「何、見ておきたいところって?」
卓巳は雅也の横に立ったまま聞いた。そんな話は聞いていない。
「星、きれいだよ」
雅也が空を指差す。
星ならキャンプ場でも見れた。家からたった数時間しか離れていないのに、星の数は何十倍もあって、山の上でもないのに近い気もした。
「雅也……戻ろう」
二人で来ているわけじゃない。星ならみんなで見ればいい。
「卓巳と……少し話がしたかったんだ」
雅也が顔を伏せる。声も心なしか沈んでいる気がして卓巳は強く反論はできなかった。
「少しだよ……」
嘘を吐いていたことは確かで、そのことをみんなの前で言われたくはない。
卓巳は雅也の隣に腰を下ろすと、
「ごめん」
そう素直に謝った。言い訳もできなかった。
「お前は、俺を裏切ろうとしたのか?」
雅也が穏やかな声で聞いてくる。それがかえって怖かった。
「そんなんじゃないよ」
その気はまったくなかった。
「じゃあ、なんで正直に言わなかった?」
「雅也が……心配すると思ったから」
変な気を回していらない心配をさせたくなかっただけだった。
「卓巳」
呼ばれて卓巳が顔を向けると顎を捕らえられて、え? と思っている間に雅也が唇
を重ねてくる。
「……まっ……」
卓巳が離れようとすると雅也は許してくれなくて、頭も体も縛られるように抱きしめられていた。
でも、それは、ほんの少しの時間で、すぐに唇は離してくれた。
「見つかったら……マズイよ」
周りに身を隠してくれるものなどない。
「ばれてもかまわないって言っただろ」
雅也は少し腕を緩めてはくれたけれど、まだ抱き込まれたままだった。
「そんな風に思えないよ」
雅也がなぜそこまで思いきれるのか卓巳は分からなかった。非難の対象になることは分かりきっている。次の日から友達と呼べるやつがいなくなってしまうかも
しれない。
雅也はすっと腕を離して、ふっと笑った。
「お前らしいな」
「なんだよ、それ……」
卓巳は自分が意気地ない情けないやつに思えてきた。
「冒険はしない。道を外さない。なのに、高校入試は全て落とした。そこまでして俺とは居たくないのかとあの時はショックだったよ……」
雅也が乾いた声で言う。
それは、もう遠い昔のことに思えた。
「一緒に居たくなかったわけじゃないよ」
自分のために雅也が犠牲になるのが嫌だっただけだ。
「そういうことにしとくよ。もう終わったことで、そんなお前が俺を受け入れてくれたことは意外だった。今卓巳は俺のものだ。そうだろ?」
雅也が顔を覗きこんでくる。
ただでさえ暗い上に影になっていって表情はまったく分からなかった。
「ん……」
きっと物心付く前から、自分は雅也のものだったのだろうと思う。気持ちをそのまま出せた幼い頃はいつでもどこでも雅也に付いていった。
「今日は……」
雅也が言いかけた言葉を一旦切った。手をぎゅっと握ってきて。
「楽しんでこいって言ったのは本心だったよ。俺はお前に知られずただ見守っていられればいいと思った。だけど――」
雅也はまた言葉を切ると、痛いぐらいに手を握ってきた。
「もう、いいよ」
卓巳は頭を振った。
今更どうにもならない。自分にも咎められるところはあった。もし、自分が雅也の立場だったら面白くなかっただろう。女がいることを隠していたばかりではな
く、二人で並んで歩いていたのだから。
「戻ろう、雅也」
卓巳は雅也の手を取りながら立ち上がった。
「もう一回」
雅也が手を引き寄せるようにして言う。卓巳は自分から雅也の唇に触れた。触れるとほっとする気持ちは変わらなかったけれど、いつもより雅也の唇が冷たいよ
うに感じた。
ニ、三度啄ばむように唇に触れて、
「戻ろう」
卓巳がもう一度言うと、雅也は無言で頷いた。