雅也に体を入れ替えられて、卓巳は上から唇を塞がれた。ニ三度啄ばむように触れた唇が離れていく。
「卓巳だ……」
雅也が熱い息とともに声をもらす。
「他に誰がいるんだよ」
卓巳が不満げに言うと、雅也はふっと笑った。
「……何か、あったんだろ?」
雅也の手がパジャマのボタンを外す。卓巳も雅也のパジャマに手を伸ばした。
「ん」
言っていいのか、少し躊躇われた。
「何? 言えよ」
雅也の手が止まる。黙っていることはできないと卓巳は思った。
「沙紀が学校まで会いに来た」
その言葉だけで、一瞬で雅也との間の空気が堅くなった。
「あ、なんでもないんだ。ただ、沙紀とのことはだめだったと僕から雅也に言うことになっていたのに、結局言えてなかったから、それで、どうなってるのか聞
きにきただけなんだ」
卓巳は思わず言い訳を口にしていた。
「それだけ?」
雅也の手は止まったままだった。
「あと、由果さんのこととか聞いた。雅也とはだめになったって」
「他には?」
厳しい詰問調になってくる。
「好きな人はいるのかって聞かれた」
「なんて答えた?」
「今はいないって」
「いない、のか?」
声が優しくなる。
「分からないけど……キスしたいのは雅也だけかもしれない」
「キスだけ?」
唇がそっと触れてくる。
「雅也が欲しい……」
唇が触れているまま言葉に出した。
それは許されないことかもしれないけれど、体の奥は熱い。
「俺も、卓巳」
雅也が手早くボタンを外していく。露にされた肌に唇を落とされて、雅也に触れられた後が熱が持つ。
「お前に彼女ができれば、諦められるかもしれないと思った」
肌を唇で啄ばむようにしながら、雅也が呟くように言う。
「笹井に似てただろ?」
訊かれて、卓巳は予想が当たっていたんだと思った。
「ん」
似ていたけれど、今になってみれば笹井に対する気持ちも怪しい。好みだとは思う。かわいいと思った。けれど、それは、雅也が自分の傍にいてくれることが前
提だ。
「やっぱり、笹井じゃないとダメってことか?」
「違うよ」
卓巳は雅也の首に腕を回した。
「でも、笹井は好きだったんだろ?」
雅也が顔をあげる。
「雅也の次に、ね」
そう思えば全ての辻褄があう。いつでも、一番は雅也だった。
「それを最初に言えよ――――」
ぎゅっと抱きしめられた。
下腹部に雅也の熱を感じる。自分の熱も体の奥の高ぶりも感じていた。
「はぁ――――」
熱い息が零れる。
お互いに脱がせあって、体を包むものは何も無かった。直にお互いのぬくもりを感じていた。
――――いいのか?
頭の中で問いかけてくる声がある。
いいとか悪いとか、そんなことは分からなかった。ただ、望むものがあるだけだ。
あの時も。初めて雅也に気持ちを告げられた時も、こんなことはあっちゃいけないんだと思った。あの時は、そう思って雅也を拒んだ。
今は?
拒める自信はない。
自分から望んだことだ。今更、どんな理由で拒めるというのだろう。
足を大きく開かれて雅也に全てを見られていた。
くちゃくちゃと体の中をかき回す指が抜かれたと思ったら、腰を持ち上げられてあてがわれたものを感じた。
――――本当に、いいのか?
頭の中で声が響いて、卓巳は思わず体を捻るように引いた。
「……卓巳?」
一瞬沈黙があって、覆い被さってきた雅也の熱い息が耳にかかる。
「嫌なのか?」
訊かれて、卓巳は強く頭を振った。
「嫌なんじゃない」
「なら――――どうして?」
汗で張り付いた前髪を雅也の指がはらう。
「だって……いいのかな」
「何が?」
「普通にあることじゃないよ」
遠い昔、それは禁忌であったことだ。今でも蔑まれていることではある。
「だから?」
「いいのかな……」
今ならまだ引き返せるかもしれない。
「お前が俺に抱かれたからって、何か変わることがあるのか?」
熱い息が首筋を撫でる。
変わる?
そんなものは思いつかない。
朝が来たら学校へ行って、いつもの日常が始まるだけだ。
「ないだろ?」
「ん……」
雅也と兄弟であることも変わらない。言わなければ誰にも分からない。誰も何も変わらない。
「だろ? だから、いいだろ? 俺はもう、限界――――」
ぎゅっと体を抱きしめられると、圧迫感を感じた。
「あ……」
自然に体が反って、中に雅也の存在を感じた。
「卓巳は、俺のものだろ?」
押し開くように熱いものが入ってくる。
「んっ……」
目蓋が熱くなってきて、零れたものは頬を伝った。
「卓巳」
熱い吐息が混ざった声が暗闇に響く。
「たくみ……」
切なげで苦しげな声が肌を撫でていく。
「たく、っ……」
揺らされる体は全て飲み込んで落ちていく。
「……まさ……やっ」
体の奥を熱くするのはまぎれもなく愛するものだった。
初めて知った愉悦のはずなのに、酷く懐かしくずっと待ち焦がれていたことのように卓巳は感じた。