「ん……」
唇を啄ばまれ息があがる。立ったままパジャマを脱がされて、孝己の心臓はばくばくと鼓動を速めた。裕の手が肌を滑って背中へ回され、ぎゅっと抱きしめられ
る。
下腹部に裕の熱を感じて、同じように裕にも自分の熱が分かってしまっているだろうと孝己は思う。触れ合っているところから、裕の鼓動が響いて聞こえた。
そのままベッドに倒れこむように押し倒されて、裕が真上から見下ろしていた。
裕はふっと笑うと、前髪をかきあげて額に唇で触れる。熱い唇を感じて、孝己は下半
身がどくんと疼いた。
邪魔者はいない。
いよいよ?
不安と期待が雑じる中、孝己は裕のシャツのボタンに手をかけた。
裕の唇が額から目尻に、頬にと降りてくる。啄ばむように触れられて、息が荒くなっていく。耳の中で自分の吐息が響く。
自分だけが感じてしまうのが嫌で、孝己は裕のシャツのボタンを外すと、アンダーシャツの下から手を入れて肌に触れた。しっとり吸い付くような肌に手を這わ
せ、ぶ
つかった突起を指で弾く、二度、三度。
体をぴくりとさせて裕が「うっ」と小さな声をもらした。
「孝己っ」
非難するような声を出すと、裕は急に起き上がって、シャツとアンダーシャツを脱ぎ捨ててベッドの脇に放った。
「感じた? 」
感じてくれたなら、嬉しいと思う。
「お前が先」
訳がわからないことを言って、裕は仕返しとばかりに孝己の胸の突起を口に含んだ。
「……っ、反則、だよ」
孝己は逃れようと体を捻ろうとしたのに、しっかり押さえ込まれて逃げられなかった。裕の舌先が先端をしつこく何度もくすぐる。
「あっ――――いや」
正直それほど感じるわけじゃないだろうと思っていたのに、孝己は体の奥からぞわぞわしてきて、じっとしていることができなかった。
「あ、やめ――――ひろ……」
これだけでこんなになってしまうのが情けなかった。逃れたくても、押さえ込まれて逃れられなくて、否応無しに快感が襲ってくる。
「いや? 」
突然離されて、今まで裕の口に含まれていたものが空気に触れた途端冷たくなって、それがなんだか虚しく感じた。
「やめろなんて言ってないだろ」
思わず文句がでる。
「言ったじゃん。やめろって」
「あれは、違うよ」
言葉のあや? それとも違う。けれど、本気で嫌だったわけじゃない。
「違うんだな? 」
裕が念を押す。
「そうだよ……」
後には引けなかった。
「そうか」
裕はにやっと笑うと、手を伸ばして机の引出しをあけた。勝手知ったるなんとやらってやつだ。
中からチューブを取り出すと、蓋をあけ中身を自分の掌に落とした。
「ここは? 」
内股から入れた裕の手が窄まりを撫でる。何をするのか分かっていたのに、孝己の体はぴくっと震えた。
「そんなこと、訊かないでよ……」
解さなきゃ入れられないことは知っている。
「いいんだな? 」
聞いたくせに答える間もなく、唇を塞がれた。
「……ん」
塞がれた口はすぐに舌が入ってきて、口内を舐めまわすようにする。手は手で窄まりを解すように撫で、指先をぷつりと中へ入れた。
一瞬息が止まって、体が固まった。体の神経はすべて裕の指を追っているようだった。
入ってきた指が内壁を撫でる。
「んんっ……」
裕の指が刺激する、その感触が直に伝わってきて、体は意志とは関係なく反応してしまう。優しく撫でられて、それが裕の手だと分かっているから、余計に敏
感になってしまう。誰にも、自分さえも知らないところを裕が暴いていくようで恥ずかしくも思えた。
下からの刺激だけで、孝己はいっぱいいっぱいなのに、裕は舌先で口内をくすぐるようにし、舌をからめて吸い上げる。
与えられる刺激を耐えているのが精一杯だった。熱い息が零れ、手は裕の肩へかけたまま何もできなかった。
そのうち、温まったジェルが裕が動かす指に合わせて音をたて始めた。ぴちゃぴちゃと淫猥に聞こえる音を自分が出しているのかと思うと、恥ずかしくなって、
更に体は熱くなってくる。
「まだ? 」
孝己は思わず言葉にして訊いていた。自分だけじゃ嫌だ。早く一緒に――――裕の感じる顔も見たい。
「だいじょうぶ、かな? 」
返ってきたのは情けない返事だった。
「大丈夫だよ」
根拠はない。けれど、体は欲しがっていた。繋がりたいと思っていた。
指を抜かれたそこは急に空っぽな感じになって、腰を持ち上げられ窄まりに押し当てられたものは裕のものだと思った。それがくっと押入れられたときに、鋭
い痛みが孝己の体に走った。
「ぃ……たっ――――」
孝己は息を吸い込んだまま、吐くことができなかった。
顔は歪んで、背中が仰け反る。体は固まったように動けなかった。
「孝己? 」
怪訝そうな声を出しながら、裕が抜いてくれたおかげで孝己はやっと息をすることができた。額に脂汗が浮かんでいた。これほどの痛みを伴うとは思っていな
かった。
呼吸が荒くなる。それは、熱のせいではなく、痛みを逃がすためだった。もうそこには無いはずなのに、じりじりとした痛みが残っていた。
「大丈夫か? 」
裕が顔を覗きこむ。裕の問いに孝己は、大丈夫、とは言えなかった。
入れられたのは、きっと、ほんの少しだ。それだけであれだけ痛いのだから、全部飲み込んだらどうなってしまうのだろう。考えただけで冷や汗がでてきそうに
