卓巳が家に帰った時、雅也はいつものように居間で本を読んでいた。
「キャンプ、決まったんだ」
卓巳は雅也の隣に腰を下ろした。
決まったらすぐに教えて欲しいと言われていた。
「いつ、行くんだ?」
雅也が本を閉じて、顔を向けてくる。卓巳が日にちを言うと、雅也は口の中で繰り返していた。
「場所は?」
聞かれて、鞄を開けるとパンフレットを取り出した。
「ここだよ」
四つ折になっているパンフレットを開く。雅也が知りたいということは何でも言うつもりだった。許してくれたのだから、せめてそれくらいはしたいと思う。
ただ。
「何人で行くんだ?」
雅也がパンフレットから顔を上げた。
「五人だよ、野郎ばっか」
一つ嘘を吐いた。
「そうか」
雅也がまたパンフレットに視線を落とす。
―― ごめん
正直には言えなかった。
女なんかいなくてもいいじゃんと卓巳は言ってはみたけれど、そんなのは瞬殺された。
二泊三日のキャンプは十五畳のコテージに寝袋で雑魚寝すると言う。
男五人に女五人なんて、口が裂けても雅也には言えない。男と女の人数を合わせたんだと言われ最近付き合い悪いんだから付き合えと強く言われ、断ることもで きなかった。
「色々、準備しなきゃいけないだろ?」
パンフレットを読みながら雅也が言う。
「あ、別にないよ。着替えぐらいで、キャンプに必要なものは友達が都合してくれる」
寝袋もあるところにはあるもんで、友達に伝を頼っていくともう使わないというものがあったりした。
「川原の傍で夜空もきれいらしい。行ってみて良かったら、次は一緒に行こう?」
雅也の顔をうかがいながら、卓巳は続けた。
ただの気休めな言葉かもしれないけれど、まんざら嘘でもなかった。
「そうだな」
雅也が笑ってくれて、卓巳はほっとした。

「もう……大丈夫か?」
雅也が視線を伏せる。雅也が心配していることの見当はついた。
「うん。もうなんともない」
傷になったところはもう痛みもないし違和感もない。
「そうか」
雅也が小さく息をつく。
強引に部屋に連れていかれた日から、雅也が触れてくることはなかった。
「雅也」
卓巳は雅也の手に触れた。ぴくっと体を震わせた雅也は卓巳の手の中で自分の手をぎゅっと握りこんだ。
「大丈夫だから、そんなに気にしないでよ」
また乱暴にされたいかと言われれば正直嫌だけれど、雅也が何の理由もなくすることだとは思えない。
同じ人間じゃないから心の奥底まで分かるわけではなくて、雅也には雅也の理由があったのだろうと思う。
「今夜は抱いてよ」
卓巳は雅也に耳打ちした。
それで雅也が感じるという不安を拭えるわけでもないと思うけれど、本心ではキャンプに行くことを賛成しているわけじゃないと思う。
それに、ひとつ吐いてしまった嘘があるから、うしろめたい気持ちがあった。


ひとつのベッドに二人で入ったのは久しぶりだった。
「本当に大丈夫なのか」
雅也の手がいつもより優しく窄まりに触れる。
「大丈夫だよ」
少しぐらいの我慢ならしなきゃいけないと思う。
「キャンプのことがあるからか?」
雅也に聞かれて、卓巳は答えられなかった。
「お前こそ、気にするなよ。楽しんでくればいい」
窄まりを撫でていた手が離れて、背中をぎゅっと抱きこんでくる。
「今日はいいよ。そんな気にはなれない」
雅也はそう言ったけれど、卓巳は雅也のものを下腹部で感じていた。
「いいよ、本当に」
卓巳が言うと、雅也は小さく笑った。
「このまま、朝まで」
雅也が髪を梳くように撫でてくる。
触れる肌は暖かくて気持ち良かった。雅也の息づかいに感じる安らぎに、卓巳の意識はすぐに落ちていった。

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