なんでこんなことになったのかと卓巳は思った。
キャンプは雅也たちのグループと合同でやることになった。

なんのことはない。
吉野達は雅也たちの夕食のメニューがバーベキューだということに惹かれて、雅也達は女がいた方がいいということになったらしい。
飯盒をかけている火を卓巳がぼんやり見ていると祥子がそっと近づいて来て、
「ごめんね」
と申し訳なさそうに手を合わせた。
彼女に非は無い。
「全然大丈夫だよ」
卓巳は手を振った。嘘を吐いたのは自分だった。
「橘さんだっけ?」
突然後ろから雅也の声が聞こえて、
「野菜切るのは終わった?」
そう言いながら、遠くに見える炊事場を指差す。
「あ、あと少しだけ」
祥子が答えると、
「そう、こっちは二人で大丈夫だから」
雅也は穏やかな、けれどきっぱりした口調で言うと、
「あ、はい」
祥子は返事をして雅也に軽く頭を下げ、卓巳をちらっと見るとごめんねという顔をして背中を見せた。
祥子の姿が遠ざかっていくと雅也が隣で腰を下ろし、
「どういうつもりなんだ?」
と聞いてくる。
雅也が怒っていることの見当はつく。
「吉野たちが女がいた方がいいからって、それだけだよ」
自分は反対したけれど、受け入れてはもらえなかった。
「それだけにしちゃ、ずいぶんと仲が良かったんじゃないの?」
「そんなことないよ」
そう反論したけれど。
グループから少し離れて二人で並んで歩いていたのだから、雅也の言い分が分からないわけじゃない。
「雅也こそ、キャンプに来るなんて言わなかったじゃないか」
まさか、ここで会うなんて思わなかった。
「友達と約束があるって言っただろ?」
雅也がしれっと言う。その時は引け目もあったから詳細は聞かなかった。
「……楽しんで来いなんて言って、最初からそのつもりだったんだ……」
雅也が仕組まなきゃできないことだ。
「偶然だって言っただろ?」
「そんなわけないだろ?」
卓巳は雅也を見た。
場所も日程も偶然なんてありえない。それに教えたのだから雅也は事前に知っていた。
「偶然だよ。俺は卓巳からもらったパンフレットを学校に持っていってキャンプも面白そうだと言っただけだ」
雅也は地面に落ちていた枝で、焚き火を突付いた。火が一瞬強く燃え上がる。
「それだけで日にちまで重なるなんてことないだろ!」
一ヶ月半もある夏休みで日にちまで重なるなんて偶然じゃ有り得ない。
「この日しか空いてないって言っただけだよ。違えば来る気はなかった。予約を取ったのも俺じゃないし、手配も何も俺はしていない」
「でも……」
雅也の意志は確実にあったと思う。
「俺と一緒にいるのが嫌なのか?」
「そうじゃないよ」
ただ、だまし討ちみたいにされたのが納得できないだけだった。
合同でやることが決まったら、その後の雅也の指示はてきぱきしたもので、予定外だったろう女の子達は炊事場で野菜切りの仕事を与え、後はバーベキューとカ レーに分けて、自分は飯盒の面倒を見るといい「卓巳もな」と指名してきた。
誰も反対できる要素のない仕切り方で、野菜切りが終わった女の子たちも、自分で切った野菜を持って二つに分かれていく。その様子を傍目に見ながら、卓巳は ぐつ ぐつという飯盒を睨んでいた。
「ちゃんと見てろよ」という言葉を残しどこかへ行った雅也の様子を祥子は見ていたのかもしれない。祥子は謝りに来てくれただけなのに、不快な思いをさせて しまったかな、と思った。

「楽しそうじゃないな」
雅也がぽつりと言う。
「驚き過ぎて何がなんだか分からないだけだよ」
これは現実なんだろうかとさえ思ってしまう。
「来て良かったよ」
雅也がため息交じり言う。
「……いいところだろ?」
空気のうまさはこういうところに来ないと味わえない。
二人で来ようと言ったのに。その必要はなくなってしまったみたいだ。
「そんなことじゃない」
雅也が笑う。
「お前を取られるのは嫌だからな」
雅也がそっと手を握ってきた。

こんなところで? と思いながらも卓巳は雅也の手を払いのけることができなかった。
「僕は雅也が一番大切だって言っただろ?」
もしも信じてもらえていないなら空しい。
「じゃあ、あの橘祥子ってやつは?」
呼び捨てだった。
「なんでもないよ」
どうかなろうなんて気は無かった。
「まあ、いいさ。お前は俺のものだ」
手をぎゅっときつく握ってくる。
いつもなら雅也に触れらたら嬉しいのに、胸にあるもやもやがそれを打ち消していた。


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