なる。
「だめか? 」
答えとしては、そのどちらかを選ばなきゃいけないのに、孝己はどちらへも返事ができなかった。
「孝己? 」
裕が頬を撫でる。目をあわすことができなくて、孝己は視線を彷徨わせた。
情けないと思う。ついさっき、大丈夫だと言ったのは自分だった。なのに、今、もう臆病になっている。本当に自分は裕を受け入れることができるのかさえ不安
になる。
ふと裕のものが目に入った。
「あ……」
思わず声がでて、孝己は裕にしがみついた。
「どうした? 」
裕の手が優しく頭を撫でる。
「なんで、そんなにでかいんだよ」
でるのは文句だった。繋がることを簡単に考えていた。好きなやつを受け入れることは当たり前のことだと思っていた。
「そんなことないだろ」
裕が不服そうな声をだす。
「そんなにでっかくなるなんて思わなかったよ」
風呂に一緒に入ったことはあっても、おもいっきり勃ちあがったものなんて見たことはない。
「普通だろ」
「普通じゃないっ!」
普通であってなんて欲しくない。
「なら……それはお前が可愛すぎるからだよ」
裕がぎゅっと体を抱きしめてきた。
「そんなのっ」
事実がどうかは別にして、こじつけにもなっていない。
「だってさ。なんでこんなに、すべすべしてんだよ」
裕が肌を撫でる。孝己はぞわっとして体をひくりとさせた。
「裕だって……」
人の肌はみんな同じなわけじゃないと分かった。しっとりと吸い付くような肌は自分のものとは違う。
「目なんかうるうるさせちゃって……」
はぁ――――と裕は大きく息をついて、切なげな顔をして頬を撫でる。
それは痛かったからだ――――と思っても孝己は口には出さなかった。
「もうちょっと小さくなんないの? 」
そうしたら、がんばれると思うのに。
「そしたら、入んないだろ」
だからさあ――――なんていうのは言っても始まらない。八十パーセント縮小して欲しいなんて言ったところで、できるのは人工的なものだけだ。
欲しいのに。欲しいと思うのに。
「やっぱ、だめ? 」
裕が耳元で残念そうに囁く。下腹部のでっかいものがふるふるしていた。
孝己はかぶりを振りながら、顔は泣きそうだった。
せっかく来てくれて、邪魔ものもいなくて、欲しいとは思うのに、不安は大きい。裂けてしまったら? どうなるんだろう。
顔を覗き込んできた裕は、諦めたような顔をしてため息をついた。
「ま、いっか」
言いながら、孝己の手を取ると、二人のものを束ねて手を重ねた。
「とにかく、イかせてくれよ」
束ねたものを孝己の手も一緒に擦りあげる。
「あっ……」
裕の熱いものが触れていて、裕の手で直接刺激されて、血液も神経も全部下半身に集まってしまったようになって、孝己は頭ん中が霞んできた。
「んっ……あ、あ、」
切れ切れの声が、無意識にでてしまう。体の奥でくすぶっていた熱は簡単に大きくなって、もっともっとと急かす。裕の手で動かされていた自分の手も、そのう
ち、意志をもって動いていた。
「あ、……ね……ひろ……っ、もう、でちゃうよ」
苦しいほどの快感に泣きそうになる。息遣いは荒くても、裕は自分よりずっと余裕があるように見えた。自分だけ先にイってしまうのは嫌だった。せめて一緒に
イきたい。
「も、少し……」
裕の顔が歪む。
「ん……」
放ってしまいたい熱をなだめるように、孝己は何度も大きく息を吐いた。自分の息遣いが空気の中へ溶け込んでいく。その中に裕の声も混じってくる。
「いいよっ……孝己っ」
苦しそうな声を裕がだす。
抑えていたものを放って、孝己の頭の中は一瞬真っ白になった。体の力が抜けて、ベッドに倒れこんでしまうと、裕も同じように、少し遅れてベッドに倒れこん
できた。
横になったまま顔を合わせて、お互い笑った。
「ごめん、裕」
本当はこうなるはずじゃなかったのに、孝己は受け入れられなかった自分が情けなかった。
「いいさ。次はばっちり準備するよ」
裕があっけらかんとした感じで言う。
「ん……」
そう一応頷きながら、孝己は次が少し恐ろしくなった。
「大丈夫だよ。慣れれば、ビール瓶が入っちゃうやつもいるんだから」
不安を見透かしたように裕が言う。
それはそれで問題だろと思いながら。
「うん」
素直に肯いた。
今なら、もう少しがんばればよかったのかな、なんて思ったりする。あの時はイきたい気持ちが大きくて、あせってたのかな、なんて思ったりもする。
「嫌わないでくれよ」
裕が目を細めた。
「なんで? 」
なんでそんな言葉がでてくるのか、不思議だった。
「でかい、とか言うから……」
目をすっと逸らす。
意外だった。
気にした?
誉め言葉にもなりそうなのに。
そんなことで嫌うわけないのに。
そんなことは分かっていると思ったのに。
「大好きだよ」
孝己は腕を伸ばして背中に回して裕を抱きしめた。触れた肌は汗で湿っていたけれど、それが嫌だとは思わなかった。すぐに抱き返してくれる腕がある。それが
心地よい。
「きっと、慣れるから……」
孝己は裕の耳元で呟いた。
言ってから、きっとじゃなくて、絶対だな、と思った。
それは、そんな遠くない未来であって欲しいと孝己は思った。