孝己が快感の余韻に浸っていたら。
「お前、早すぎ」
裕が文句を言った。
「だって……」
両方から受けた刺激を逃す術なんて知らなかった。
「俺もでちゃったじゃないか」
――――え?
自分のことに精一杯で分からなかった。太腿にぬるっと湿り気を感じたけれど、それが裕のものなのかジェルなのか分からなかった。
「あったかくて、適度に湿り気があって、ぎゅっと締め付けてきたら、我慢なんてできるわけないだろ」
そんなこと言われても――――。
「初めてなんだぞ。もっと楽しみたかったのに」
裕が残念そうに言う。
「まだ、終わってないよ」
裕のものはまだ体の中にあった。
「このまま、またしようよ」
孝己は腕を伸ばして裕の背中へ回した。触れた裕の背中は汗ばんでいた。
「大丈夫なのか? お前」
裕が心配そうな声をだす。
「うん。だって、責任とってくれるんでしょう? 立てなくなったらおんぶしてくれるよね」
朝まで時間はまだたっぷりある。
裕がふっと笑った。
「お姫様だっこしてやるよ」
裕が唇を塞ぐ。舐められて、絡められて、吸われて、今出したはずの熱はすぐに溜まってくる。
大好きな人が自分の中にいた。


結局、夜はうつらうつらしながらずっと絡み合っていた。当然、昼間は眠くて湖畔のベンチに座って二人で居眠りして、不思議なもので夜になると眠けはとんで いた。
「二日続けてなんてだめだよな」
なんて弱気な裕に。
「したい」
孝己から言った。
こんなチャンス次はいつか分からない。家なんてなんていつ誰が飛び込んでくるか分からない。
組み敷かれて揺らされて体の中に熱を感じて、幸せだと思った。
裸のまま抱き合いながら、過ごした夜は短く感じた。


家族に説明できる程度の観光をして。
帰りの列車は少し辛くて、孝己はそれをちょっと零した。
「来いよ」
裕に手招きされて孝己が隣で行くと抱き上げられて、席に座りながらお姫様抱っこなんかをされた。体は楽だったけれど。
「ちょっと恥ずかしいよ」
周りに何人かおじいさんやおばあさんがいた。
「旅の恥はかきすてって言うじゃん」
裕はあまり気にしていない風だった。まあ、二度と会うこともない人だと思うし、周りが見えないのか見ないのかあまり気にもしてるようでもなかった。
さすがに人が増えてくると遠慮して、向かいの席に移ると孝己は突き出た小さなテーブルに腕を載せて腰を浮かせるように座った。
「ごめんな」
裕がすまさそうに言う。
「ううん。僕が望んだことだから」
孝己はかぶりを振った。体は少し辛くても、胸の中は温かくて幸せだった。深い繋がりができたみたいで嬉しかった。
荷物は全部持ってくれて、ゆっくり歩いてくれて、心配そうに見てくれるのもすごく嬉しかった。大切に思っているのは自分だけじゃないと感じた。
名残惜しかったけれど次の日も会う約束をして、孝己は裕と別れた。

晩御飯を食べて風呂に入って、今日は一人なんだなあと思いながら孝己が階段をあがって自分の部屋へ入ろうとしたら、ちゃんとドアが閉まってなかったらしい 七海の部屋から声が漏れてきた。
「そうそう、孝己もそう言ってた」
なぜかでてきた自分の名前に、孝己は立ち止まった。七海が携帯で話しているらしい。
彼氏?
そう思って立ち聞きなんてよくないぞと思いながらも孝己は耳をすましていた。
「今度行ってみようよ。ほんと人いないみたいだし、露天風呂あるっていうし」
やっぱり彼氏と行くつもりだったのかと確信を得ながら、七海の彼氏は自分が知ってるやつなんだと思った。知らないなら名指しではなくて弟って言うんじゃな いかと思う。

「やだ、隆ったら」
甘えたような七海の声に、孝己は体が固まった。
――――嘘だろ?
部屋に飛び込んで七海に問い詰めたい衝動に駆られながら、孝己はぐっと足を踏ん張った。
「ええ、うちはばれてないよ。裕は? 気づいてそうもない? 」
次に聞こえた声に、孝己の疑惑は確信に変わった。
裕の三歳年上の兄は隆といった。


次の日、孝己はベッドにもたれながら漫画本なんかを暢気に読んでいる裕の足をつついた。
「え、何?」
裕が驚いたように本から顔をあげる。
「ねえ、どうしよう」
といったところでどうしようもない。
「何が?」
裕が怪訝そうな顔をする。
「七海の彼氏って、隆兄さんみたいだよ」
兄さん、孝己は小さい頃から裕の兄をそう呼んでいた。
「へえ」
裕はちょっと驚いた顔をして。
「それって、好都合じゃん」
にやっと笑った。
「なんで?」
とても好都合とは思えない。
「俺達の分の子供も、七海姉ちゃんに生んでもらおう」
「はあ?」
「きっと、かわいいよ」
まるで何でもないことのように、裕はまた本へ視線を戻した。
――――好都合なのかな?
兄弟同士でできてしまうことに戸惑いを覚えた孝己と裕の反応は違った。
でも。
裕がそう言うならそうなのかなと、孝己は思えてきた。
裕の言葉はいつでも胸の中へすとんと落ちてくる。昔から不安を取り除いてくれる存在だった。

きっと、これからもそうなのだろうと思う。
きっと、ずっと――――。


孝己が特にすることもないので、ぼんやり裕を見ていたら。
「せっかく気を逸らせてるのに、邪魔するなよ」
漫画本に視線を向けたまま裕がぼやいた。

Fin.


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