「好きだよ」
遼平が耳元で囁く。
今までは聞き流してきた言葉が胸を熱くする。
「ん……」
智也が誘うように顎を上げると、唇がそっと触れてくる。
なんで嫌だったんだろう、と思う。
今は疑問でしかない。
遼平の手が合わせから入って肌を優しく撫で、唇は首筋を啄ばみながら降りていく。
「あ……」
自然に声が漏れてしまう。自分が欲しいのはこの人だと、智也は思った。

遼平が自分の指を丹念に舐めると智也の足を割り手を窄まりへ伸ばした。そっと撫でられて智也の体はびくっと震えた。けれど、いつもならすぐに天を仰いでし まうのに今日は違った。きっと、ジェルがないからだと智也は思った。
撫でる遼平の手が中へは入ってこない。時折躊躇いがちに押し入れようとして、諦めたように離れる。
「いいよ。僕なら大丈夫だから」
家を出てきた状況から準備をしていたとは思えなかった。今まで全てを任せていて、自分はただ与えられる快感に酔っていただけだった。
望んだのは自分なんだから、少しは我慢しないといけないと思う。
「無理だよ」
遼平は小さく笑うと、体を起こして智也の足を開き体を内側へ入れた。
そのまま入れる?
指さえ無理だと言ったのに、そんなことをするとは思えなかった。全部見られてしまうこの形を智也はあまり好きではなかった。
遼平が股間に顔を埋めようとするから、今日は諦めて口でしてくれるつもりなのかと思った。
「あ、嫌だ……」
智也は体を引いた。
それなりの愉悦はあるけれど、内側を突き上げられることを覚えてしまった体には物足りなかった。
少し痛いのは我慢しても、遼平が欲しかった。
逃れようと智也が体を捻ったら遼平に足を押さえられた。
「ちょっと大人しくして」
腰を持ち上げられて、窄まりに熱い息を感じた。
「えっ、なに、やっ」
宙に浮く足は力なんか入らなくて、動くことさえできなくなっていた。
「あ、やめっ……」
湿った音がして、窄まりをさわさわと撫でられる。
「ねえ、あ――――」
そんなところ舐めないでくれよ、と思うのに何も抵抗はできなかった。
「はぁ……、あん、っ……あ」
体の力は抜けていって、与えられる刺激だけを感じていた。
いつもそうだ。自分の意志なんてなくなってしまう。
「大丈夫かな?」
遼平が顔をあげる。
緩く立ち上がるものは先端に滴をたらしていた。遼平はそれを手に包みその滴を指に絡めるようにすると体を抱き込んでくる。程なく窄まりに異物感があった。
「んっ……」
「痛い?」
気遣ってくれるのはいつのことだ。
「だい……じょうぶ」
我慢できる痛さだった。
「やっぱり無理かな」
遼平がため息をついて、指を抜いた。
「やだ……がまんするから」
智也は遼平にしがみついた。もう、体は欲しがっていた。
「ちょっと待ってろ。なんか探してくる」
髪をくしゃっとなでると、遼平は体を起こした。
「あるの? 」
離れていく背中に智也は声をかけた。
それ用のグッズは部屋にある自動販売機で売っている。けれど、それらは大層な値段がするくせに中身はよく分からない。
「なんとかなるかな」
遼平が洗面台から小さなパッケージを持ってきた。
「何? 」
「クリーム。顔につけるやつだから、それほど刺激は強くないだろう」
遼平は封を切ると指にとった。
少し手で馴染ませて、内股から手を滑り込ませて窄まりへ撫でる。
「あ……」
ぬるっとした感触がした。
「いつもより辛いかもしれないけど」
智也はかぶりを振った。
「やだ、やめるなんて言わないで」
「やめられないよ、今日は」
差し込まれた指の異物感はさっきよりも楽だった。
「覚悟しろって言っただろ?」
指が体の内側をかき回す
「うん……」
遼平の指が快感に触れる。
すぐに意識は掠れていって、ただもう全てを遼平に預けた。
揺らされて、突き上げられて、夢のような愉悦に浸っていた。


離れていこうとする体に智也は腕を回した。
「もう少し……」
時間に限りがあるのは分かっていた。でも、ほんの少しでもいいからまだ離れたくなかった。
遼平が汗で張り付いた前髪を払う。
「……本当に、俺でいいの? 」
眉を寄せ切なげな顔をした。
強気だった、脅してまで自由にしようとした人には似合わない言葉だと思った。
もしかして、後悔してた?
それほど欲しいと思ってくれた?
きっかけはどうであれ、智也が今腕の中に全てを預けられるのは遼平だけだった。
「うん」
心に素直に答えた。
会わないことがいいんだと欠片でも思われるのは嫌だった。
「哲平も、きっとお前のこと気に入ってるよ。お前の気持ちに答えてくれるかもしれない」
なんで今更そんなことを言うんだよ、と思う。
「自分のことを哲平と大差ないって言ったのは、あなただよ」
人間であるだけで3%の差もない、だから兄弟である自分達は誤差ほどの差もないと遼平は哲平と自分のことを言った。
「でも、俺はその大差ないやつにとんでもないやつだって言われるやつだよ」
だって、とんでもないやつじゃん、と心の中で呟いて、それでもこの人がいいのだと思う。
「仕方ないよ、傍にいて欲しいんだから」
「こんなやつでもか?」
「僕とだって3%の差もないんでしょ。だから、きっと、あんまり変わらないよ」
それは大きな差かもしれないけれど、数字にしたらちっぽけなものに見える。
「智也……」
肩口に顔を埋めて、息ができないくらいぎゅっと遼平の腕が抱きしめてくる。触れ合うところ全てで包まれていくことを感じる。体だけじゃない、心ごとすっぽ り、この人は受け止めてくれる。

「笑顔を……見せてくれるか?」
顔を埋めたまま、遼平が言う。
え? と思ったら、遼平は体を離して顔を覗き込んできた。
笑顔?
どうするんだっけ。
口元を緩めて笑おうとして、やっぱり顔が引きつってしまった。哲平を好きだったときとは違う。絶対にこの人を失いたくないと思うから、楽しいより苦しい、 嬉しいより切ない。
「もう少し待って」
無理だと思って諦めた。ひきつったまま、どうしたらいいのか分からなかった。
今はちょっと無理だけどちゃんと笑えるようになる。その日は遠くないと思える。
「待つよ」
遼平が笑ってくれる。つられるように笑っている自分がいた。



清算機の前で智也は財布から紙幣を一枚取り出して遼平に渡した。
「これ使って」
「いいよ」
遼平が手を振る。
「使って欲しいんだ」
押し付けるように手に握らせた。
お守りのように財布に入れられていたこれはもう要らない。
「いいのに」
躊躇いがちに紙幣を受け取った遼平の腕に、智也はしがみつくように腕を絡ませた。

――――もう離したくない
この腕も体も、心も。



Fin.



番外掌編 哲平の疑問

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