哲平の疑問
「ただいま−」
塾から帰ってきた哲平は靴を脱ぎながら居間へ向かって声をかけた。
「おかえり!」
元気に居間から顔を出して答えてくれたのは智也だった。
「今、遼平さんがラーメン作ってくれてるんだけど、食べる?」
「う……うん」
返事を躊躇ってしまった。
――――ここって俺んちだよな
そんな疑問が哲平の頭を過ぎる。それほど、智也は家に馴染んでいた。
土曜日は親がいないことが多い。買い物だとか、ゴルフだとか、ホテルのランチだとか、平日は仕事をしている両親揃って遊びに行ってしまう。
ここ最近、そんな時はきまって智也がいた。
智也は塾をやめて、遼平に個人的に勉強を教えてもらっていた。
なんで、そんなことになってんの?
そうは思うけれど、智也は遼平の教え方がよく分かるとか言うし、遼平は暇だからとか言っている。
なんか変と思いながら、哲平は幼い頃からの遼平への恨みごとを思いうかべた。
自分が気に入るやつは、みんな遼平が取っていく。
バレンタインデーにもらうチョコもラブレターの数も自分の方がはるかに多かった。けれど、哲平が気に入ってるやつに限って、チョコもラブレターももらえな
くて、もらえるのは「いいよね。哲平のお兄さん」という言葉だったりする。
女だけじゃなくて、友達もかよ。とふくれてみても状況は変わらない。
おかげで彼女も作れない。
彼女に乗り換えられたら、どん底まで凹みそうだと思っていた。
「じゃあ、すぐ来てね」
嬉しそうに言うと、智也はすぐに顔を引っ込めた。
一時期、智也はすごく暗い顔をしている時があって、それはストーカーに狙われていたからだった。
実は、その時哲平は違うことを考えていた。
智也が時々暗くなって遠くを見ているような感じになったのは、斉木がアイちゃんの超レアグッズをくれると言った時からだった。
グラビアアイドルなんて興味なさそうなのに、あの時は妙に斉木と何を話していたのかと、くってかかってきた。日頃声を荒立てたりしない智也が初めて叫んだ
の
を聞いた。
斉木はひとつしかないから絶対秘密だぞと言うし、周りに知れたら欲しがるのは二人や三人じゃない。
けれど、秘密なんて作ったから智也が拗ねているのかと思って、思い切って打ち明けたのに返ってきた返事は「そうなんだ」というがっかりしたような一言だっ
た。
それからも智也の様子は変わらなく、小さい弁当箱の中身を半分も食べなくなった時は絶対おかしいと思った。
話を聞けばそりゃ元気もなくなるだろと思う内容で、もっと早く相談してくれれば良かったのにと思った。
そのストーカー事件が解決して智也は変わった。
幸せが服着て歩いてるみたいに、いつもにこにこしている。
きっとこの後は智也を送りに行くと言う遼平と二人でドライブに行くのだろうと思う。
毎週のことだ。
時には、帰りが夜中になることもある。
「まさか……ね」
ふっと抱いてしまう疑問を哲平は打ち消した。
兄貴と友達ができているなんてことは、考えたくなかった。
Fin.