早すぎた夕食で少しお腹もすいてきていて、残っていたものをきれいに片付けてから、キャンプ場を出て橋を渡った。
「ここからずっと一本道だから」
吉野が説明する。
「じゃあ、俺は社で待ってるから、五分後に第一陣が出発ってことで」
吉野は時計を見ながら言うと、吉野は懐中電灯を持って一人で細い道を入って行った。
空には満月が光っていて満天の星空が広がっていたけれど、ぽつんぽつんとしか街灯はなく、頼りは懐中電灯だった。
「じゃあ、行ってくる」
一番くじを引いた小島がペアになった子を促して、細い道へ入って行った。入った途端、「きゃ」っと小さく叫ぶ女の子の声が聞こえて、
「思ったより面白いかもな」
そう雅也のグループのやつが言った。
「やだっ」
と女の子のうちの誰かが反応して、
「大丈夫だよ」
と宥める声もあがる。
太陽の光の中では気持ちよい木々の中の道も暗い中では不気味に見える。時折、『ほー』とフクロウのような鳴き声も聞こえた。
ひとしきり盛り上がった後、待っている間は何もすることがなくて、明日はいつごろ帰るとか、その前に何をしようだとか、焼きそばが食べたいだとか、たわい
のない話をしていた。
懐中電灯らしい灯りと話声と足音が道から聞こえてきて、小島達が暗闇から姿を現して、と同時に、
「もう、やだあ」
小島とペアだった女の子が叫んだ。
「どうしたんだよ」
と聞かれて、
「吉野くんが突然後ろから声をかけてくるんだもん!」
不服そうに訴えてくる。
横で小島がにやにやしていて、
「あいつ、どっから出てくるか分かんないぜ」
そう脅かすように言った。
「え、やだ」
二番目の子がしり込みして、
「まあ、それぐらいの方が楽しいだろ」
と雅也の友達が言う。
「どうせ吉野だよ」
そう言われながら、第ニ陣も出発していった。
しばらくして派手な叫び声が聞こえて、
「吉野、やるじゃん」
なんて歓声もあがる。
分かっていても、暗闇の中、突然現われれば驚くのは当然と言えば当然だろう。
三番目は雅也で、行く時にちらっと見てきたけれど、特に何も言わずに暗闇に消えて行った。
女の子の数が足りないから、女の子は二回行くことになる。
卓巳は祥子とペアになった。きっと雅也は面白くないだろうと思ったけれど、特に文句も言わなかった。
卓巳の番が来て、卓巳が行こうとすると、雅也が
「気をつけろよ」
と声をかけてきた。
「うん。大丈夫だよ」
卓巳は笑って手を振った。
みんな通った道で奥には吉野が待っている。
細い道へ入って、すぐ祥子が「きゃ」と小さな声をあげた。
「大丈夫」
そう卓巳が声をかけると、
「足に、何か……」
祥子が怯えたような声を出す。卓巳が懐中電灯で祥子の足を照らすと、草が風で揺れていた。
「草だよ」
分かってしまえばなんでもない。
「手、繋いでいい?」
祥子が恐る恐る聞いてくる。
「あ、うん」
卓巳の方から手を握った。
この場合は仕方ないだろうと思う。草が触れたぐらいで怯えて止まっていたらいつ着くか分からない。
「こういうの苦手?」
手が冷たくなっていた。気配からも怯えているのが分かる。
「うん。全然だめ、でも……」
祥子が言いかけて言葉を止める。
「でも、何?」
卓巳が促すと、
「ううん。何でもない」
祥子はそう言って頭を振った。
しばらく歩いていくと、
「私、卓巳くんのお兄さんに嫌われたのかなあ」
祥子がぼそっと言ってくる。
「そんなことないよ」
雅也は疎ましく思ったようだけど、それは祥子だからじゃない。
「そうかなあ」
呟くように言って、
「卓巳くん、本当に彼女いないの?」
囁くように聞いてくる。
「彼女はいないけど、好きな子はいる」
それは、はっきりしておかなきゃいけないと思った。
「なんだ……」
がっかりしたような声を出した。
それから、祥子は無言になってしまって、卓巳もかける言葉が無くて手を繋いだまま、懐中電灯の灯りを頼りに歩いた。
初めて歩いた道だから、いったいどれくらいの距離があるのかは分からなかったけれど、段々目が慣れてくるとぼんやりと周りの様子が分かるようになって、急
に目の前が開けたと思ったら小さな鳥居があって、その先に小さな社があった。
「え……」
卓巳は足が止まった。
社の天井に小さな裸電球があって柔らかい光をたたえている。その下に、にやにやした吉野が座っていた。
分かっていたし、突然でもなく、ただ居ただけなのに、どきっとした。
「ずいぶん、仲がいいじゃん」
吉野がからかうように言う。思わず、卓巳は祥子と繋いでいた手を離した。