題集を開く勉強とは程遠かった。

外ではひっきりなしにセミが鳴いていた。
窓を開けていても熱気がこもっている部屋の中で、扇風機から流れてくる風が体を掠めていく。
「んっ……」
雅也の指が乳首をくすぐる。
「もっと、体を楽にしろよ」
もう片方の手が体の線を撫でるようにする。
「そんなこと……言ったって……」
薄いレースのカーテンを引かれただけの窓は開いていて、日差しがさんさんと部屋の中へ入ってくる。何も身につけていない体は、それだけで恥ずかしさもある のに、そんなことは容赦しないとばかりに足を広げられ、口が手が体を愛撫する。
「誰もこないんだ。俺と二人だけなんだから、そんなに体を硬くすることないだろう」
ぺろっと乳首を舐められて、体はびくんと跳ねた。
「っ……」
思わず卓巳が零した声に、
「抑えることないよ、もっと声を出せばいい」
雅也が乳首を口の中で転がす。
「……やだ……、雅也……やめ……」
手で雅也の体を押すように触れたけれど、雅也の体に触れて力は抜けた。

雅也をこんな風にしてしまったのは自分だという意識が卓巳にはあった。
好きだと思った。離れていって欲しくはなかった。だから受け入れたけれど、雅也との気持ちのずれは埋まらない。
心のどこかで自分を非難している気持ちはある。雅也は男で、しかも兄だ。
日が高いうちに体を重ねることも好きじゃない。雅也が望むことだからと思っても、拒む気持ちが抵抗する。
こんなことをしていいのか、と心の奥底で囁くやつがいる。
結局、キャンプの誘いにのってしまったのも、雅也に落ちてしまう自分が怖かっただけかもしれないと思う。
雅也を失いたくなくて、そのくせそんな自分に疑問もあって、そんな気持ちは思わぬ方向に進んでいく。
雅也に嘘をつかなければ良かった。声をかけてきた祥子には最初にはっきり自分の意志を示すべきだった。
何より、雅也の声に反応できなかった自分は後悔しても後悔しきれない。
雅也が何の理由もなく行動を起こすやつじゃないと分かっていたはずなのに、気持ちは別の方向へ行って体も動かなかった。
今度雅也を拒んだら、どうなってしまうのだろう。その先には不安しかない。きっと後悔する結果が待っている気がする。
「気持ちよくないのか?」
雅也の手が腰を撫で下腹部に伸びる。
「そんなことないよ」
卓巳は腕を雅也の背中へ回した。
後悔なら山ほどした。卓巳はもうこれ以上、自分が傷つくことも雅也を傷つけることも嫌だった。

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