空は雲ひとつなく青かった。
川は優しいせせらぎを奏でていた。
川原に座って釣りをしていたけれど、釣竿の先の浮きは変化がなくて、隣の雅也がうとうとしているのは自然の摂理だと思った。
川原に座り昼食代わりのポテトチップを齧りながら、卓巳は浮きと雅也を交互に見ていた。

コテージに帰って寝た方がいいよ、と卓巳は雅也に声をかけようとしたけれど何度も止めた。
徹夜に近いと言っていただけあってみんな眠そうで、そんな時、魚釣りは自分達が引き受けると吉野が提案した。
そして、夜に肝試しを計画したいんだと持ちかけ、面白そうだ、ということになった。
肝試しなんて話は聞いてなくて、いつ計画したんだろうと思ったけれど、朝遅くまで寝ていたやつに文句を言う権利もないと思った。
川の対岸の山側を沿って細い獣道を行ったところに小さな社があるらしい。そこまで行って戻るという単純なものだった。
ただ、楽しみといえば、女の子とペアでということだったから、卓巳からすればあまり興味はないけれど、好まれるイベントかもしれなかった。
そういうわけで、思い思いの場所で釣り糸を垂れているのは卓巳のグループで、けれど、雅也だけは一緒に釣りをすると言った。

――そんなに不安?
卓巳は雅也の寝顔に聞いてみた。
「そんなに頼りない?」
今度は小さく声を出してみた。
雅也の反応はなくて、本気で寝ているんだと思った。
雅也の釣竿の浮きがぷくんと反応を見せて、浮き沈みする。
「かかったみたいだよ」
卓巳は小さく呟くと、雅也の釣竿に手を伸ばした。


途中で魚を放流してくれたこともあって釣りは大漁だった。昼過ぎに起きてきた残りのやつらも一緒になって少し釣りをして、それから少し早い夕食作りを始め た。
釣った魚を捌き、初日に残った野菜とともに、バーベキューにして、飯盒で炊いたご飯はおにぎりにした。
「うまいっ!」
大きなテーブルを囲んでの食事で声があがる。
昼食を抜いていたこともあったし、なんといっても魚は新鮮だし、空気も美味しい。不味いわけがない。
「暗くなるまでどうするの?」
という声があがり、
「山でも行ってみるか」
と答えたのは田宮だった。
「そうだな」
と答えたのは雅也のグループのやつで。
昨日の文句はどこへやら和気藹々としたムードになっていて、せっかくのキャンプがつまらないものになってしまったら責任は自分にあるような気がすることも あり、卓巳はほっとしたものを感じていた。
「別行動しないか?」
雅也が耳打ちしてきたけれど、
「みんなと行こうよ」
そう卓巳は答えた。そして。
「今度、二人で来よう」
小さく付け加えた。
今回のキャンプは友達と来たものだ。
「……そうだな」
雅也は少し不服そうだったけれど、諦めたように頷いた。
「コテージで休んでる?」
卓巳はふと思って雅也に問いかけた。
川原でうとうとしただけじゃ、寝たりないだろう。
「いや、一緒に行くよ」
「そう……」
まだ信用されていないと感じた。自分もコテージに残ると言えば、雅也も残るというかなと思ったけれど、個室に二人きりになったらどうなるか分かる気がし て、もしそれを誰かに見られたらと思うとそれを言葉にはできなかった。
「大丈夫だよ、さっき寝たから」
雅也が心配するなという顔をする。
「ん」
もし本当に辛そうだったらその時でも遅くはない。
せっかく空気も水もきれいなところに来たのだから、外で羽を伸ばしたいと卓巳は思った。


林の中には鳥のさえずりが響いていた。木の間から光が差し込んできて、枝葉がきらきらと光っていた。湿っぽいひんやりとした空気は、体を潤してくれるよう に感じた。
細い一本道を、卓巳は雅也と共にグループから少し離れた最後尾をゆっくりと歩いていた。
「気持ちいいね」
卓巳が声をかけると
「ああ」
雅也が頷く。
何も急かされることがなく、ゆったりと時間が流れていく。
夕焼けが山頂を彩り、少しづつ太陽が沈んでいく様を見ながらキャンプ場まで戻った。
キャンプ場に戻ると、早速と言わんばかりに、いつ作ったのか吉野が肝試しの順番を決めるくじを出してきた。

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