「ずいぶん遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」
吉野がぼやく。
「ごめん」
他のやつらがどれほどの速さで歩いていたのかは知らないが、足元を気にしてゆっくり歩いていたことは確かだった。

「卓巳、ちょっと代わってくれない?」
吉野が言う。
――え?
そんな話も聞いていない。
けれど。
「……いいよ」
断る理由も見つけられなかった。
「隠れてて、誰か来たら驚かすだけでいいからさ」
「あ、うん」
あまり自分に向いていることではないなと卓巳は思ったけれど、それなりにみんなに迷惑をかけているのだから、少しぐらいは貢献しなきゃいけないか、とも 思っ た。
戻ってくるやつの様子から、この肝試しは案外好評のようだった。
「田宮が最後だから、一緒に戻ってくればいいよ」
吉野が言う。
「うん。分かった」
確か、あと三組ほどだ。
祥子が少し不安そうな顔をしていたけれど、吉野に促されて今来た道を戻って行った。遠くなっていく足音が消えると、あとは虫か鳥の鳴き声と風でそよぐ枝や 葉の音が耳の傍で響いた。
「まだ、ましだよな……」
社についていた電球を見て思った。
真っ暗な中で一人きりなら、酷く不気味だ。よく吉野はやってたよと思い、ため息がでた。
そして、雅也は心配するかもしれないと思った。
過保護ぶりはぴか一で、きっと最初からこの役が自分だったら雅也は反対しただろうと思う。それが嬉しい時もあれば、煩わしく思うこともある。正直、もう少 し信用してくれよ、とも思う。
「まあ、あと三組だから」
それほど長時間なわけじゃないし、吉野がやっていたことだ。
「どこに隠れよう」
あまり暗いところは敬遠したかった。
電球の灯りが届くところに小さな茂みがあって、
「ここでいいか」
卓巳は裏に身を隠すようにしゃがんだ。
あとはただ誰かが来るのを待っていればいい。


少し時間が経って、卓巳は自分が呼ばれているような声を聞いた。
「え? あの声って……」
聞き違えでなければ、雅也だと思う。
声はどんどん近づいてきて、ばたばたとした足音も一緒に聞こえた。
「卓巳っ!」
そう自分の名前を叫ぶ雅也の声はどこか切羽つまっているような気がして、卓巳は体が固まった。
――まさか?
心配するかもしれないと思った予想は当たっていたらしい。
ただが監視役を変わってくれと言われただけだ。ゲームの途中ではあるし、いくらなんでも過保護すぎるんじゃないの、と思う。
大声で何度も名前を呼ばれて、いい加減にしてくれよ、と卓巳は思った。人の目がある周りの状況を少しは考えて欲しいと思う。

別にいなくなった訳じゃないんだからさあ……

あんな必死に叫ばなくても用事が済めば戻るし、今まで吉野がやっていたことなんだから、まったく恐怖がないと言えば嘘になるけれど、危険なわけでもな い。雅也の声を聞いて、卓巳が感じていた怖さは不思議に無くなっていた。

まったく……

出ていかないと雅也も収まりがつかないだろうか、と卓巳が重い腰を上げようとしたら、雅也の声が遠くなっていくのを感じた。

え?
諦めた?

それにしては、小さくはなったけれど、雅也の名前を呼ぶ声は聞こえてくる。

―― 何してんだよ

卓巳がどうしようと思いあぐねていると、
複数の足音が聞こえてきて、
「卓巳、出てこいよ」
吉野の声がした。
吉野は順番に入っていなかったはずだ。

「何か、あった? 」
恐る恐る卓巳は立ち上がった。
あの兄貴どうにかしろよ、と文句を言われるかなと思った。まさか、役を代わっただけであれだけ騒ぐとは思っていなかった。

「マズかったかな」
吉野が重い声を出す。
相変わらず、雅也の声は木々の中でこだましていた。

「早くしないと、あんまり奥へ入っちゃうとマズイんじゃないか」
雅也の友達が言う。
吉野が一度顔を伏せて、頭を掻きながら、
「卓巳がいなくなった、って言ったら……」
ぼやくように言う。
「え……」
卓巳は背筋を一筋冷たいものが落ちていくのを感じた。

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